ここ数年、医療改革に多額の投資を行ってきた国があるとすれば、それは中国だ。しかし、人口の高齢化が進み、すでに3億人が慢性疾患を抱えているなか、急増する医療需要に応え続けるのはほぼ不可能に思える。経済協力開発機構(OECD)の最新データによると、中国の人口1,000人当たりの現役医師数は1.8人で、米国の2.6人、スウェーデンの4.3人に比べて少ない。人工知能(AI)は、過重労働にある中国の医師の負担をいくらか軽減できるだろうか。
中国の逼迫する医療制度
逼迫する中国の医療制度を支える勤勉な医療従事者には、確かに助けが必要だ。都市部の病院では混雑が日常化しており、北京の一般的な外来診療部門には、毎日約1万人が訪れる。農村部で医療施設が不足していることも問題に拍車をかけ、人々は近隣都市の病院に押し寄せている。
フィリップスの『Future Health Index 2018』が示すように、人口規模に対して熟練した医療従事者の数が比較的少ないことは、中国の医療アクセスが調査対象となった他の15カ国の大半に後れを取る主な理由の一つだ。
人口動態の予測も、懸念を深める。中国は世界でもほぼ最も急速に高齢化が進んでいるため、医療需要は今後も増え続ける。国連の推計によると、2040年までに中国の65歳以上の人口は約3億300万人に達する見込みで、これは現在の米国の総人口にほぼ等しい。
しかし、希望を持てる理由もある。
誰もが利用しやすく、負担可能な医療を提供するという決意のもと、中国政府は医療技術の開発を主導している。なかでも最も有望なのがAIかもしれない。
AIの台頭
AIは、ここ数年で飛躍的に向上した計算能力を背景に、大量のデータを分析するのに役立つ。中国がAI開発にとりわけ適した環境にあるのはそのためだ。人口14億人を抱える同国には、膨大なデータが蓄積されている。
中国のAIの可能性を認識した政府は、同国を世界をリードするAIイノベーション拠点にするという野心的な計画を打ち出した。医療は恩恵を受けると見込まれる産業の一つであり、スタートアップ、学術研究、ムーンショット型プロジェクトに数十億ドル規模の投資が行われる。
これは単なる構想ではなく、すでに実現に向けて動き始めている。
2017年、広州市に中国初となる、AIを活用して白内障を診断する診療所が開設された。白内障は眼の病気で、失明の主な原因の一つだ。このツールは、患者のニーズに最適な専門医へ案内することで時間を節約し、より多くの患者を治療できるようにすると期待されている。さらなる臨床試験が必要だが、中国では眼科医療従事者が不足していることを踏まえると、有望な進展だ。
同様の取り組みが数多く進行中だ。北京に拠点を置くコンサルティング会社、億欧智庫(Yiou Intelligence)によると、現在、中国企業約131社が医療分野へのAI活用に取り組んでいる。
医師のための賢いパーソナルアシスタント
医療画像の診断を迅速化することは、AIが中国の逼迫した医療制度の負担を軽減する方法の一つにすぎない。
ある中国人放射線科医は、『ニューヨーク・タイムズ』のインタビューでこう語った。「私たちは毎日、膨大な量の医療画像を扱わなければなりません。負担を軽減しながら効率と精度を高められる技術なら、歓迎します。」
こうしたニーズを重視し、患者の治療成果を高めながら医師の業務負担を軽くする、インテリジェントなアプリケーションの開発に注力すべきだ。何より、目標は医師に取って代わることではなく、日々の業務を支援し、効率的で質の高い医療の提供における医師の役割を強化することだ。
AIと聞いて、人間の労働者に取って代わる自律型ロボットを思い浮かべる人もいる。しかし医療分野では、AIは医師のニーズや働き方に適応する賢いパーソナルアシスタントと考えるのが最適だと私は考える(フィリップスでは「アダプティブ・インテリジェンス」と呼んでいる)。そのように捉えれば、AIによって医療は人間味を失うどころか、より人間味を増すだろう。
現在、AIはすでに医療画像の分析で医師を支援している。AIの高度化が進み、医学知識と統合されれば、より精密な診断や個別化された治療計画を支援できる可能性がある。しかし短期的に最も大きな効果が期待されるのは、病院の業務上のボトルネックの解消だろう。たとえば、患者に関する臨床上重要な情報を医師がすばやく把握できるよう支援することだ。
患者データは通常、互いに異なる多数のシステムや形式で保存されている。上海の中山病院では、200件の非構造化された医療報告書から関連情報をすべて手作業で抽出し、一つの構造化形式にまとめるのに、医師は最長20日かかることがある。
自然言語処理や機械学習といったAI手法を臨床知識と組み合わせれば、臨床上重要な情報をすべて一つのダッシュボードに集約できる。医師は非構造化報告書から情報を取り出す時間を減らせるうえ、患者の全体像を把握するために画面の前で過ごす時間も短縮できる。
人々の身近な場所で医療を改善する
AIは、慢性疾患のある患者が自身の健康についてより多くの情報を得て、医療従事者とのつながりを保つことにも役立つ。
『Future Health Index』によると、中国での遠隔医療の導入率は現在、16カ国平均を大きく下回っているが、中国の人々は、現在受けている医療を補完できる技術の活用に前向きだ。
たとえば、AIを活用した在宅健康モニタリング技術により、体の弱った人や高齢者が医療従事者とのつながりを保ち、必要なときに適切な医療を受けられるようになる可能性がある。糖尿病や高血圧の人も、臨床的に検証されたセンサーや機器を通じて病状を把握できる同様の技術から恩恵を受けられる。
こうした取り組みは、都市部の病院の混雑を緩和するため、地域の基層レベルで医療を改善するという中国政府の目標に合致する。AI技術の普及拡大は、農村部のプライマリケア施設やインターネット接続への投資と並行して進めるべきだ。そうすれば、医療をより公平に利用しやすく、負担可能なものにし、人々が地域に根ざしてより良い生活の質を享受できる。
さらに先を見据えると、AIは肥満など、生活習慣に関連する疾患への対応でも重要な役割を果たす可能性がある。肥満は、中国では約8人に1人が影響を受ける重大な健康問題だ。肥満のリスクが高い人が、スマートフォンを通じて個別に合わせた生活習慣の助言を受ける姿を想像してほしい。人口全体のデータ分析を通じて、特定の年齢層や地域を対象とした公衆衛生上の介入策を検討できる。ビッグデータが大きな効果をもたらすのは、こうした形だ。中国政府が「健康中国2030」計画で示したように、医療制度の重点は治療から予防へとますます移っていくだろう。
協力を呼びかける
より効率的で利用しやすく、予防を重視した医療へと向かうこの歩みを、どうすれば加速できるだろうか。
第一に、より強固なデータエコシステムの構築を最優先すべきだ。AIの品質は、入力するデータの品質に左右される。中国の医療制度には、共通のデータ標準、システム間の相互運用性、そして高度なセキュリティ対策で保護されたデータ交換の改善が有益だろう。2020年までに、健康情報を含む3つのデジタル国家データベースを設立することは、その方向への重要な一歩だ。
第二に、AIなどのデータ駆動型アプローチが望ましい効果をもたらすのは、実証された医療の専門知識と組み合わせた場合に限られる。AIはあらゆる解決策の一部にすぎず、それだけで解決策になることはない。臨床現場の状況を深く理解することが不可欠だ。AIを活用した医療は、どのような形であれ、医師と患者を中心に据え、そのニーズを出発点とし、すでに蓄積されている豊かな人間の知識を土台にしなければならない。
第三に、AIを活用するツールは、最高水準の規制基準に照らして厳格に検証しなければならない。命がかかる医療分野では、新技術を賢明かつ慎重に導入する必要がある。適切な臨床検証を経て初めて、AIを責任ある形で安全かつ効果的に利用できる。医師と患者には、ツールの長所と限界についての教育も必要だ。
第四に、学術界、スタートアップ、既存企業の連携が極めて重要だ。中国の医療制度が抱える課題は、どの主体にとっても単独で取り組むには大きすぎる。この点で、中国政府が最近、意見交換を促し、インテリジェント医療の新たなプロジェクトを始動させるための協働プラットフォームを設立したことは心強い。
最後に、中国で将来に備えた医療制度を築くには、医療とデータサイエンスの交差領域における人材不足に対処しなければならない。医学の知識とAIその他の技術への確かな理解を兼ね備えた人材を育て、その成長に投資すべきだ。最終的に、中国の医療制度の持続可能性は、そうした人材の手にかかっているかもしれない。



