インドの農業融資救済策がもたらした経済的影響

インドの農業融資救済策がもたらした経済的影響
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2008年、国政選挙の1年前であり、2008~2009年の世界金融危機を背景に、インド政府は史上最大級の借り手救済策の一つを実施した。「農業債務免除・債務救済制度」(ADWDRS)として知られるこの制度は、全国の農村世帯最大6,000万世帯を対象に、債務の全額または一部を無条件で免除し、その総額は160億~170億米ドルに達した。

インドの広大な農村部では、世帯債務の高水準が長年にわたり問題視されてきた一方、世帯の福祉や生産性を改善する手段として、無条件の債務救済策が有効かどうかをめぐっては議論がある。当時のインド政府を含む債務救済の支持者は、債務救済によって「債務の過剰負担」が招く投資不足という根深い問題を緩和できると主張した。つまり、債務を抱える農家は、生産的な投資から得られる収益の多くが直ちに銀行への利払いに充てられるため、投資をためらうという見方だ。このような意欲の欠如が農業生産性の停滞を招いているため、インドの広大な農業経済全体で債務負担を軽減すれば、債務不履行者に再出発の機会を与え、経済活動を促進できるという。一方、制度の批判者は、融資免除によって慎重な借り入れと期日どおりの返済の文化が損なわれ、返済をきちんと続けている借り手が、債務不履行になっても深刻な結果は生じないと考えることで、債務不履行が増えると主張した。実際に起きたことに最も近いのは、どちらの見方だろうか。

最近の 論文では、インド全地区を対象に、債務救済額と経済的成果を記録した大規模なパネルデータセットを作成し、2001~2012年を網羅することで、この議論に光を当てた。このデータセットにより、債務救済が国内の地域レベルで信用市場や実体経済の成果に与えた影響を追跡できる。また、インド内外で債務救済をめぐる議論の中心となってきた重要な問いに、厳密な証拠を示せる。救済策はどの程度のモラルハザードを生み出したのか。銀行はよりリスクの高い融資を行うようになったのか。また、救済金の移転額が大きかった地域の借り手は、制度実施後に債務不履行に陥りやすくなったのか。債務救済は投資、生産性、消費の促進に有効だったのか。

この制度は、銀行と借り手双方の行動に大きく、経済的にも有意な影響を及ぼしたことが分かった。世帯債務が減少し、銀行の融資総額が増加した一方、救済策の支持者の主張に反して、この制度によって投資や消費が増えたり、賃金が上昇したりした証拠はなかった。むしろ、救済策の影響をより強く受けた地区から、銀行が融資を振り向け直したことを示す証拠が得られた。債務不履行率の高い地区では融資が大幅に減速し、救済対象となった農家は新たな融資を受けられなかった一方、不履行率の低い地区では融資が増加した。救済資金が中央値を上回った地区では、帳消しにされた1ドル当たり、新たな融資はわずか36セントだった。これに対し、救済資金が中央値を下回った地区では、帳消しにされた1ドル当たり4ドルの新規融資を受けた。

制度の下で帳消しにされた融資の全額についてインド政府が銀行に資本を注入したため、銀行は救済策による損失を負わなかった。それでも、銀行のリスクテイクが増えること(銀行のモラルハザード)にはつながらなかった。それどころか、制度の結果、銀行は観察可能なリスクの低い地域へ融資を移したことが、分析結果から示唆される。同時に、救済額の大きい地区では、制度実施後に借り手が大規模に債務不履行を起こし始めたことを確認した(借り手のモラルハザード)。これは、救済策によって当該地区の不良債権がすべて帳消しになった後に起きているため、救済策が戦略的な債務不履行とモラルハザードを生み出したことを強く示している。制度の批判者が予想していたとおり、今回の分析結果は、救済策が、債務をきちんと返済する借り手にまで債務不履行を促すという大きな負の外部性をもたらしたことを示唆している。借り手は、将来、融資執行がより寛大になることや、同様の政治的動機に基づく信用市場への介入が行われることを見越した可能性がある。

明るい面として、銀行は救済策を帳簿を「整理」する機会として活用した。インドの銀行には歴史的に、融資総額の40%を農業や小規模産業を含む「優先分野」に貸し出すことが義務付けられてきた。インドの銀行が保有する農業融資の多くは、こうした融資誘導策によって実行され、長年のうちに不良債権化していた。しかし、帳簿上の不良債権比率が高いと地元の銀行支店長は処罰を受けるため、こうした「不良」融資の多くは借り換えられたり、「エバーグリーニング」されたりしていた。つまり、地元の銀行支店は、融資を不良債権として計上せずに済むよう、債務不履行に近い借り手への融資を続けていた。ADWDRSによる債務救済策が発表されると、銀行はこうした限界的な融資を不良債権に再分類し、帳簿から除外できるようになった。これが済むと、銀行は債務不履行に近い借り手への融資を「エバーグリーン」するのをやめ、不履行率の高い地域では融資全体を減らした。したがって、返済能力のある借り手でさえ戦略的に債務不履行を起こすことを予想し、銀行は救済策の結果、実際にはより保守的になった。

救済策が他の状況では機能する可能性はあるが、今回の分析結果は、意図した目標を達成できるよう債務救済策を設計することの難しさを浮き彫りにしている。こうした制度が将来の銀行や借り手の行動に及ぼす影響と、モラルハザードへの影響をすべて考慮すべきだ。特に今回の分析結果は、債務救済のモラルハザードに伴うコストが、将来、政府が信用市場に介入するとの予想によって増幅されることを示唆している。そのため、法制度が弱く、政治的動機に基づく信用市場への介入が過去に行われてきた環境では、とりわけ深刻になる可能性が高い。

本記事は、 世界銀行のブログ「All About Finance」との共同掲載です。掲載は、世界経済フォーラムが見解を支持することを意味しません。

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著者:Xavier Gineは、開発研究グループの金融・民間セクター開発チームの上級エコノミストです。Martin Kanzは、開発研究グループの金融・民間セクター開発チームのエコノミストです。

画像:農家がモイナグリ村の水田を通り、サトウキビ畑に向かって歩いている。REUTERS/Rupak De Chowdhuri。

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