ネーダー・ムサヴィザデー氏が、中国におけるナショナリズムの台頭と、それが脆弱な世界経済に何をもたらしうるかを語ります。このインタビューは、 リスク・レスポンス・ネットワークの「もしも?」シリーズの一環です。
ご専門分野と現在の研究内容を教えてください。
私はグローバルな分析・助言企業であるオックスフォード・アナリティカを率いています。当社は、官民のクライアントに対し、私たちが「マクロ・デューデリジェンス」と呼ぶものについて助言しています。これは実際には、リスクを予測し、特定し、それを軽減するための適切な措置を講じるという、デューデリジェンス全般を指します。当社は、新興市場に投資する企業、すなわち南南間の資本フローに関する助言に非常に積極的に取り組んでいます。最近は、中東での大きな動揺を受け、この地域に多くの時間を割いてきました。もう一つの重点分野は世界経済であり、中国、米国、ユーロ圏がこれにどう対処しようとしているか、どのような措置が機能し、どのような措置が機能していないか、そして官民のクライアントが、混乱が予想される時期に最善の立場を確保するにはどうすればよいかを扱っています。
ご研究を踏まえると、最も過小評価されているリスクは何だとお考えですか。
現在最も過小評価されているリスクは、中国が政治的に内向きになることだと思います。若く、教育水準が高く、モバイルでつながった中国人の重要な層の間で、ナショナリズムを強め、中国と世界との関係をよりゼロサム的に捉える感情が高まっています。
米国とユーロ圏が経済的課題に直面しているなかで、中国が成長を大幅に減速させたり、あるいは世界市場でこれまでより建設的でない別の役割を果たそうとしたりすれば、それは国際的に重大な出来事になるでしょう。
このリスクを、実際に起きたらどうなるかという「もしも」の仮想シナリオとして描くと、どうなりますか。
私が「列島型世界(アーキペラゴ・ワールド)」と呼ぶものが出現するでしょう。そこでは、権力、資本、アイデアが分断され、各国・各地域が、共通の利益を持つグローバル共同体の一員としてではなく、ますます個別に、切り離して自らの利益を定義するようになります。
中国で起こりうるのは、毛沢東主義の流れをくむ新たな民族主義的な若者のグループから生まれる政治運動です。彼らは数千万人規模でインターネット上の一大勢力となり、異なる見方を打ち出そうとしています。これは、芸術家の艾未未(アイ・ウェイウェイ)氏らに代表される、西洋的な人権の性格を帯びた反体制派の政治的異議よりも、中国の経済的台頭を安定的に運営するうえではるかに深刻なリスクです。
どのような結果がもたらされるでしょうか。
南シナ海での緊張の高まり、台湾をめぐる緊張の高まりが見られるでしょう。また、米国が戦力を撤収しようとしているなかでも、アジアの中国の近隣諸国は、米国に太平洋の主要国として留まってもらおうという意欲を強めるでしょう。 ほとんどの国や地域で、さまざまな自由貿易体制に対する脅威が着実に、じわじわと高まっていくと思います。
過去20年間、世界経済がいかに中国の需要と生産に牽引されてきたか、そして西側諸国が長期にわたるデレバレッジと低成長またはゼロ成長に直面していることを踏まえれば、中国が自由貿易に近い体制や比較的開かれた市場という世界の列車から降りた場合、関税の上昇や取引コストの増大は間違いなく起こり、そのすべてが収益性や雇用などを蝕むことになるでしょう。
強調しておきたいのですが、私はこれが起こりやすい事態だとも、近い将来に起こるとも考えていません。しかし、これはほとんど真剣に長く検討されることのない、大きなリスクだと考えています。
中国の政治的な感情のほかに、この事態に先立って現れる兆候としては、どのようなものがありますか。
西側の観察者の多くが注目するものから少し離れて、中国国内で起きている文化的な動きに目を向けるなら、それは民主的で大衆的な市民の意見の一形態です。
それは北京にとって統制することがはるかに難しいものでもあります。なぜなら、反体制派や天安門の学生たちのように従来の形で北京に挑むのではなく、いわば右からの体制への挑戦だからです。すなわち、北京は中国自身の中核的な国益に十分敏感なのか、西側や米国に対して安易な取引をしてはいないか、というものです。
来年、中国では指導部の交代が見込まれ、30年前の苦難の記憶がそれほど鮮明ではない人々が指導的地位に就くことになります。彼らは、むしろ中国の達成に対する意識が強く、より自己主張が強く、それは彼らの発言にも表れています。
最も大きな影響を受けるのは誰で、どのように影響を受けるでしょうか。
まず中国です。中国自身の発展に大きな影響を及ぼしうるからです。次に、もう一つの世界的大国である米国であることは明らかです。3番目は、東アジアの中国の近隣諸国である日本と韓国ですが、この地域の他の国々も影響を受けます。
ブラジル、南アフリカ、ナイジェリア、エジプト、そしてアフリカの他の国々が、グローバルな志向を弱め、より国家間で競争的な形で自国の利益をますます主張するようになるにつれ、列島型世界が出現する証拠が見られるようになると思います。
このリスクに対する最善の緩和策は何ですか。
リスクとは中国人が内向きになることですが、最善の緩和策は、各国が正当な形で自らを統治しうる方法について、西側の政策立案者や機関がより広い理解を持つことだと思います。それは、中国のこの若い世代から出ている非難の一部の鋭さを和らげる重要な方法となるでしょう。
リスクの裏返しとして、このシナリオに関連してどのような機会があるとお考えですか。
中国と異なる対話をしようとする企業や国には機会があります。繰り返しになりますが、こうした国家的な課題がどこから来ているのかを理解することが重要です。
これは、途上国と世界市場との関わり方に関する広範な論点でもあります。ケーキの切り分け方を見直し、新興市場、特に資源採掘産業から生まれる恩恵や富のより多くを、実際にそれらの資源が存在する国々と分かち合わなければならないという理解が必要です。
過去30年間と同じ条件でこれらの国々と取引を続けられると考える人々にとっては、はるかに難しい課題になると思います。しかし、それらの国々にとってより公正な取引があり、それでも外部の投資家にとって十分に見返りの大きいものになりうると理解するなら、大きな機会があると思います。
現在の中国政府は、国内の反発を予期していたとお考えですか。
いいえ、これには確かに驚きもあったと思います。地方の 指導者や知事など、世論の空気により近い人々にとっては、それほど驚きではなかったと思います。ただ、中国の指導部は現在、この感情と、その大部分がオンラインで広がっているため統制できる範囲に限界があることを、きちんと認識していると思います。したがって、彼らに対して措置を取ることは、艾未未氏のような人物に対して措置を取ることとは異なる意味を持ちます。
写真:中国国家博物館の上にひるがえる中国国旗(ロイター)
ネーダー・ムサヴィザデー 氏は、オックスフォード・アナリティカの最高経営責任者(CEO)であり、世界経済フォーラムの 地政学リスクに関するグローバル・アジェンダ・カウンシルのメンバーです。




