2030年に向けた道のりでは、より多極化した世界秩序が生まれ、ガバナンスと危機管理が複雑化する可能性が高いでしょう。
民主主義は着実に衰退しており、誰が(もし誰かがいるとすれば)それをグローバルな理想として擁護し続けるのかという問いが生じています。
一方で、世界は多通貨(polycurrency)の時代に移行する可能性があり、同時に世界的なテック・バックラッシュ(tech-lash)が成長を阻害する可能性が高いです。
私たちは、地政学的な変化、気候変動による混乱、人工知能によって特徴づけられる時代を生きています。しかし、今後数年間で最も影響の大きいリスクは、単一の危機から生じるものではないでしょう。それらは、これらの力が相互に作用する中で生まれ、権力を再編し、信頼を損ない、システムを分断していくものです。
世界経済フォーラムの 『2026年版グローバルリスク報告書』は、現在の状況を地政学的対立、情報の混乱、社会の分極化によって特徴づけられる「競争の時代」として捉えています。しかし、より説得力のある問いは、2026年だけに何が起こるかではなく、その後の数年間に何が起こるかです。
これは、コンサルティング会社Wikistratの専門家と協力し、ニューヨーク大学の大学院生たちが実施した第10回目の年次クラウドソーシング型予測プロジェクトの視点です。私はこのプロジェクトの主任アナリストを務めています。この取り組みでは、22か国の105人のアナリストによって特定された277のリスクと衝撃が生み出されました。
この研究から、2030年に向かう道筋を形作る可能性が高い4つのグローバルリスク動向が浮かび上がりました。
1. 権力はますます多極化している
米国のリーダーシップは、今後数年間でより選択的かつ取引的になる可能性が高く、その影響はすでに安全保障、気候変動、世界の保健医療などの分野で見られます。この変化によって米国の影響力がなくなるわけではありませんが、システムの既定の支柱としての役割は縮小します。そのため、他のアクターがリーダーシップの空白を埋めるための余地と圧力が生まれます。
その結果、単に多極的な世界になるのではなく、権力が複数の中心に分散する、ますます多中心的(polycentric)な世界になるでしょう。実際、本プロジェクトの調査では、2030年に米国が世界をリードすると予想したアナリストは37%にとどまり、2026年について同様に考えた70%と比べて大きく減少しています。
アナリストは一貫してAI能力を戦略的権力の指標として扱いました。これはもはや米中間の競争だけではありません。データ、半導体、クラウド処理能力、プラットフォーム、決済といったシステムの支配は、領土や軍事力と同程度に重要性を増しています。その結果、テック企業はもはや周辺的なアクターではなく、地政学的なアクターとなっています。中堅国も影響力を強めており、超大国の規模に匹敵するのではなく、AIなどの分野を重点的に狙うことで、規範の形成や連携の招集に貢献しています。
問題は、より多極化した世界がグローバルな安定を確保できるかどうかです。
2. 民主主義はより深刻な正統性の危機に直面している
世界的な自由は、現在、20年にわたって公式に衰退し続けており、民主主義国よりも独裁国家が多くなっています。これは厄介な問いを投げかけます。今日の世界秩序の中で、民主主義は依然として「最善の制度」と見なされているのでしょうか。最善の制度中心的な課題はもはや選挙や憲法の設計だけではありません。制度が依然として安全、公正、機会、尊厳をもたらせるかどうかが問われています。今日の正統性は、ますま成果に基づくものとなっています。生活費、汚職、治安、機会において統治が失敗すると、政体の種類にかかわらず信頼は損なわれます。世界中のZ世代による抗議運動は、この変化を反映しています。多くは抽象的な民主的理想よりも、統治の成果に対する不満に焦点を当てています。
同時に、逆の兆候も見られます。若い候補者や運動は、世代的なエネルギーを政治権力に転換できるかどうかを試みています。これが民主主義を再生させるか、不安定性を強めるかは、制度が適応するか、それとも単に抵抗するかにかかっています。
今後数年間に注目すべきは、選挙結果だけでなく、選挙後の正統性です。すなわち、結果の受け入れ、裁判所や選挙管理機関への信頼、そして政治的分極化や政治的暴力が常態化するかどうかです。
3. 世界の通貨システムは分断しつつある
最近のIMFのデータに示されているように、世界は米ドルに代わる単一の通貨へと移行する寸前にあるわけではありません。2030年までのより現実的なリスク動向は、漸進的な分断です。ドルは世界の準備通貨として支配的な地位を維持すると予想されますが、USDからの分散化は加速する可能性が高いでしょう。関税、輸出規制、制裁、投資制限といった地経学的手段がより積極的に用いられるにつれ、より多くの国々が自国の選択肢を積極的に検討しています。SWIFTの代替手段はすでに動き出しており。一部の国々は地政学的リスクをヘッジするために米ドル建て資産を売却しており、インド、UAE、中国を含む他の国々は、現地通貨での貿易取り決めを拡大しています。
私たちのクラウド分析では、多通貨化を挑戦者の勝利としてよりも、グローバルなリスク環境として捉えました。分散化はレジリエンスをもたらす一方で、通貨のミスマッチ、流動性の分断、政治的ショックが市場を揺るがした際のより速い連鎖的波及を生むことで、ボラティリティを高める可能性もあります。繰り返し浮上した要因は3つあります。武器化された経済と貿易の不確実性、中央銀行デジタル通貨を含むデジタル決済インフラ、そして民間のデジタル通貨の普及です。
未解決の問いは、世界経済が不安定化をもたらす衝撃を伴わずに多通貨体制へ移行できるかどうかです。
4. 世界的なテック・バックラッシュが高まっている
私たちの分析全体を通じて、AIへの不安は雇用喪失としてだけ捉えられていたわけではありませんでした。それは、職業的アイデンティティの危機として捉えられていました。AIが仕事やキャリアを再編または消失させた場合、私たちは仕事や職業を失って何者になるのでしょうか。仕事は収入であるだけでなく、地位、意味、社会的安定でもあります。技術が何がどのような人に価値があるとされるかを変えると、政治的な帰結が続きます。それには、精神的健康への負担、社会不安、そして技術そのものへの反発が含まれる可能性があります。
2026年から2028年にかけて、自動化が加速するにつれ、この危機はより現実的なものになる可能性が高いです。しかし、テック・バックラッシュは雇用を超えて物理的なインフラにも及ぶでしょう。データセンターは膨大な電力を消費し、送電網の増強を必要とし、水資源を奪い合い、気候への負荷をもたらします。地域社会は、誰がこのインフラの費用を負担し、誰がその恩恵を受けるのかをすでにますます疑問視しています。役員会の内部では、熱意は統治、法的責任、投資収益率をめぐるより厳しい問いかけに取って代わられつつあります。より自律的でエージェント型のシステムによって可能になったものを含め、AIによるサイバー攻撃への懸念も高まっています。
変化する地政学から、社会を支えてきた制度への信頼の損失に至るまで、政治家やその他のリーダーは準備を整えておく必要があります。経済、技術、安全保障のリスクの収束はすでに近づいています。多くの点で、それはすでに到来しているのです。


