ASEANは半世紀前の設立以来、目覚ましい成長を遂げてきた。現在、10か国から成る東南アジア諸国連合は、世界第3位の労働力、第5位の付加価値ベースの製造業経済、第7位の市場を擁している。2012~16年の域内成長率(年平均成長率)は4.4%で、米国やドイツなどの先進国を上回った。一方、隣国の中国には及ばなかった。
今後50年を見据える地域にとって、第4次産業革命がもたらす破壊的な影響への対応は、優先課題に据えなければならない。ASEANの競争優位は岐路に立っている。
現状
製造拠点としての魅力を保つうえで、この地域は主に3つの課題に直面している。第一に、多くのASEAN諸国は技術変化への対応が遅いと見られている。製造業の優位性を維持するために必要な変革のペースを加速できていない国もある。基本的な製造に依存し続けている国もあり、付加価値率は、より高度な工業化を遂げた経済圏に比べて大幅に低い。
第二に、従来は競争力の源泉だった低い労働コストは、もはや優位性を守る手段にも持続可能な手段にもならない。ASEAN加盟国は、生産性の高い国と、さらに安価な労働力を提供する国との間に挟まれる状況が増えている。最後に、生産性を高めコストを削減する新たな製造技術が、世界各地で新たな競争優位の源泉として台頭している。

要するに、第4次産業革命(4IR)が製造業のルールを書き換えている。人工知能やビッグデータ分析などの破壊的技術が、世界の生産システムを変革している。その影響は、工場の工程からグローバル・サプライチェーンの管理に至るまで、あらゆる面に及んでいる。自動化が加速し、そのコストが急落するにつれ、安価な労働力は、製造業への投資を呼び込むための持続可能で効果的な戦略ではなくなる。
近隣諸国に遅れを取らないために
より広いアジア地域において、ASEANの競争力を脅かす可能性のある要因はほかにもある。西側では、インドやバングラデシュなどの国々が、はるかに速いペースで変革を進めている。オックスフォード・エコノミクスがアジアの人口上位30都市を対象に行った最近の調査では、2021年までにインドの都市が地域最速の経済成長を遂げると予測された。北側では、中国がベトナムやタイに奪われたコスト面の優位性を取り戻し始めている。また中国は、東南アジアの競争相手と比べて、高等教育、労働者の生産性、4IR技術の準備状況と活用において大幅な改善を記録している。同国は、産業の近代化を導く「中国製造2025ロードマップ」を打ち出した。
ASEAN諸国は変革のペースを速めなければ、中国に製造業投資を奪われる恐れがある。ビジネス環境の改善に取り組み、インフラ投資を拡大してきたものの、こうした取り組みをさらに加速する必要がある。新技術を導入し、労働者がそれを扱えるよう技能を高めなければならない。これを怠れば、製造業投資と雇用の喪失は避けられない。国連の国際労働機関は、自動化によるリスクにさらされる労働者が最も多い国として、ベトナム、カンボジア、インドネシアを挙げている。
ASEANは現在、世界のエレクトロニクス生産の1割強を担っているが、半導体など、より高度な製品の製造への投資では、台湾、韓国、日本、さらには中国にも後れを取っている。拡大する市場でのシェアを高めるには、加盟国は先進製造能力を伸ばし、投資を呼び込む政策を整える必要がある。
新技術の導入ペースは、需給の力によって生産ネットワーク全体で技術を適用しやすくなるにつれ、加速することが確実視される。しかしASEANでは、4IR技術の導入は主に多国籍企業と大規模な地場企業が担ってきた。したがって、中小企業がこうした変革に参加できるようにし、労働力全体の技能を高めることが、より包摂的で幅広い成長を実現する鍵となる。
協力して取り組む
ASEAN諸国は、変革を加速し、共通の課題を克服する手段として、相互協力も検討すべきである。各国の強みを生かし、相互に相乗効果を生み出す必要がある。そうすることで、経済競争力の面で地域全体の魅力が高まり、加盟国間の関係も強化される。
こうした協力は、ASEANにとってまったく新しいものではない。ASEANはすでに、貿易障壁を引き下げ、最終的には物品、資本、労働力が自由に移動できる共通市場を設けることで、ASEAN経済共同体(AEC)の創設を目指している。多様な経済・政治体制を持つ国々の間で、地域経済統合はなお進行中だが、競争力を高める重要な要素として、AECの青写真に4IR分野の協力を盛り込まなければならない。
ASEAN加盟国間のより広範で深い協力は、3つの明確な成果を目指すべきである。4IR技術の利用可能性と活用を確保するための供給市場の強化、新技術への認知と導入を促す需要の喚起、そして需給のエコシステムを支える人材の再訓練や共通デジタルインフラなど、実現を後押しする基盤の強化である。これらの成果を達成するうえで、民間部門の関与が重要な役割を果たす。

