分断が進む今、インドと欧州には、世代を画する戦略的パートナーシップを築く好機があります。
政府間の足並みをそろえることは不可欠ですが、インドと欧州のパートナーシップは最終的に、大規模な協業に意欲を持つ企業によって築かれます。
欧州のイノベーションとインドの規模、欧州の資本とインドのレジリエンス、欧州の精密さとインドの適応力を組み合わせれば、価値を増幅させることができます。
現在の世界情勢は、深い分断、国際政治における取引主義的な姿勢、そして高まる地政学的不確実性を特徴としています。世界秩序に地殻変動が起きています。ビジネスリーダーが問うべきことは、もはや「どこで建設するのが最も安いか」ではなく、「共に築くうえで信頼できるパートナーは誰か」です。
分断が進む今、インドと欧州には、世代を画する戦略的パートナーシップを築く好機があります。両地域はルールに基づく秩序を支える存在であり、貿易の武器化を通じてその秩序が損なわれることの帰結を目の当たりにしてきました。何より重要なのは、持続可能で包摂的な成長を人々にもたらすという共通の願いを抱いていることです。
両地域は今後を左右する転換点にも立っています。イノベーションの一大拠点である欧州は、経済主権を脅かす対外依存に直面しています。「Viksit Bharat @ 2047」のビジョンを掲げるインドは、先進国への移行を進めるだけでなく、より大きな地政学的役割を正当に担おうとしています。
EU・インド間の貿易はすでに堅調で、年間1,800億ユーロを超えていますが、この数字は真の潜在力を十分に反映していません。グローバリゼーション、信頼、予測可能性を支えてきた従来の担い手の力が薄れるなか、欧州とインドには、レジリエンスを基盤とし、持続的な価値の創出を目指す新たな枠組みを築く機会があります。
インドの成長物語
現在、インドは世界第4位の経済大国であり、主要国のなかで最も高い成長率を誇ります。2047年までの先進国入りという目標に向けて進むなか、成長の勢いは高水準を保ち、今後数十年間の平均成長率は8~10%になると見込まれます。2030年までに、インドは名目GDPで世界第3位の経済大国となり、世界有数の成長エンジンの一つになる見通しです。
インドの台頭を支える主な原動力は3つあります。
1. 人口動態
若く拡大する労働力と高まる世帯の願望が相まって、消費パターンを変えつつあります。2030年までに、インドでは中間所得層および富裕層の世帯が新たに約1億世帯増える見込みです。この急増により、裁量的消費が大きく拡大し、国内需要が一段と深まるでしょう。
2. インフラ:物理・デジタル
インドは、物理とデジタルの両方のインフラを、前例のない規模で整備しています。
・国道が1日あたり約40キロメートルのペースで新設されています。
・およそ40日ごとに新しい空港が開港しています。
・PMガティ・シャクティ国家マスタープランと国家インフラ・パイプラインが、統合型のマルチモーダルな成長を可能にしています。
・デジタル公共インフラ:「India Stack」は、デジタルID(Aadhaar)と統合決済インフラ(UPI)を基盤とし、利用者数はインド国民13億人以上にのぼります。世界的に高く評価されるモデルとなっており、現在は月間100億件を超えるリアルタイム取引を処理しています。
3. 改革
物品・サービス税の合理化、法人税の引き下げ(新規製造業は15%)、ビジネスのしやすさを高める施策、生産連動型インセンティブなど、断固とした改革の波がインドの投資環境を変えています。さらに、複数の労働法を簡素化して4つの包括的な法典にまとめることで、明確性を高め、コンプライアンス負担を軽減し、とりわけ製造業における効率的な事業拡大を支えることを目指しています。これらの措置は、生産性と競争力の向上、そして経済活動のフォーマル化を促すものです。
この3つの原動力が一体となり、製造業の変革を支える基盤を築いています。インドは今、大規模な国内市場と世界のサプライチェーンの双方に対応できる立場にあります。世界最大のエンジニア人材層とグローバル・ケイパビリティ・センターの急速な拡大は、アウトソーシングから共同イノベーションへの移行を示しており、とりわけAI、ロボティクス、IoT、先進設計の分野で進んでいます。
欧州の強み
欧州は、高付加価値かつ高度に複雑な生産において、世界をリードする強みを持っています。精密工学、バイオテクノロジー、先端材料、グリーンエネルギーシステム、防衛技術、最先端研究における厚みを備え、世界で最も高度な産業エコシステムの一つを形成しています。3兆ドル規模の経済を目指すインドは、数十年にわたる産業の進化を飛び越える必要があります。高付加価値生産の複雑さを熟知したパートナーが必要です。しばしば世界の研究開発ラボと称される欧州は、まさに自然なパートナーです。
世界の重要鉱物市場では供給の過度な集中がかつてない水準に達しており、今後、依存度は指数関数的に高まると予想されます。これは、クリーンエネルギーへの移行が加速するにつれて、今後数年間に生じる見通しです。現在、欧州の大企業の5分の4超は、サプライチェーンを3段階たどると、単一の中国のレアアース生産者に行き着きます。同様に、インドはリチウム、コバルト、ニッケルのほぼすべてを輸入に依存しています。
こうした存立に関わる依存を認識し、両地域は政策で対応してきました。欧州は重要原材料法を制定し、インドは国家重要鉱物ミッションを打ち出しています。しかし、収れんを図れるのに、なぜ並行する道を進むのでしょうか。互いの市場にサプライチェーンの基盤を置き、インド・中東・欧州経済回廊(IMEC)のような既存の有望な取り組みを活用し、信頼に基づくパートナーシップで橋を架ければ、相互の脆弱性を共通の安全保障へと転換できます。
志を行動に
政府間の足並みをそろえることは必要ですが、インドと欧州のパートナーシップは最終的に、大規模な協業に意欲を持つ企業によって築かれます。特に注目すべき道筋は3つあります。
1. 先進製造業でのパートナーシップ
インド企業は、競争優位を確立し、世界に向けて「メイク・イン・インディア」を実現するため、欧州のパートナーを積極的に求めています。このパートナーシップにより、両地域は将来に向けて、より強く安全な産業能力を築くことができます。欧州企業はインドに共同研究開発や共同開発の拠点を設け、支援機能にとどまらず、世界市場向けの高付加価値製品を設計、適応、生産できます。インドは、その規模、エンジニア人材、コスト面の優位性を生かし、クリーンエネルギー関連機器から精密産業機器まで、幅広い分野で先端部品やシステムを生産する競争力のある拠点となります。
2. グリーンエネルギー協力
企業には、欧州のエネルギーの三重課題を解決しながら、インドの産業成長を後押しする機会があります。欧州には安定的でクリーンなエネルギーが必要であり、インドにはそれを低コストで生産できる地理的条件と規模があります。長期引取契約と資本投資を通じて、欧州産業界はインドが進める大規模な再生可能エネルギー・インフラ事業のリスクを低減できます。その見返りとして、インドは民主的で信頼できるグリーン水素の供給源となり、欧州が産業空洞化を招かずに脱炭素化を進める助けとなります。
3. ディープテックとデジタル公共インフラの連携
欧州はディープテックの知的財産(半導体、AI)における超大国ですが、迅速な規模拡大に苦慮しています。一方、インドは人口規模での展開に長けています。欧州のイノベーションを試す場としてインドを活用すれば、企業は数十億人の利用者を基盤にソリューションを検証し、何年分もの学びを数カ月に凝縮できます。その見返りとして、インドは自国のデジタル主権を確保するために必要な半導体エコシステムとハードウェアの専門知識を得られます。
インドと欧州は、不安定な世界における自然な同盟相手です。欧州のイノベーションとインドの規模、欧州の資本とインドのレジリエンス、欧州の精密さとインドの適応力を組み合わせれば、どちらの地域も単独では実現できない価値の相乗効果を生み出せます。
これは単なる機会のパートナーシップではありません。志を共有するパートナーシップです。そして今、行動が求められるパートナーシップです


