世界第2位の経済大国には、世界が知るべき法務分野のイノベーションがある。司法へのアクセス向上に取り組む中国では、「lawtech」または「legaltech」(法律サービス提供のためのテクノロジー)の活気ある新興市場が形成されつつある。中国市場は、手頃で利用しやすい法律サービスに対する人々の需要が急増するなか、その需要に応え、比較的新しい法制度の課題に対処するため、急速に成長している。モバイルバンキングやフィンテックがアフリカ諸国の金融システムの発展における「リープフロッグ」を後押ししたように、リーガルテックは新しい法制度の成長を加速させる可能性があり、中国から学べることもある。ここでは、現在の中国のリーガルテック市場を形づくる5つの主要な要因を紹介する。
1. 政府の支援
中国政府はデジタル変革に多大な資源を投入している。中国は、インターネット裁判所の設立などを通じ、政府が支援するオンライン紛争解決で世界をリードしている。インターネット裁判所は、杭州、北京、広州に設置された。これらの裁判所では、電子商取引、消費者信用、著作権、ドメイン名、および一部の行政法上の問題をめぐる紛争を審理する。提訴の開始、調停、証拠の交換、審理、判決の告知など、司法手続きの大半をオンラインで進めることができる。

裁判制度への市民の理解を深めるため、最高人民法院(「SPC」)は200万件を超える裁判をライブ配信してきた。杭州インターネット裁判所は、開設初年度(2017年8月開始)に1万1,000件を超える事件を審理した。同裁判所は訴訟手続きにおいて、ブロックチェーンを活用したオンライン証拠の著作権保護を実施している。インターネット裁判所は、オンライン審理サービスを提供しており、WeChat(月間アクティブユーザー数が10億人を超える、テンセントの多機能メッセージング、ソーシャルメディア、モバイル決済アプリ)上でも利用できる。こうした取り組みは、中国の弁護士が業務にリーガルテックを取り入れる自信を高めてきた。
中国の司法機関は、段階的にテクノロジーを導入してきた。最高人民法院は2014年以降、「スマート裁判所」戦略をいくつか展開しており、全国裁判情報システムや中国法律応用ネットワーク・プラットフォーム(法務調査や量刑勧告のためのスマートシステム)などが含まれる。北京市朝陽区人民法院の情報室は、利用者が事件について一連の案内質問に答えることで訴訟リスクを理解・評価できるセルフサービス窓口を設置した。「小超(シャオチャオ)」というロボットも朝陽区人民法院の受付に立ち、来訪者を出迎えている。
2016年、深圳の裁判所は訴訟当事者が軽微な事件の申立てや裁判手続きを自ら行えるよう、24時間利用可能な「ATMのような」窓口の提供を開始した。その後、山東省や浙江省の裁判所も同様の取り組みを始めた。債務返済を促すため、浙江省の裁判所はアリババ傘下のアント・フィナンシャルに対し、信用スコアリングシステムで債務者をブラックリストに登録するよう要請した。ブラックリストに登録された人は、渡航ビザ、レンタカー、ホテル予約など一般的なサービスを利用する際に大きな困難に直面する。国営の新華社通信は、こうした執行手段を全国社会信用システムに統合すると報じた。
2. 市民の需要
低価格で簡単に利用できる法律サービスに対する市民の需要は非常に大きい。中国国家統計局(NBSC)の公表数値によると、中国の弁護士は36万人超(法律事務所は2万8,000超)と推定され、人口約4,500人につき弁護士1人の割合となる。これに対し、米国では人口約300人につき弁護士1人である。中国では経済発展の継続に伴い、法制度を利用する人が増えている。NBSCによれば、2017年には全国で約2,300万件の訴訟が登録された(多くは審理前に和解)。一方、2007年の登録件数は約560万件だった。
しかし、裁判所の事件処理の大幅な滞りは、近年、裁判外紛争解決手段の導入拡大に向けて大きな取り組みが行われたにもかかわらず、依然として問題となっている。最高人民法院は2018年に全国調停プラットフォームを設立し、現在は1,600超の裁判所が参加し、2万人超の調停人が登録されている。上海、河南省などの省では、一般向けおよび専門分野別のオンライン調停サービスが開始された。市民の需要が利用可能な資源を上回り、法廷の効率性に大きな負荷をかけ、裁判官の大幅な離職につながっている。紛争解決は法律上のニーズの一分野にすぎず、法律サービスへの需要は今後5年間で飛躍的に増加するはずだ。
3. 新法の相次ぐ制定
法律、規制、指針、通達が定期的に公布され、法制度は絶えず変化している。サイバーセキュリティ、知的財産、競争法など、複雑な改革分野のいくつかは世界的な注目を集めてきた。こうした不確実性に加え、法の支配や司法へのアクセスという考え方が強まるなか、中国市民による手頃な法律サービスへの需要が高まっている。国営ウェブサイトの中国法律サービスや各省の関連サイト、法律ニュースサービスなど、法律情報や弁護士を探すのに役立つオンラインサービスは数百に上る。官民双方で、法律参考資料のデジタル化が大きく進んでいる。こうした動きが相まって、ウェブ上の情報提供製品への市場ニーズが強まっている。

4. 白紙からの出発という効果
現代中国の法曹界は約30年の歴史しかない。他の主要経済国と比べると、法律専門職の慣習や規範の歴史は比較的浅い。この環境では、多くの弁護士が競争力を高めるためにテクノロジーを積極的に、かつ迅速に取り入れ、起業やイノベーションを活発化させている。国内のリーガルテック事業者も多く、機械学習を活用した製品を業務・事件管理、オンライン紛争解決、法律調査や専門家サービス、訴訟分析、訴訟結果の予測やデータ可視化の分野で開発している。中国の規制環境は、実務家や一般市民によるリーガルテックの成長と導入に比較的開かれている。
5. スマートフォン文化
中国の人々は、日常生活のほぼあらゆることをスマートフォンで行うことに慣れており、実際、それを当然のこととして期待している。中国とアフリカの市場は、モバイル決済の普及で世界をリードしている。最近、AppleのApp Storeで「法律服务」(法律サービス)を検索したところ、オンライン法律相談や弁護士とのマッチングを提供するアプリが40本以上見つかった。WeChatのアプリストアで同じ検索をすると、約20本が見つかった。こうしたアプリの多くは、特定の法律事務所の宣伝、弁護士マーケットプレイスの構築、「法律サービスのUber」ともいえるプラットフォームの設立を目的に開発された。法律サービスがオンラインやモバイルアプリで広く提供され、中国の人々が他のサービスに期待するのと同じ、低価格で時間を節約できる利便性をもたらしているのは当然といえる。
国際市場に向けた考察
上記の要因が国内で力強く長期的な発展の土台を築いている一方、中国本土のリーガルテック市場が香港やシンガポールなどの海外市場や他の法域とどのように関わるかを判断するには、まだ時期尚早だ。中国のリーガルテック企業は、現時点で海外販売にあまり力を入れていないようだ。国内で取り組むべきことが十分にあるのだろう。また、海外進出と中国市場への参入のどちらにも、言語、法律、規制上の障壁がある。文書レビュー、契約分析、自然言語処理や機械学習技術を用いたその他の製品は、単一言語での利用に最も適している傾向がある。これまでのところ、西側企業はAIを活用したリーガルテック製品を中国語、日本語、韓国語に適応させることにあまり成功していない。
外国企業にとっては、より細かな市場参入上の課題もある。現代中国の法律は大陸法系に基づいている。ディスカバリー(証拠開示)や弁護士・依頼者間の秘匿特権など、英米法の概念は中国には存在しない。大陸法系では、裁判官が事実を認定し、法律を適用して判決を下す。裁判官は英米法系の裁判官よりも職権で調査を行う傾向がある。大陸法系の裁判では、証拠調べの規模は通常、英米法系より小さい。英米法系では、民間当事者が膨大な文書を準備し、その費用を負担することを求められる場合がある。そのため、電子ディスカバリー/証拠開示業界は、米国と同じ形や規模では中国で成長していない。ただし、訴訟における文書検索と取得は、世界中で基本的に必要とされている。市場戦略は、現地の法律実務に合わせて調整する必要がある。
本稿では、現在の中国のリーガルテック市場を形づくる5つの要因を取り上げた。需要を押し上げる要因は、一般市民の法律サービス需要の急増、関連経験を持つ裁判官や弁護士の不足、そして消費者の一般的な期待が法律サービスのデジタル化にも及んでいることだ。供給側では、リーガルテック導入を後押しする政府主導の取り組みが好材料となり、中国のソフトウェア事業者や、リーガルテックのソリューションを提供する起業家精神に富んだ弁護士が増えている(「B2C」だけでなく「B2B」も含む)。法律が社会のオペレーティングシステムだとすれば、中国は革命的で前例のないアップグレードを遂げつつある。

