この記事は、世界経済フォーラムの地政学プラットフォーム
先月、インドと中国が国内治安協定に署名したことは、両国関係の特殊な性質を示している。この関係には、競争、対立、協力が併存する。
対立点は誰もが知っている。係争中の全長4,000 kmの国境、パキスタン、マスード・アズハル問題、そしてインドの原子力供給国グループ(NSG)加盟問題だ。
あまり知られていないのは協力分野だ。北京が主導するアジアインフラ投資銀行へのインドの加盟、BRICS、上海協力機構(SCO)、アジア相互協力信頼醸成措置会議(CICA)への加盟、さらに幅広い課題を扱う各種国際機関での協力がある。
中国はインドにとって最大の貿易相手国であり、中国製品にとって大きな市場でもある。インドの小売業者は、販売するために安価な中国製品を仕入れようと熱心だ。
新たな潮流
この新協定は、今年初めのモディ首相と習近平国家主席による武漢首脳会談を機に始まった中印関係の新たな潮流の一環と見ることができる。
この協定は、テロ、麻薬、人身取引、情報共有、災害管理に焦点を当てる。協定の重要性は、インド側の署名者がラージナート・シン連邦内務相、中国側が趙克志公安相だったことからも明らかだ。
協定の交渉は、ラージナート・シン連邦内務相が中国を訪問した2015年に始まった。当初、中国側は個別の課題ごとに別々の協定を望んでいたが、武漢首脳会談を受けて、包括協定という考えを受け入れた。
武漢首脳会談は、ドクラム高原のインド・中国・ブータン三国境地帯で、インド軍と人民解放軍が2カ月にわたり対峙した後に開催された。
ドクラム問題に加え、中国がインドの原子力供給国グループ加盟候補を支持せず、テロ関連の国連リストにジャイシュ・エ・ムハンマドの指導者マスード・アズハルを載せようとするインドの取り組みに保留をかけたことで、中印関係は揺さぶられていた。
一方、中国側は、ニューデリーがチベット問題を外交カードとして使い、モディ首相の就任式にチベット中央行政府のロブサン・センゲ首相を招いたことや、連邦閣僚にアルナーチャル・プラデーシュ州タワンでダライ・ラマを迎えさせたことに不満を抱いていた。
道を開く
NSG加盟やマスード・アズハル問題で中国が支持しないことを拡声器外交で非難してきたニューデリーは、今では正統的な外交手法を用いて自国の立場を中国に説得している。インド当局者によれば、これまでのところ中国はこれらの問題で譲歩していない。しかし、粘り強い外交が成果をもたらす可能性はある。
中国もまた、新疆ウイグル自治区の分離主義者に由来するテロを懸念している。中国は西部の同自治区でイスラム主義思想を根絶するために並外れた努力を重ねており、世界各地でのウイグル人の移動にも敏感だ。
こうした注目度の高い問題に加え、この協定は麻薬密輸、人身取引、災害管理など、相互の利益に関わる課題への実務的な対応にも役立つ。
インド人と中国人が互いの国を行き来するなか、それぞれの国民の逮捕や拘禁に関する問題がしばしば生じる。この協定はそうした問題への対応に道を開き、両国間の引き渡し条約の締結につながる可能性がある。
サイバー犯罪と越境犯罪
テロ対策に加えて、インドは越境犯罪やサイバー犯罪、ホワイトカラー犯罪者に対処する協定も望んでいる。中国はサイバー分野で広く知られた能力を持つ。この協定には犯罪行為の未然防止に役立つ重要な情報交換の要素が盛り込まれる。最終的には、情報交換を円滑にするため、24時間365日対応のホットラインを設置する計画だ。
この協定は、他の仕組みや協定を通じて扱われる中印国境紛争とはほとんど関係がない。しかし、越境侵入、そして何より災害管理には確実に対処する。中国からインドへ川が流れているため、下流での洪水や土砂崩れによる犠牲者を防ぐには、事前警告が不可欠となる状況がしばしばある。
武漢首脳会談は、現在の中印関係の基調を定めた。両国が関係の難しい分野を管理し、共通点を見いだすとともに、両国間の連携を強化することを目指している。
この首脳会談は世界に重要なシグナルも送る。両国は対話と議論を通じて意見の相違に対処する能力を十分に備えているということだ。
インドと中国はなぜ新たな治安協定に署名したのか? オブザーバー研究財団のマノイ・ジョシ

