米国は、投票権を除けば完全な市民権に類似した特典を伴う永住権[1]を、約 100万人の 移民に 毎年付与している。欧州も同じことができるだろうか。
移民は、家族、雇用、難民又は亡命認定、あるいはその他の特定かつ例外的な条件を通じて、米国の合法的永住者資格(すなわち「グリーンカード」)を取得できる。資格を付与された移民は、長期間にわたり米国を離れる、又は重大な犯罪を犯すことがない限り、生涯その資格を保持する。米国外へは自由に渡航でき、米国のいずれの企業でも働くことや、自ら事業を始めることができる。10年を超えて就労していれば、退職時に社会保障給付を受けられる。また、21歳未満の配偶者及び子どもが永住者資格を得られるよう申請することもできる。とりわけ、グリーンカードを取得してからわずか5年で、米国市民権の完全な申請が可能となる。
新たに発行されたグリーンカードの最大の割合は、米国市民の家族、又は永住者の直系家族に付与されており(2013年で65%)[2]、雇用を通じて取得される割合は小さいものの相当の規模を占めている(2013年で約16%、約16万人)。 注目すべきことに、毎年新たに合法的永住者となる者の約12%(2013年で約12万人)は、元亡命認定者又は元難民である。
出典:Yearbook of Immigration Statistics、US Department of Homeland Security
仮にEUが同程度の数の移民を受け入れるとすれば、毎年何人に合法的永住権を付与しなければならないだろうか。両地域は移民を永続的に受け入れる能力が明らかに異なっており、いかなる比較もこの違いを反映すべきである。
一国の移民吸収能力を測る一般的に用いられる指標は存在しない。しかし、現在の移民の波に対応するために欧州委員会が割当数を設定する際に用いた基準を検討しよう。この基準は、地域間の人口構成、経済規模及び移民の経緯の違いを考慮したものである。欧州委員会は以下の基準を示している。
人口規模(40%):一定数の難民を受け入れる能力を反映するため;
国内総生産(GDP)総額(40%):一国の絶対的な富を反映し、ひいては難民を受け入れ統合する経済の能力を示すものであるため;
失業率(10%):難民を統合する能力を反映する指標であるため。
2010~2014年の期間における人口100万人当たりの自発的な亡命申請件数及び再定住難民数の平均(10%):近年において経済が払ってきた努力を反映するため;[3]
委員会自身が述べているとおり、これらの基準は客観的で、数量化可能かつ検証可能なものであり、EU加盟各国が難民を受け入れ統合する能力を反映している。その際、各基準の相対的な重要性を示す加重係数が適用されている。本稿では、米国と比較可能とするためにEUが付与すべき合法的永住資格の数を求めるにあたり、これらの基準とその加重係数を、個々の加盟国ごとではなくEU全体に適用する。
出典:Bruegelによる算出
欧州の割当ルールを用いると、EUが米国と同数の移民を受け入れるのであれば、年間約126万7000人に永住権を付与すべきとの結論が得られる。この数字はEU総人口のわずか0.25%にすぎないことに留意されたい。また、米国と同じ割合(すなわち12%)の資格を亡命認定者及び難民に付与するとすれば、EUは年間15万2400人の難民及び亡命認定者に資格を付与しなければならず、これはEU総人口のわずか0.03%にすぎない。
仮に人口のみを用いてEUが受け入れるべき同程度の移民数を算定するとしよう(上表の「人口に基づく」行を参照)。米国の人口は2013年時点で約3億1600万人であった(出典:US Census, United States Census Bureau)。欧州連合(当該年の人口は5億700万人)が永住者として同程度の移民を受け入れていたとすれば、2013年だけで約160万人(EU総人口の0.3%)に永住権を付与しなければならなかったことになる。このうち19万245人が難民及び亡命認定者に付与されていたはずであり、これでもEU総人口の0.04%未満にとどまる。
次に、失業率のみを唯一の要因として考えてみよう。米国と比べたEUの高い失業率は、欧州の同等のグリーンカード数を算出するうえで最も制約的な基準であり、そのことは上表の「失業率に基づく」行の低い数値に表れている。それにもかかわらず、EUは95万4183人の移民(うち11万4502人は難民となる)を受け入れる必要があることになる。
これらの数字は、EUが移民のためにさらにできることがあることを示唆しているだろうか。Eurostatによれば、EUは2013年に 87万1300人 の外国人に市民権を付与した[4]。これは、上記の計算において失業率など、より不利な基準により大きな重みを付したとしても、さらに多くの永住権を付与する十分な余地が残されていることを意味する。
現在の議論は依然として、移民に一時的な在留資格をどう付与するかに限られている。つい昨日、ユンケル委員長は「欧州連合の現状」演説(State of the Union)において、委員会がこれまでに再配置を約束していた4万人に加え、EUはさらに12万人の移民を受け入れると発表した。仮に16万人を、EUが外国人に毎年付与している永住市民権の年間平均数に加えたとしても、その合計は依然として米国のグリーンカードの数を大きく下回る。 欧州がより多くの難民を受け入れる余地があるだけでなく、データは、難民に永住を認める余地も十分にあることを示唆している。
以下の表は、EU加盟国ごとに、上記で算出したとおりEUが2013年に受け入れるべきであった総数127万人の移民のうち、各国がどれだけの永住者を受け入れる必要があるかを示している。各国の割当分を算出するため、現在の移民の波を各EU加盟国に再配置するために設計されたEUの割当ルールを適用した(上記参照)[5]。最後の列は、各国が受け入れるべき移民数を人口に対する割合で示している。エストニア、マルタ及びルクセンブルクを除き、EU加盟国のいずれも、人口の1%を超える移民を受け入れる必要はない。 平均すると、各国がその人口のわずか0.25%に相当する移民を追加で受け入れればよいことになる。
出典:Bruegelによる算出
米国のグリーンカードのデータを用いたこのベンチマーク分析は、EUが米国と同程度に寛容であろうとするならば(両地域の吸収能力の違いを考慮した後でも)、EUにはなお、より多くの移民を吸収する十分な余地があることを示唆している。それは短期的な受け入れだけでなく、 永住者として も同様である。
EUは将来どれだけの移民を受け入れるかを自ら決めることができる。米国より寛容になるか、それとも控えめにするかを選ぶこともできる。ただし、その決定にあたっては、移民受け入れに関する真の能力を考慮すべきである。
[1] なお、本ブログは一時的なビザ許可や不法移民は対象としておらず、むしろEUの永住移民政策の可能性を検討するものである。
[2] この統計には、家族による呼び寄せ優先枠(21%)及び米国市民の直系親族(44%)が含まれる。
[3] 最後の基準については、米国とEUで比較可能なデータが存在しない。代わりに、2009~2013年の期間に外国人に割り当てられた市民権の総数を用いる。最後の基準を除外し、最初の3つの基準のみで(それぞれの加重は45%、45%、10%)計算を行うと、グリーンカードの総数は128万2131件、亡命認定者及び難民に付与されたグリーンカードは15万3856件となる。
[4] Eurostatは、EU加盟国ごとの初回居住許可及び亡命申請者数に関する統計も公表しているが、これらはいずれも非永住型の許可である。これらの統計によれば、EUは2013年に250万件の初回居住許可を付与した。2013年には43万1000人の亡命申請者が登録され、そのうち約45%が許可を得た(当該許可は常に非永住型である)。
[5] 各国の対応表については、移民に関する欧州アジェンダに関する通知(附属書)を参照されたい。
本稿は当初、 Bruegel Blog(ブリュッセルを拠点とするシンクタンク)に掲載されたものである。掲載は世界経済フォーラムによる見解の支持を意味するものではない。
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著者:Grace Choiは、韓国生まれの米国市民であり、2015年の夏にBruegelのリサーチインターンとして参加した。Prof Dr. Reinhilde Veugelersは、KULeuven(ベルギー)経営・戦略・イノベーション学部の正教授である。
写真:ワシントンで、警備用バリケードの後方に写る米連邦準備制度理事会(Federal Reserve Board)の建物。REUTERS/Gary Cameron。





