マキャヴェッリは500年前、『君主論』で、運命は荒れ狂う川のようなものだと記した。運命は「それに抗う備えがなされていないところで力を示し、堤防やダムが築かれていないと知る場所へ、その勢いを向ける。そうした堤防やダムがなければ、流れを抑えられないからだ」と。政府の財政運営の浮き沈みを管理することは、今日も同様の課題をもたらす。財政上の脆弱性の潜在的な要因を体系的に分析する、リスクに基づく財政政策のアプローチが必要だ。この方法により、各国は潜在的な問題を早期に察知し、制度を変えてレジリエンスを高められる。
1970年代以前、公的債務の急増は世界大戦や大恐慌と結び付いていた(図1)。しかし1970年代にそのパターンは変わり、公的債務は着実な上昇傾向を示し始めた。1990年代には、先進国と新興市場国が政策を強化し、成長も力強かったことから、債務の対GDP比は横ばいになった。だが世界金融危機によって、再び以前の上昇傾向に戻った。一方、公的年金や医療費など、一般に債務統計に反映されない負債は積み上がり続けている。
平時として前例のない水準に政府債務が達しているだけでなく、政府債務だけでは公的財政の全体像を部分的にしか捉えられない。単独で見ると誤解を招くこともある。今日、公的財政へのリスクは重大だ。4月15日公表予定の『財政モニター』で説明するように、ユーロ圏と日本では低成長と低インフレが差し迫った明白なリスクとなっている。新興国は為替レートや資金調達環境の悪化による圧力に直面している。さらに最近では、原油価格の急落と商品価格の持続的な低迷が、商品輸出国に打撃を与えている。
経営難の銀行や苦境にある公企業に対する偶発債務も、リスクの要因となる。多くの場合、マクロ経済の基礎条件が弱いときに顕在化する。さらに、適切な制度的枠組みがなければ、こうした偶発債務を事前に抑えるのは難しい。経済で問題が起きた際、国家は通常、最後の保険者となるからだ。いったん顕在化すれば、これらのリスクは地域危機、さらには世界的な危機へと急速に波及しかねない。
債務が高水準にあり、潜在的なリスクも存在するなかで、いくつかの重要な政策課題が浮上する。リスクに満ちた世界で、公的財政をどのように安全な状態にできるのか。こうしたリスクをどのように有用な形で推計し、分析できるのか。財政政策は、リスクの軽減と、より持続可能で包摂的な成長の促進にどう貢献できるのか。
財政リスクの分析に使われる枠組みの多くは、リスクの挙動や重要性に関する未検証の前提に、明示的または暗黙的に依存している。具体的には、財政リスクは独立している(あるリスクが顕在化しても、他のリスクが顕在化する可能性は高くも低くもならない)、対称的である(公的財政への正負のショックは同じ確率で起こり、便益や費用も同程度である)、線形である(費用や便益は、根底にある変動の規模に比例して増える)と仮定している。
世界的な危機は、こうした前提の限界について、代償の大きい教訓を与えた。実際には、次のようなことが起きると私たちに気づかせた。
財政リスクは強く相関している。公的財政に関しては、悪い知らせは本当に「三つ一組」でやって来る。図2は、危機で最も深刻な打撃を受けた10カ国における財政ショックの「パーフェクト・ストーム」を示している。債務増加の要因が複数あっただけでなく、それらは体系的に結び付いていた。たとえば、未公表の一般政府赤字(地方政府の会計に隠れた問題など)、不利なマクロ経済の動向、金融セクター、国有企業(SOE)、官民パートナーシップ(PPP)に対する偶発債務、そして危機に対する政府自身の裁量的な政策対応である。
財政リスクは非対称である。政治家は財政見通しにおける上振れリスクをすぐに「織り込む」一方、下振れリスクを軽視したり見落としたりしがちだ。偶発資産と偶発債務の扱いほど、この傾向が明確に表れる例はない。政府の見通しでは、借入需要を減らすため、将来の資産売却による収入を盛り込むことが多い。売却額や時期が確定していない場合でもそうだ。これに対し、政府は保証などの偶発債務を通常、見通しから除外する。保証が履行請求されるか、いつ請求されるかが不確実だからだ。その結果、リスクのバランスが偏り、下振れリスクが一貫して過小評価される見通しとなる。図3は、EU諸国が過去12年間に政府債務を予測する際に示した楽観バイアスを表している。
財政リスクは非線形である。小さな変動については、その規模に比例して費用が増えると仮定するのが妥当だ。しかし、極端な事象では、それに伴う金融、経済、社会、政治面の影響がはるかに大きくなる場合がある。市場が政府債務を持続不可能と見なすと、金利の急上昇や為替レートの下落が起こり得る。国によっては「突然の停止」に見舞われ、市場へのアクセスを一挙に断たれることもある。経済ショックとその影響の間にあるこの非線形の関係は、 オリヴィエ・ブランシャールが「ダークコーナー」と呼ぶ、経済が深刻な機能不全に陥り得る状況を生み出す。
債務水準が高く、財政リスクが強く相関し、非対称で、非線形であることを踏まえれば、財政政策には新たなアプローチが必要だ。財政リスク分析が、最も重要な財政上の意思決定に積極的に反映されるアプローチである。
こうしたリスクに基づく財政政策の要素は、すでに導入する国が増えている。多くの国は、政府財政の推移に関する一点推計だけでなく、主要なマクロ経済前提の変化が財政に及ぼす影響を示す、複数のマクロ財政シナリオも作成している(例えば、EU諸国が安定プログラムの一環として公表するもの)。公的財政に対する非連続的なリスクの要因や規模、場合によってはその発生可能性を特定した財政リスク報告書を作成する国もある(フィリピンが公表した包括的な財政リスク報告書がその例だ)。これら二つのアプローチを組み合わせ、主要な財政集計値の確率的予測を作成する国も少数ながら存在する。英国予算責任局は、成長率と政府借入の中心推計をめぐる不確実性の度合いを示す確率的な「ファンチャート」の形で予測を提示している。これらの予測は、英国政府が掲げた中期財政目標を達成する確率の推計に使われる。しかし多くの場合、リスク分析は法律上または多国間の要件を満たすために作成されるか、国家予算文書の付属資料に追いやられている。
IMFは加盟国の財政リスク分析の改善と情報提供に向け、すでに重要な措置を講じている。いくつものツールを導入しており、その中にはIMFの 債務持続可能性分析 におけるファンチャートや、年齢関連支出から生じる将来債務に関する分析が含まれる。また、すでにボリビア、コスタリカ、アイルランド、モザンビーク、ポルトガル、ロシアを対象に公表した 財政の透明性評価におけるヒートマップも提供している。
今後は、財政リスクの相関性、非対称性、非線形性を考慮し、より適切な測定、予防、最小化の方法を検討する。また、財政リスク評価を財政上の意思決定に主流化する方法も探る。この分析は、包括的な財政政策アプローチの一部となる。そのアプローチでは、国際会計基準の採用を含む財政の透明性向上、公的部門のバランスシートの分析と予測、包摂的成長、安定、リスク管理の均衡を図る適切な中期財政目標の設定についても指針を示す。さらに、対象を絞った公共投資、構造改革、財政制度の改善が、レジリエンスの構築、成長の支援、公的財政の「上振れリスク」の拡大に果たす役割も考慮する。
マキャヴェッリははるか昔、荒れ狂う川(そして運命)を制するには、「平穏なときに堤防やダムを設けておけば、後に水かさが増したとき、流れを水路に導くか、その勢いを無謀でも破壊的でもないものにできる」と認識していた。打撃を受けた世界経済に幾分かの平穏が戻りつつある今、各国が次の嵐をよりうまく乗り越えられるよう、公的財政の堤防とダムの枠組みを築くことが課題となっている。
この記事は、 IMF Directとの協力により掲載されています。掲載は、世界経済フォーラムが見解を支持することを意味しません。
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著者:ヴィトール・ガスパールは国際通貨基金の財政局長。リチャード・ヒューズは国際通貨基金の財政局の課長。ラウラ・ハラミーリョは国際通貨基金の財政局長補佐。
画像:2008年12月18日、フランクフルトのドイツ証券取引所で株価を確認する株式トレーダー。REUTERS/Kai Pfaffenbach





