EUのカルテルに対する独占禁止法の執行はどう改善できるか?

EUのカルテルに対する独占禁止法の執行はどう改善できるか?
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カルテルに対する独占禁止法の執行は依然として限定的である

近年、多くの大規模カルテルが発見されており(Connor 2013、Dominte et al. 2013)、独占禁止法の執行がなお抑止効果を十分に発揮していないことが示唆される。したがって、カルテル被害者による損害賠償請求を容易にすることで抑止力を高め、罰金に加えて予想される制裁を強化することを目的とする2014年EU損害賠償指令は、大いに歓迎すべきものである。しかし、指令のすべての部分が執行の改善につながると思われるわけではない。実効性を妨げうる明白な点の一つは、損害賠償が生じた損害の範囲に限られ、カルテルが発覚しないおそれや損害賠償訴訟が不首尾に終わるおそれに対する補償を認めていないことであり、これは米国の三倍額賠償とは対照的である。本稿で焦点を当てる第二の、あまり明白ではない点は、私人による損害賠償とリニエンシー制度との相互作用に関わる。リニエンシー制度は、カルテルを通報し捜査に実質的に協力することの見返りとして、カルテル構成員に罰金の減額(免除に至る場合もある)を与える制度である。

私人と公的機関による独占禁止法執行の対立

欧州指令を生んだ法的議論が明らかにしたように、私人による損害賠償請求は、リニエンシー申請によってカルテル被害者による損害賠償請求が成功する危険性が高まりうるため、リニエンシー制度を危うくするおそれがある(Komninos 2011、Cauffman 2011、MacCulloch and Wardhaugh 2012 ほかを参照)。

  • 第一に、リニエンシー申請者が提出した証拠(民事法上の結果からは保護されていない)は、原告が損害賠償訴訟において違反の存在と影響を立証するために用いられるおそれがある。

  • 第二に、リニエンシー申請者、特に免除を受けた者は、少なくともカルテルの存在に関して、競争当局が採択した違反決定を裁判で争わない一方、他のカルテル構成員は通常これを争う。

カルテル構成員はすべてのカルテル被害者に対して連帯して責任を負うため、各被害者は、リニエンシー申請者を含むいずれの責任当事者に対しても全損害の賠償を請求する権利を有する。その結果、リニエンシー申請者は損害賠償訴訟の優先的な標的となる。罰金の回避によってリニエンシー制度への申請インセンティブが生じるとしても、損害賠償の支払いを命じられることへの逆インセンティブによって相殺されうる。

この対立に関して特に重要な論点は二つある。

  • 第一は、リニエンシー申請者(特に免除を受けた者)が、他のすべてのカルテル構成員と同じ水準と種類の責任を負うべきかどうかである。

  • 第二は、リニエンシー供述書および関連文書へのアクセスを、損害賠償訴訟の原告に認めるべきかどうかである。

法的議論は指令に結実した

指令の施行以前は、上記の二つの対立は、いくつかの一般的な法原則を適用することで処理されていた。すなわち、独占禁止法違反の被害者が全額の賠償を受ける権利、1 、および事案ごとにリニエンシー供述書へアクセスする可能性である。2 欧州司法裁判所の立場は、損害賠償訴訟が抑止力を高めうることを明確にした点で評価に値する。しかし法的議論は、(後述するように誤って)リニエンシー制度の適切な機能と私人による損害賠償請求との間には本質的な対立が必ず存在すると当然視してきた。そのため、適切な立法は必然的に、公的執行制度の利益と、十分な補償を受けるべき私人のカルテル被害者の利益との間で妥協せざるを得ないとされてきた。

2014年EU損害賠償指令はこの道筋に従い、上記の二つの論点に介入している。責任に関する規定については、免除を受けた者の責任を軽減する。すなわち、「(a)その直接または間接の購入者もしくは供給者に対して、および(b)同一の競争法違反に関与した他の事業者から全額の補償を得られない場合に限り、他の被害当事者に対して」(第11条(4))責任を負う。リニエンシー文書へのアクセスについては、指令は「国内裁判所は、当事者または第三者に対し、いかなる時点においても、次のいずれの証拠カテゴリーも開示するよう命じてはならない。(a)リニエンシー供述書、(b)和解申立書」(第6条(6))と規定する。さらに第7条(1)は、「加盟国は、第6条(6)に列挙されたカテゴリーの証拠であって、自然人または法人が専ら競争当局の記録へのアクセスを通じて入手したものが、損害賠償訴訟において証拠として認められないこと、または国内法の適用規則によって別途保護されることを確保する」と規定する。

新たな研究

一部の法学者は、この法的な「妥協」に伴うリスクをすでに非公式に指摘している(Lande and Davis 2011、Bernard 2012)。新たな論文(Buccirossi et al. 2015)において、我々はこれらの問題を形式モデルの中で検討する。私人による損害賠償訴訟とリニエンシー制度の相互作用、およびEU立法者が採択した解決策が最も適切であるかどうかを分析する。リニエンシー制度の実効性の維持(または向上)と、カルテル被害者の賠償請求権の保障という目的を考慮する。我々の結果は、抑止力の最大化とカルテル被害者への全額の賠償を認めることとの間には、実際には対立がないことを示している。また、リニエンシー制度を通じた公的な独占禁止法執行と私人による損害賠償訴訟との間にも、指令の基礎となった法的議論が想定していたような対立はないことを示している。分析は、免除を受けた者の責任を最小化(さらには排除)し、リニエンシー供述書を含む競争当局の記録すべてへのアクセスを被害者に全面的に認める法制度が、公的な独占禁止法執行の実効性と、被害者が損害賠償を得る能力の双方を最大化することを示唆する(非申請者に対する三倍額賠償を導入すれば、結果はさらに改善したであろう)。

免除を受けた者のカルテル仲間が私人による損害賠償を共同で負担できる場合には、被害者がカルテルによって生じた損害の賠償を得る可能性も最大化されることが示される。原告の立場は、指令の下では、従前の法制度および我々が提案する最適解から得られる制度のいずれと比べても不利になる。

次に我々は、リニエンシー制度の存在がもたらす追加的な抑止経路(「カルテル仲間に密告されるリスク」-Spagnolo 2004、Bigoni et al. 2015を参照)と、損害賠償訴訟の優先的な標的となることのコストを、異なる法制度の下で分析に組み込む。これらの追加的要因を考慮すると、指令によって生じる抑止力の喪失と被害者が得る賠償額の減少の双方は、検討した最適政策と比べて拡大する。

結論

既存の証拠は、反カルテル執行が、一国の生産性成長への影響という点で、競争政策の手段の中で群を抜いて最も重要であることを示している(Buccirossi et al. 2013)。したがって、カルテルに対する独占禁止法執行の実効性を最適化することは優先課題であり、2014年EU指令は、被害者による私人の請求を容易にすることで正しい方向へ進んだ。しかし、我々の新たな研究(Buccirossi et al. 2015)は、私人と公的な独占禁止法執行の間、またはカルテル抑止とカルテル被害者の賠償請求権の間で指令がもたらした妥協が、実際には決して必要なかったことを形式的に示している。リニエンシー制度の実効性を維持するためにリニエンシー供述書へのアクセスを妨げることで、カルテル被害者が損失を回収する能力を制限する必要はない。その代わりに、リニエンシー利用者の責任をさらに制限することでそれは可能である。その方向に進めば、損害賠償訴訟は、申請しないことのコストを高めることによって、こうした制度の実効性を直接的に向上させる。この法制度では、公的執行と私人による執行は完全に補完的となる。両者の間に想定された対立は、その本来の特性や目的の帰結というよりも、既存の規則の結果であるように思われる。この提案された制度が「法的に実行不可能」であるとも言えない。米国の実務に近く、ハンガリーでは2011年以来ほぼ同一の制度が有効に機能しているためである。同国では、免除を受けた者は、他のすべてのカルテル構成員が破産するという極めて稀な事態においてのみ、自己の(直接的な)損害のみを賠償する責任を負う。ハンガリーがその優れた制度を変更しなければならない理由を説明する責任は、EUに委ねたい。

参考文献

Bernard, K(2012)、「Making victims whole: A restitution approach to cartel damages」、Concurrences1, 3。

Bigoni M, S-O Fridolfsson, C Le Coq and G Spagnolo(2015)、「Trust, Leniency and deterrence. Trust, leniency and deterrence」、Journal of Law, Economics and Organization、オンライン先行公開 2015年3月6日(doi: 10.1093/jleo/ewv006)。

Buccirossi P, L Ciari, T Duso, C Vitale and G Spagnolo(2014)、「Deterrence in Competition Law」、第15章、M. Peitz and Y. Spiegel(編)、‪Analysis of Competition Policy and Sectoral Regulation、Boston-Delft: Now Publishers Inc。

Buccirossi P, L Ciari, T Duso, G Spagnolo and C Vitale(2013)、「Competition policy and productivity growth: An empirical assessment」、Review of Economics and Statistics 4(95)、pp. 1324-1336。

Buccirossi P, C Marvão and G Spagnolo(2015)、「Leniency and Damages」、SITE Working Paper No. 32。

Cauffman, C(2011)、「The interaction of leniency programmes and actions for damages」、The Competition Law Review 7(2)、pp. 181–220。

Connor, J(2013)、「Cartel Fine Severity and the European Commission: 2007‑2011」、European Competition Law Review 34、p. 58。

Dominte O, D Serban and A Dima(2013)、「Cartels in EU: Study on the Effectiveness of Leniency Policy」、Management & Marketing 8、p. 529。

European Commission(2014)、「Directive of the European parliament and of the council on certain rules governing actions for damages under national law for infringements of the competition law provisions of the member states and of the European Union」、Official Journal of the European Union、Ch. PE-CONS 80/14; RC 8, 2013/0185 (COD)。

Komninos, A(2011)、「Relationship between public and private enforcement: quod dei deo, quod caesaris caesari」、16th Annual EU Competition Law and Policy Workshop、European University Institute、Florence、2011年6月17-18日、p.18。

Lande, R H and J P Davis(2011)、「Comparative deterrence from private enforcement and criminal enforcement of the U.S. antitrust laws」、Brigham Young University Law Review(315)。

MacCulloch, A and B Wardhaugh(2012)、「The baby and the bathwater – the relationship in competition law between private enforcement, criminal penalties, and leniency policy」、ワーキングペーパー。

Marvão, C and G Spagnolo(2015)、「What do we know about the effectiveness of leniency policies? A survey of the empirical and experimental evidence」、Beaton-Wells, C and C Tran(編)『Anti-Cartel Enforcement in a Contemporary Age: The Leniency Religion』所収、Hart Publishing(近刊)。

Spagnolo, G(2004)、「Divide et impera: Optimal leniency programs」、CEPR Discussion Paper 4840、ロンドン。

Spagnolo, G(2008)、「Leniency and Whistleblowers in Antitrust」、P. Buccirossi(編)『Handbook of Antitrust Economics』所収、第12章、Cambridge, MA: MIT Press。

脚注

1 欧州司法裁判所が Manfredi(C-295-298/04)およびCourage(C-453/99)の判決で述べた通り。

2 Pfleiderer(C-360/09)およびDonau Chemie(C-536/11)の判決で言及されている通り。

本記事は、 VoxEUとの協力により掲載されています。掲載は、世界経済フォーラムによる見解への支持を意味するものではありません。

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執筆者:Paolo Buccirossiは、競争法および規制分野を専門とする調査・コンサルティング会社Lear – Laboratorio di economia, antitrust, regolamentazioneの創設者であり、同社のディレクターを務める。Catarina Marvãoは、SITE – Stockholm School of Economicsのポスドク研究員である。Giancarlo Spagnoloは、ローマ第二大学およびSITE – Stockholm School of Economicsの経済学教授であり、CEPRの研究提携者、EIEFの定期訪問研究員でもある。

画像:2005年6月15日、ブリュッセルの欧州委員会本部前で翻る欧州連合の旗。UNICS REUTERS/Thierry Roge

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