グローバル企業は、難民の受け入れと統合において重要な役割を果たす。採用にあたっては、客観的な事実と証拠に基づくことが求められる。
難民はしばしば母国の復興に欠かせない存在であり、受け入れ社会の生産性向上にも貢献する。
一般的な見方とは異なり、多くの難民従業員は、直面してきた逆境にもかかわらずではなく、逆境を経験したからこそ成功を収めている。
グローバル企業は難民の受け入れと統合において重要性を増している。そこで2022年、世界経済フォーラムは難民の雇用・就業能力向上アライアンスを設立した。同アライアンスの共同議長は、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)およびインカ・グループが務める。
この取り組みは1年以内に、20を超える業界の人事責任者140人と、次のような主要な非営利団体と連携し、テントなどとともに難民支援の加速に取り組んできた。
企業による難民人材の採用や難民起業家の支援が進むなか、ビジネスリーダーは客観的な事実と科学的証拠に基づいて取り組みを進めることが不可欠である。
世界の難民数を正確に捉える
記録上、強制移動を余儀なくされた人々の総数が最も多かったのは第二次世界大戦後で、1億7,500万人に上り、世界人口の約8%に相当した。ウクライナ、シリア、アフガニスタン、ミャンマー、ベネズエラ、スーダンでの大規模な避難を含む今日の統計は、この数字と比べてどうだろうか。
によると、UNHCR2022年半ばの世界の強制移動者数は1億300万人、世界人口の約1.3%だった。5,300万人以上が国内避難民であり、国境を越えずに自国内で移動を余儀なくされた人々を指す。国外の 難民は3,250万人で、世界人口の0.4%に当たる。
一般的な見方とは異なり、ソニア・フランセンとハイン・デ・ハースによる最近の研究は、難民の流入が継続的に増加しているわけではないことを示した。ウクライナ戦争勃発前の約70年間、国際難民の数は世界人口の0.1%から0.3%の間で変動していた。こうした数字は、戦争や内戦の勃発と終結に応じて変化する。
強制移動のデータに関するこうした詳細が重要なのはなぜだろうか。移民研究の第一人者であるデ・ハースが述べるように、数値を正確に把握すれば、状況は絶望的ではないと気づくことができる。
彼は、世界の243人に1人が難民という状況は、乗り越えられない数字ではないと論じる。国際社会には難民を保護する力があり、その責務もある。科学的証拠に基づいて行動すれば、人々と企業の力を結集し、強制移動をめぐる課題の解決に向けて連携を促すことができる。
難民の経済生活は多様
チョバニのCEOであり、テントの創設者でもあるハムディ・ウルカヤは、かつてこう語った。「難民は仕事に就いた瞬間、難民ではなくなる。」
グローバル企業は、難民の労働市場への統合において主要な役割を担うことができる。これは責任ある行動であるだけでなく、ビジネス上も大きな利点がある。労働力の獲得競争と人材不足が世界的に広がる時代に、難民を採用すれば、従業員の定着率を大幅に高め、従業員の士気を強化し、企業の評判を向上させることができる。
難民の全員が企業に雇用されるわけではない。経済的自立の源は多岐にわたる。難民がイノベーターや起業家の中で占める割合が高いことはよく知られている。多くの難民は、ビジネスの才覚、起業家精神、リスクを取る力、自立心を備えている。
困難な生活環境を経験したことで、逆境への適応力が培われた。フォーブス誌が述べるように、レジリエンス、リスク許容度、決断力は、起業家の成功に欠かせない資質である。
さらに、多くの難民は送金や社会的移転を通じて母国の発展に貢献している。オックスフォード大学で強制移動と国際問題を専門とする教授のアレクサンダー・ベッツによれば、難民を人道上の課題としてだけでなく、開発上の課題としても捉えるよう、考え方を変えるべきである。意外に思う人も多いが、難民は世界経済にも貢献している。
ウクライナは、時宜にかなった例である。2022年、同国は欧州・中央アジアで最大の送金受取国となった。送金とは、移民が家族を支えるため、収入の一部を現金または物品で母国に送ることで、ウクライナへの流入額は180億ドルを超えた。送金が長期にわたって続き得ることは、ほかの歴史的な事例からも分かる。
1990年代のボスニア紛争では、人口の約5%が死亡し、約半数が避難を余儀なくされた。戦争勃発から22年後、ボスニアは送金受取国として世界第5位となり、2004年には送金額がGDPのほぼ22.5%を占めた。

難民は母国の復興に欠かせない存在であり、受け入れ社会の生産性向上にも貢献する。たとえば米国では、就労年齢の難民が入国後20年間に納める税金は、受け取る給付額を平均で2万1,000ドル上回る。
一般的な見方とは異なり、難民は雇用、起業、送金を通じて、経済成長に不釣り合いなほど大きく貢献し得る。
心的外傷後の成長とレジリエンス
難民はしばしばトラウマとなる経験をしている。そのため、心的外傷後ストレス障害(PTSD)などの精神疾患に非常にかかりやすいと描かれることが多いが、こうした見方には問題がある。
第一に、この見方は難民を社会の負担とする言説と密接に結びついている。第二に、科学的根拠に乏しい。心理学の研究ではさまざまな結果が示されており、難民のPTSD有病率は平均で約30%と推定されている。つまり、3分の2以上は完全なPTSDを経験していないことになる。
実態は複雑である。生き延びるだけの難民もいる一方、厳しい逆境に直面しながらも、新たな環境に適応し、さらには充実した生活を送る人も多い。
心理学の文献には、難民の心的外傷後成長(PTG)の事例が数多く記録されている。PTGとは、次のように定義される。「非常に困難な生活状況との闘いを経て生じる、前向きな心理的変化」。
多くの難民は、トラウマとなった経験を成長の糧として捉え直し、人格的な強さを育み、人生を新たな視点で味わうことができる。
ビジネスリーダーがこの点を理解すべきなのはなぜだろうか。雇用主は難民を脆弱性という視点から捉えがちである。ペシュらがドイツ企業を対象に行った調査では、難民を社会的、経済的、心理的支援を切実に必要とする被害者とみなす傾向が、雇用主の間に広く見られることが示されている。
しかし難民自身は、能力とレジリエンスを備え、社会への統合を望む存在として見られることを求めている。脆弱性を強調すると、難民が生き抜いてきた経験やレジリエンス、職場や地域社会への多くの貢献が見えにくくなる。
企業が難民を支援し、より良い未来を築けるよう力を貸すことは、実質的な変化をもたらし得る。
変革を起こそうとするリーダーには、世界の難民統計をしっかりと理解するとともに、難民の経済生活は活力に富み、個人の生活は多面的であることを認識する必要がある。

