図1に示すように、国境を越える金融ポジションは1990年代半ば以降、急速に拡大している(Lane and Milesi-Ferretti 2007)。国際的な金融統合は大きな便益をもたらすと期待される。純国際金融フローによって経常収支の不均衡が賄われることで、厚生を高める消費平準化と、効率的な国際資本配分が支えられる。さらに、総国際金融フローは国際的なリスク分散を実現する重要な仕組みとなると同時に、金融サービスの提供における競争をより活発にする。
図1.対外資産と対外負債(世界合計)

注:Lane and Milesi-Ferretti(2007)に記載された方法に基づき、更新版の「国々の対外資産データ」から算出。世界GDPに対する割合。
しかし、国際的な金融統合はコストを伴うこともある。国内の企業統治が不十分で、金融規制も不備である場合、リスクを取る起業家や積極的な国内銀行が国際的なレバレッジを引き受けて急速に事業を拡大し、国内の歪みを増幅させるおそれがある。実際、教科書的な予測とは逆に、消費の変動性が高まり、国際資本配分の効率性が低下する可能性もある。
こうした歪みがなくても、国際的な金融統合は新たな種類の金融リスクをもたらす(Rey 2013も参照)。対外金融ショックによって国際金融フローの規模や方向が反転する可能性がある一方、国際的な資産価格や為替レートの変動は、対外資産と対外負債の保有額に大きな評価効果を生みうる。さらに、国内ショックのマクロ金融面への影響は、国際金融フローの景気循環増幅的な反応によって強まる可能性がある。
過去15~20年間に国際金融データの利用可能性は大幅に拡大したが、既存のデータセットは、国境を越える金融上の結び付きの解釈と分析には依然として不十分である。現在、国際投資ポジションのデータセットは、対外資産・負債をカテゴリー別(ポートフォリオ債務、その他債務、ポートフォリオ株式、対外直接投資、公的準備)に測定することに重点を置いている。国際投資家のセクター別属性(銀行、その他の金融法人、非金融法人、家計、政府)を報告している国は限られている。そうした国でも、国境を越えた相手方のセクター別属性は通常報告されていない。また、金融上の結び付きの全体像を把握するには、国際投資家の国内金融ポジションに関する情報も必要である。
ある程度は、既存の国境を越えるデータセットと国内のセクター別金融データを組み合わせることで、国Aのセクターと国Bのセクターとの間の金融上の結び付きを推定できる(Errico et al 2014参照)。それでも、データの大幅な欠落と共有の制約により、現在利用可能なデータを十分に活用することはできない。さらに、多国籍企業体(国際銀行、多国籍企業)を考慮するには、この居住地ベースのアプローチを、連結ベースのポジションに関する補完的なデータで補う必要がある。
関連して、国境を越えるポジションの通貨構成に関する現在利用可能な公的データはかなり限られている。間接的な手法と多くの推測を用いて、Lane and Shambaugh(2010)およびBenetrix et al(2014)は、総外貨ポジションと純外貨ポジションがかなり大きく、外貨建て資産・負債の価値に生じる通貨起因の変動の相当部分を説明しうることを示している。しかし、こうした推計は、対外資産・負債の通貨構成を、セクター別および金融商品別にクロス集計して公的に収集することの代替にはならない。
最後に、各セクター内では、国内所有の事業体と外国所有の事業体を区別することも重要である。最終的なリスク負担の分布を理解するうえで、所有者の国籍が不可欠だからだ。外国所有の事業体が対外資産の取得と対外負債の発行で大きな役割を担っているため、金融・非金融両セクターにおいて、国内支配企業と外国支配企業を区別することが不可欠である。
国境を越える銀行業務に関して、BISが収集する国際銀行統計を改善する最近の取り組みは歓迎すべきものである。このプロセスの第I段階では、報告銀行から新たなデータを収集する必要はなく、基礎データから各国の中央銀行が編成するデータカテゴリーを拡充する。これには、銀行システムの完全な貸借対照表の提示が含まれ、国際銀行データを国内銀行ポジションと統合できるようになる。さらに、「国籍別所在地ベース」データの地理的構成を報告することで、連結銀行データを新たな視点から捉えられる。負債側と資産側の双方について、事務所ごとのエクスポージャーが詳しく示されるためである。第I段階には、銀行ポジションの通貨別内訳の拡充も含まれる。
このプロセスの第II段階では、報告者から新たなデータを収集する必要がある。第一に、第II段階は、連結銀行統計における相手方セクターの内訳をより詳細にし、銀行の自己資本と総資産について整合的な指標を追加することで、国別の信用リスク測定の改善を目指す。第二に、「居住地別所在地ベース」データでは、銀行システムを国内銀行、外国銀行支店、外国銀行子会社に分解する。また、所在地ベースのデータでは、居住者である銀行、ノンバンク金融機関、非金融民間部門による国境を越えた借入の内訳も示す。第三に、連結データには、預金、債務証券(短期・長期)、デリバティブ、その他負債、総自己資本に分けた負債の内訳が含まれる。最後に、第II段階では、データの欠落を埋め、国際銀行統計へのアクセスを改善することも目指す。
非金融法人の国際金融ポジションについては、二つの側面から理解を深めることが望ましい。第一に、このセクターは国内の資金調達源に加えて、外国銀行からの直接的な国境を越える信用供与や国際債券の発行を通じて資金を得るほか、外国投資家から株式資金も調達する。第二に、多国籍企業の企業内国境越え金融取引には特別な注意が必要である。事業活動の国際的に統合された資金調達に加え、一部の多国籍企業は財務運営を利益センターとして扱うことがある。例えば、Shin and Zhao(2013)は、こうした企業が、ある場所・通貨で負債を発行すると同時に、別の場所・通貨で金融資産を取得することで、金融仲介機関として機能する役割を指摘している。
家計セクターについては、家計の直接的な国境越えポジションには、外国銀行預金やその他の金融資産、不動産、そして負債側では外国からの借入が含まれる。家計の対外金融資産を追跡することは難しく、とりわけオフショアセンターに保有される資産については問題が大きい(Lane and Milesi-Ferretti 2011、Johannesen and Zucman 2014)。また、外国不動産の所有は対外直接投資のカテゴリーに含まれるが、この分野のデータ収集状況は国によって大きく異なる。
最後に、公的準備と政府系ファンドが対外資産全体(特に新興国・開発途上国)において大きな位置を占めることから、これらの保有資産の種類と通貨構成に関する透明性を高めれば、国境を越えるポジションの全体的な構造への理解が深まる。負債側では、国債市場における外国投資家の地理的・セクター別属性に関する情報が増えれば、政府がこのカテゴリーの投資家層の性質を理解する助けとなる。
国境を越える金融上の結び付きへの理解を深めるために必要な追加データの収集は、金融データの標準化によって大きく促進される(Ali et al 2012)。2012年以降、法人識別子(LEI)コードの普及は大きく進展し、2014年6月のGlobal LEI Foundation(GLEIF)設立は重要な節目となった(www.leiroc.org参照)。LEIコードが広く採用されれば、相手方を一貫した方法で識別しやすくなる。Gross(2014a)が説明するように、Global LEI System(GLEIS)は2種類のデータを収集する。レベル1データは20桁のコードで事業体を識別し、法人に関する基本情報を提供する。レベル2データは、レベル1に登録された事業体間の関係(例えば、関連会社と親会社の関係)を示す。
金融商品に共通の定義を採用すれば、有用なデータの収集はさらに促進される。また、金融商品をその基礎となる構成要素に基づいて表現することで、リスク・エクスポージャーが明確になり、金融エクスポージャーの自動収集・報告にITをより幅広く活用できる(www.projectactus.orgも参照)。LEIコードと標準化された金融商品識別子(PI)コードを併せて採用すれば、国内および国境を越えた金融上の相互連関の全体像を、はるかに豊かに把握できる。
結論
近年、国際金融データの量は目覚ましく増加した。国境を越える金融ポジションの規模、構成、地理的分布について、以前には不可能だったほど多くのことが分かるようになった。同時に、国内の国民経済計算においても、セクター別金融データの利用可能性が近年拡大している。これらの異なるデータセットを組み合わせれば、国境を越える金融ポジションに内在するリスクと脆弱性への理解を深めることができる。本稿では、2008年の金融危機後に経常収支の世界的な不均衡が大幅に縮小したことを記録し、今後さらに縮小するとの予測を示した。では、世界的な不均衡は終わるのだろうか。証拠は明確ではない。こうした縮小にもかかわらず、ストックの不均衡は国内GDP比でも世界GDP比でも拡大し続けている。2012年末時点で、主要な債権者グループ4つ(欧州の経常黒字国、中国を含む新興アジア、日本、石油輸出国)は、おおむね同程度の純対外資産を保有していた。一方、債務者グループ3つ(欧州の経常赤字国、米国、その他の世界)は、絶対額で同程度の純対外負債を計上していた。債務国に有利な大規模な評価変動が起きるか、経常収支の不均衡がさらに縮小しない限り、ストックのポジションは今後数年間でさらに拡大する可能性が高い。
危機後の経常収支調整に関する国際比較の証拠は、以前の研究で得られたパターンを裏付けている。すなわち、経常収支は危機前の期間に生じた格差を縮小する方向に変化した。さらに、危機前の経常収支の格差と純対外ポジションは、その後の国ごとの需要成長率の違いの重要な部分を説明する。しかし、この中期的な期間を通じても、実質為替レートは安定化に向かう方向へ一貫して動いておらず、そのため対外調整は大幅な赤字国における支出の非常に高コストな減少を伴った。また、為替相場制度によって調整行動に違いがあることも指摘した。こうした違いの要因をさらに探る必要がある。
資本フローについては、経常収支の変化の大部分が純債務フローの変化に対応していることが証拠から示唆される。具体的には、経常収支の赤字幅が大きい国では純債務流入が劇的に減少した。これらの国の一部が多額の公的支援(債務流入に分類される)を受けたにもかかわらずである。次に、危機期の金融政策の変化が当初の不均衡の規模と相関しているかを検討した。為替ペッグを採用していない国では、過剰な赤字を抱える国ほど金利を大幅に引き下げており、答えは「はい」である。しかし、ユーロ圏諸国が大半を占めるペッグ採用国のサンプルでは、政策金利の変化が当然ながら黒字国と赤字国で共通していたため、そうではなかった。また、危機前から危機後にかけての構造的財政収支の変化と、当初の経常収支の格差との間に頑健な関係があるという証拠はほとんど見つからなかった。さらに、為替ペッグ制度の国では、過剰な赤字を抱える国ほどインフレ率が大きく低下したものの、実質減価を確実にするには不十分だった(実質為替レートの証拠が示す通り)。最後に、評価変動は「安定化」の方向に働いたことを示唆する証拠も示したが、それは為替ペッグを採用していない国に限られる。これは、危機前の期間と比べた為替レートの変化に関する証拠とも、より一般的な資産価格変動の予想パターンとも整合的である。
総合すると、こうした結果のパターンは、対外不均衡を監視し、対外調整が過剰な赤字国の支出削減だけを通じて起きないようにする必要性を改めて示している。実際、経常収支の不均衡の縮小は持続すると予測されているが、それは赤字国の需要が持続的に弱いことと結び付いている。
それでも、金融のグローバル化の規模や金融危機の社会的コストに比べると、利用可能なデータは驚くほど限られており、包括的なリスク分析には不十分である。したがって、既存データの欠落を埋めることや、BIS国際銀行統計の拡充、そしてとりわけLEI構想のような革新は、アナリストや政策立案者が利用できる証拠基盤を大幅に強化する可能性がある。そのため、これらの分野で前進を促す現在の機運を維持し、強めることが重要である。
本記事は Vox EUとの協力により公開されています。公開は、世界経済フォーラムが見解を支持していることを意味するものではありません。
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著者:Philip R. Laneは、ダブリン大学トリニティ・カレッジのWhately政治経済学教授であり、CEPRのリサーチフェロー。
画像:モンゴルの南ゴビ砂漠に立つ道路標識。REUTERS/Tom Miles


