英国はつい先ごろ、欧州連合(EU)を離脱するという重大な決断を下した。これは一世代に一度あるかないかの英国政治の大事件であり、その影響が明らかになるまでには長い時間がかかるだろう。米国ではドナルド・トランプ氏が大統領に選ばれ、その影響を多くの人が懸念している。一方、欧州の多くの国々は国内の課題に直面している。欧州連合は、私の生涯のどの時点よりも自信と安定を失っているように見える。英国のEU離脱を問う国民投票は、炭鉱のカナリアだったのかもしれない。西側の主要経済国がすべて順調ではないことを示す、最新の兆候だった。
現在の状況をもたらした共通の潮流がいくつかある。それらが重なり、世界はより危険な場所になっている。だからこそ、先進民主主義国が結束することはかつてないほど重要だ。しかし今、起きているのは正反対のことだ。米国、英国、EUの連携軸が必要とされているまさにそのとき、国内政治が私たちを分断している。
欧州が現在直面する大きな課題は三つある。第一はブレグジットだ。英国はEUを離脱する道を選んだ。これに衝撃を受け、誤った決断だったと考える人もいるかもしれない。しかし、国民の半数を超える人々が望んだことであり、今や私たちはそれを実行に移さなければならない。ただし、この決断を実現するのは容易ではない。この投票結果を実行に移すのは、爆弾処理のようなものだ。どの線を守り、どの線を切るか、慎重に見極めなければならない。詳細で複雑な交渉では、本当に重要な優先事項に焦点を当てる必要がある。
良好な合意に至るという慎重な楽観論には根拠がある。欧州には英国との緊密な関係を保つ明確な経済的利益があり、英国の外交・軍事・情報能力を重視する理由もある。英国は米国との強固な関係も維持しており、そのため米国と欧州の強固な連携軸を保つうえで、引き続き重要な役割を担う。
英国の立場からすれば、EUの法律や規制の多くがすでに自国のものになっていることを認識しなければならない。そのすべてを変えたいわけではない。したがって、英国は今後もEUと高い整合性と互換性を保つことになるだろう。単一市場に加盟する価値も忘れてはならない。指標によっては欧州は世界最大の経済圏であり、英国への対内投資の多くは欧州から来ている。私たちは多くの分野で共通の目標を掲げ、共同プログラムに取り組んでいる。
だからこそ、「ハード」か「ソフト」かというブレグジットの形を問う声は、要点を外していると私は考える。交渉は非常に複雑であり、多くの分野でソフトなものにならざるを得ないだろう。だからといって、一部の分野で厳しい条件が課されないという意味ではない。交渉では、単一市場へのアクセスと英国に求められる対価、金融サービスの「パスポーティング」、人の自由な移動に関する条件など、極めて重要な問題が議題となる可能性がある。
欧州が直面する第二の大きな課題は、低成長と競争力の低さだ。簡単に言えば、欧州は世界的な競争力で後れを取り、成長も弱い。欧州のエネルギーコストは米国の2倍、労働コストはアジアの2倍に上る。欧州の経済成長率は米国を下回り、アジアの大半の国々よりも低い。
欧州は市場の機能性と、生産の効率性に早急に目を向ける必要がある。英国は自由で規制の少ない市場と競争の擁護者であり、これがブレグジットをめぐる最大の懸念かもしれない。英国が席を外した欧州を危惧している。
欧州の第三の課題は社会的不平等だ。スペイン、ポルトガル、ギリシャでは、若者の4分の1が仕事に就いていない。ここにはブレグジットやトランプ氏への投票とのつながりがあると思う。世界の繁栄の恩恵が平等に行き渡っていないのだ。グローバリゼーションは平均すれば世界に利益をもたらしたが、取り残された人々も少なくなく、今、その声が上がっている。私たちは耳を傾け、行動につながる政策を考案する必要がある。

欧州の課題は深刻だが、国境の外にも難しい問題がある。それらに取り組む際に最も重要なのは、米国、英国、EUの連携軸を維持する必要があるということだ。
欧州について述べてきた潮流の一部は、記憶に新しい中で最も異例な選挙を終えたばかりの米国にも見られる。社会的不平等は、欧州よりも米国のほうがさらに進んでいる。米国のラストベルト地域の労働者階級は、30年間賃上げを経験していない。こうした状況では、米国が内向きになり、自国の問題に集中したくなるだろう。

しかし、そうならないことが重要だ。危険な世界には、積極的に関与する米国が必要であり、英国も重要な役割を果たせる。私たちは安全保障、防衛、情報分野を基盤とする米国との関係を築いてきた。私たちの統治制度は、800年前に築かれた共通の基盤に根差している。この連携は過去70年間、平和と繁栄の礎となってきた。世界には危険が満ちているのだから、それを失うのは賢明ではない。とりわけ三つの脅威が際立っている。
第一に、ロシアとの関係がある。ロシアのウクライナでの行動、とりわけクリミア侵攻は、国際関係における法の支配を踏みにじるものだ。一方で、平和な世界を維持するには、ロシアと欧州および米国との建設的な関係が欠かせない。英国は貢献できる。制裁をめぐって英露関係は難しい状況にあるが、ロシアによるロンドンへの投資や、英国によるロシアへの投資など、重要な結びつきがある。
第二に、イラクとシリアで起きた悲劇的な事態は、世界の重要地域に権力の空白を生んだ。人的被害は惨事というほかない。従来の同盟国は、これまでのところ連携した行動を起こせていない。それでも、この地域の平和と安定のために主導的な役割を果たさなければならない。ロシアの役割はここでも複雑で難しく、足並みのそろった対応なしに前進はあり得ない。
第三に、北アフリカの一部はほぼ無法地帯となり、テロや欧州への移民の温床になっている。イラクやシリアと同様、一部の国では急進的なイスラム主義が勢力を保っている。安定した政府を持たない国も多い。北アフリカの問題に対処するには、米国、欧州、英国の間で、同じように一貫した連携軸が必要となる。
こうした地域のすべてで、私たちの国々は直接的な関与から退いている。一部のケースでは不安定化を招く一因となりながら、その治安維持を担う用意がない。EU、英国、米国の国内政治によって、私たちは皆、内向きになっている。そうなれば、よくても問題が解決されず、最悪の場合、ロシアなどの国々が介入して権力と威信を獲得するのを許すことになる。
この地域では欧州の力を総動員する必要があり、そのためには米国と二国間でも、NATOなどの組織を通じても緊密な関係を築く必要がある。英国はEUの外に出ても、世界の舞台で重要な役割を果たせる。英国がそうすることで、欧州はより強くなる。
世界を分断する力は数多くあり、それに抗わなければならない。米国、英国、EUの連携軸には、相互理解の長い歴史があり、それを守る必要がある。NATOの関係や、数百年にわたる法の支配は貴重な遺産だ。英国がEUを離脱しても、これらを危うくする理由はない。米国が新たな局面を迎えても、私たちを結びつける絆を断つ理由はない。こうしたつながりに、私たちは未来への希望を託している。


