格差の拡大は近年、重要な政治課題となっています。「私たちの時代を特徴づける問題」とバラク・オバマが2013年に述べたように、これは当時の「オキュパイ運動の抗議活動」の中心的なテーマであり、メディアや政策関係者の間でも大きな注目を集めてきました。しかし、こうした議論の多くは、豊かな国々、特に米国で起きていることに焦点を当てています。世界の他の地域の格差について耳にする機会は、比較的少ない傾向にあります。
より広く世界を見たとき、各国内の所得格差はどのように変化してきたのでしょうか?
この問いに答えるため、現在と、ひと世代前の1990年という、2つの時点における所得格差の推計値を集めました。所得格差の指標にはジニ指数を用います。詳しくはこちらで説明しています。格差が大きい国ほど、ジニ指数は高くなります。
2つのオンラインデータベースの推計値を利用しました。PovcalNet(世界銀行が運営)と、経済格差チャートブック(トニー・アトキンソン、サルヴァトーレ・モレッリ、マックス・ローザーとともに私が公表)です。これにより、世界人口の約85%を占める83か国のサンプルを得ました。
下のグラフは、現在の格差の水準をひと世代前と比較しています。この種のグラフを初めて見る場合、何が示されているのか理解するのに少し時間がかかるかもしれません。グラフ上で国がどれだけ高い位置にあるかは、2015年の格差の水準を示します。どれだけ右にあるかは、1990年の格差の水準を示します。また、45度線も引かれています。この線より下にある国では、2つの時点の間にジニ指数が低下し、上にある国では上昇しました。
では、このグラフから世界各国の格差について何が分かるでしょうか?
格差が全般的に拡大しているわけではない:
格差がどこでも拡大していると考えるのは誤りです。過去25年間に、格差が拡大した国もあれば、縮小した国も多くあります。この点を知っておくことは重要です。格差の拡大はどこにでも見られるわけでも、グローバル化のもとで避けられないわけでもなく、各国の政治や政策が変化をもたらし得ることを示しています。
国ごとの違いに注目する:
変化の傾向が異なるだけでなく、国によって格差の水準も大きく異なることに注目してください。ラテンアメリカやサハラ以南アフリカの格差が最も大きい国々から、スカンジナビアの格差が最も小さい国々までの開きは、この期間に各国で生じた変化よりもはるかに大きいものです。
地域ごとに明確な傾向がある:
これをグラフで確認するには、右側の凡例にあるラベルをクリックして、特定の地域を強調表示できます。
ラテンアメリカとカリブ海地域のほぼすべての国で格差の水準が非常に高い一方、1990年から2015年にかけて大幅に低下しました。
これに対し、先進工業国では格差の水準が低いものの、すべてではないにせよ、大半の国で上昇しました。
東欧の複数の国では、社会主義体制から移行するなかで格差が拡大しました。
サンプルに含まれる中東・北アフリカ地域の6か国では、主に格差の低下が見られます。サハラ以南アフリカ、東アジア・太平洋地域では、傾向がよりまちまちです。
国ごとの格差の平均水準は変わっていません。各国でジニ指数が上昇した分と低下した分はおおむね相殺され、国別のジニ指数の平均は39.6から38.6へわずかに低下しました。
中国、インド、米国、インドネシアなど、世界で人口の多い国の一部では格差が拡大しました(これらの国の人口を合わせると、世界人口の約45%を占めます)。そのため、各国の人口規模に応じて重み付けすると、加重平均ジニ指数は4ポイント上昇し、36.7から40.8になりました。
つまり、平均的な国で見ると、2つの期間を通じてジニ指数はおおむね横ばいでしたが、平均的な人は、格差が拡大した国に暮らしていたことになります。
格差の水準は収束しつつある:
興味深いことに、このグラフは、過去25年間に国ごとの格差の水準にある程度の収束が見られたことを示しています。1990年のジニ指数が40未満だった国々(グラフの左半分)では、2015年までに大幅に低下した国はほとんどありませんでした。1990年のジニ指数が40を超えていた国々(グラフの右半分)でも、大幅に上昇した国はほとんどありませんでした。すでに述べたように、この見かけ上の収束は主に地域ごとの動きによるものです。ただし、サハラ以南アフリカ、東アジア・太平洋地域のサンプル国では、格差が上昇した国と低下した国がより均等に分かれていますが、それでもおおむねこの収束傾向に沿っています。
結論
ジニ指数は、格差を測る多くの方法のうちの1つにすぎず、それぞれに長所と短所があります。詳しくは、以下の「補足説明」セクションや、「所得格差」の記事をご覧ください。
それでも、このグラフから明らかなのは、豊かな国々で見られる状況をもとに、世界全体の格差を一般化することはできないということです。また、格差は必ず拡大するか縮小するかのどちらかだと決めつけるべきでもありません。二者択一の形で問いを立てても、有意義な答えは得られません。格差が拡大しているか縮小しているかは、どこで、いつ、そして格差のどの側面に注目するかによって異なります。
しかし、この点を知ること自体がとても重要です。格差の拡大は、私たちの手の及ばない世界経済の力がもたらす避けられない結果ではないことが分かります。国の制度、政治、政策は、こうした力が所得分布全体にどのような影響を及ぼすかを左右するうえで重要な役割を果たします。国ごとの違いに目を向けることは、格差を縮小するために何ができるかを知る重要な一歩です。
データの質と解釈に関する補足説明
上のグラフでは、世帯調査データから推計したジニ指数を格差の指標として用いました。このセクションでは、この方法のいくつかの短所を取り上げます。
ジニ指数を用いた主な理由は、利用できる国の範囲が広いことです。しかし、これだけの国を対象にするため、調査手法や概念が非常に異質な推計値を組み合わせる必要がありました。特に、世帯所得と消費の両方を対象とする調査が含まれています。一般に、所得は消費支出より不平等に分布しているため、ジニ指数の推計値は完全には比較できません。例えば、一般に所得調査を用いるラテンアメリカとカリブ海地域の国々は、一般に消費調査を用いるサハラ以南アフリカの国々と比べ、実際以上に格差が大きく見える可能性があります。6
所得の概念にもさまざまなものがあり、ほかにも不整合があります。経済格差チャートブックから得た先進国の推計値は、主に世帯構成を考慮して等価化した可処分世帯所得に関するものです。Povcalの推計値で使われる所得の概念は不明ですが、国によって大きく異なる可能性が高いと考えられます。さらに、Povcalの数値は、世帯構成を調整していない一人当たりの世帯所得に関するものです。そのため、等価所得に基づく推計値に比べ、格差を過大に示している可能性が高いと考えられます。
こうした比較可能性の問題をある程度緩和するため、少なくとも時系列の傾向については、両方の基準年の前後で、同じ大まかな福祉の基準(所得または消費)に基づく推計値が得られる国だけを対象にしました。推計値の出所も両年で統一しました。
しかし、こうした比較可能性の問題とは別に、世帯調査データに基づくジニ指数を使って格差を測ることには、より一般的な懸念もいくつかあります。大きな問題の1つは、世帯調査では最富裕層の所得が欠落したり、過少に報告されたりすることが多く、その結果、格差の程度が過小評価されることです。オンラインデータベースのWID.worldは、税引前所得のうち上位1%または上位10%が受け取る割合に着目する別の方法に基づくデータを提供しています。この方法では、税務データと国民経済計算の集計値を取り入れることで、上位所得をより確実に捉えられます。
政府による税や移転を通じた再分配を考慮せず、所得分布の上位層の動きに着目する上位所得シェアを見ると、過去25年間の傾向がそれほど穏やかではない国もあります。最も顕著な例はロシアです。消費支出に基づくジニ指数は、1990年から2015年にかけて約10ポイント低下したことを示しています。同じ期間に、上位1%が受け取る所得の割合は7%から20%へと2倍以上に増加しました。
グラフに含まれる83か国のうち、両方の基準年の前後について上位所得シェアの推計値もあるのは22か国だけで、完全な比較はできません。しかし、ジニ指数が2ポイントを超えて低下し、かつWID.worldのデータも利用できる3か国のうち、2か国(ロシアとマレーシア)では、同じ期間に上位1%の所得シェアが上昇しました。7
より一般的には、格差を測る方法は数多くあり、どの方法を用いるかによって傾向が大きく異なって見えることを認識することが重要です。Hoy(2015)は、ここで用いたものと非常に似たデータと方法を用い、同様の期間に、各国内の絶対的格差がすべての世界地域で平均して拡大したことを示しています。8ただし、ある方法が「真の」答えを示し、別の方法は誤解を招くと考えるのは適切ではありません。得られている実証的証拠を見る限り、相対的格差も絶対的格差も、人々にとって重要です。9格差が何を意味するのかについて人々が抱く多様な直感を捉えるには、格差を複数の視点から見ることが欠かせません。



