この記事は、The Conversationによる「原子力の未来」をテーマとする世界規模のシリーズの一編です。シリーズの他の記事は こちらで、この記事で示された見解への反論は こちらからお読みいただけます。
原子力エネルギーの拡大を支持する論拠は、その現状、温室効果ガス排出、核拡散、事故、廃棄物、経済性に関する神話に基づいています。それぞれ順に見ていきましょう。
現状
原子力は、主要なエネルギー源ではなく、かつてそうだったこともありません。世界の年間原子力発電量は2006年にピークを迎えました。一方、世界の発電量に占める原子力の割合は、1993年の歴史的ピークである17%から、現在は約10%に低下しています。大幅に伸びている国は中国、インド、ロシア、韓国だけです。世界のその他の地域では、老朽化した原子炉の廃止が新設を 上回る可能性が高いでしょう。
温室効果ガス排出
原子力の支持者は、原子力エネルギーの温室効果ガス排出はごくわずかであり、したがって気候変動の緩和に重要な役割を果たすべきだと、好んで主張します。しかし、新たな原子力発電所を支持する温室効果ガス排出面での論拠には欠陥があります。
2008年に 発表された研究で、原子核物理学者で原子力エネルギーの支持者でもあるManfred Lenzenは、複数の種類の発電所のライフサイクル排出量を比較しました。高品位ウラン鉱石の採掘に基づく原子力エネルギーについて、発電量1キロワット時当たり平均60グラムのCO2排出量と算出しました。風力は1キロワット時当たり10~20 g、ガスは1キロワット時当たり500~600 gです。ここからが、ほとんどの原子力推進派が無視しようとする部分です。
世界に残る高品位ウラン鉱石の埋蔵量は、せいぜい数十年分です。鉱石の品位が必然的に低下するにつれ、ウランの採掘や製錬に必要なディーゼル燃料が増え、その結果、CO2排出量も増加します。Lenzenは、低品位ウラン鉱石を利用する原子力発電所のライフサイクル排出量を、1キロワット時当たり131 gと算出しました。
これは気候科学の観点から受け入れられません。とりわけ、Lenzenの前提条件が原子力エネルギーに有利なものだったことを考えればなおさらです。遠隔地での採掘は低炭素燃料への転換が最後になる産業の一つであるため、 新たな原子炉は、稼働期間を通じて必然的に温室効果ガスの重要な排出源となる でしょう。
次世代原子炉
一部の 第4世代原子炉 は、ライフサイクル全体での温室効果ガス排出量がより少なくなる可能性がありますが、まだ商業利用されていません。
いずれも、従来型原子炉よりさらに高価になる可能性が高いでしょう。 高速増殖炉 は、従来型原子炉よりさらに複雑で危険かつ高価であり、核兵器拡散を助長しやすいものです。高額な試験炉や実証炉が数十年にわたって建設されてきたにもかかわらず、高速増殖炉の商業化は成功しておらず、今後も実現しないかもしれません。
支持者は、統合型高速炉とトリウム炉について、核兵器用の爆発物の製造には使えないという誤った根拠で正当化しようとします。しかし、規則どおりに運転されなければ、統合型高速炉は実際には 兵器級プルトニウムを抽出し、ひいては爆弾を作ることを容易にします。核燃料として利用するには、まずトリウムをウラン233に転換しなければなりません。ウラン233は原子炉でも核分裂させられますし、米国が実証したように 原子爆弾にも使用できます。
小型モジュール炉(SMR) は、将来の大量生産によって既存の大型炉より安価に発電できるとの期待のもと、数十年にわたり原子力産業が夢見てきたものです。しかし、大型炉には規模の経済があります。反原発ではない憂慮する科学者同盟は、 SMRの安全性とセキュリティに重大な懸念を示しています。
核拡散
原子力の推進派は、原子力産業が現在、強力な国際的監視下にあると述べ、民生用原子力が核兵器開発を促す危険性を退けています。これは、インド、パキスタン、北朝鮮、南アフリカがいずれも民生用原子力を核兵器開発の一助としてきたという厳しい現実を無視しています。さらに、オーストラリア、アルゼンチン、ブラジル、イラン、リビア、韓国、台湾は、 核兵器計画の開始を覆い隠すために民生用原子力を利用しました。幸い、イランを除くすべての国・地域は、現在その計画を中止しています。
したがって原子力エネルギーは、核兵器を保有する国、あるいは核兵器を製造する能力を持つ国の数を増やし、それゆえ核戦争の可能性を高めます。
事故
1986年のチェルノブイリ事故や2011年の福島事故のような重大な原子力事故による被害を分析する際には、急性放射線症候群による短期的な死亡だけでなく、その後数十年にわたって現れるがんも適切に考慮すべきです。これらのがんは、事故による死亡や障害の主な要因となっています。
信頼できる中立的な著者によるチェルノブイリ事故の将来の死者数推計は、 国際がん研究機関による16,000人から、 国際的な医学研究者グループによる93,000人まで幅があります。
福島事故から4年後、発電所では 今なお放射性物質が漏れ続け、 報告によれば12万人が避難生活を続けており 、日本の納税者には数千億ドルに達する可能性のある負担がのしかかっています。
経済性
推進派はしばしば、原子力エネルギーの将来コストについて、極めて楽観的な予測を都合よく選びます。しかし、過去および現在の実績を見ると、そうした予測は現実にほとんど根拠がありません。商業利用されておらず、信頼できるコスト算定ができない第4世代原子炉を除けば、建設中の、現在大いに宣伝されている第3世代プラスの原子炉はすべて(稼働中のものはありません)、工期が遅れ、予算を超過しています。
フィンランドでは、 オルキルオト3号機 は工期が約10年遅れ、予算額のほぼ3倍の費用がかかっています。フランスでは、 フラマンビル3号機 は工期が5年遅れ、予算額の2倍の費用がかかっています。米国ジョージア州では、 ヴォグル は工期が3年遅れ、予算を約7億米ドル超過しています。英国で計画中の ヒンクリー・ポイントC は、約180米ドル/メガワット時を起点とする、インフレ連動の電力価格を35年間保証されます。これは英国の電力卸売価格の通常水準の2倍です。また、約 200億米ドルの融資保証と、英国の納税者が支える保険も受けます。原子力発電所が 巨額の補助金なしに建設されたことがあるのか、疑わしいものです。
原子力廃棄物と再生可能エネルギー
高レベル放射性廃棄物は、10万年以上にわたり安全に管理しなければなりません。これは、いかなる人間の制度の存続期間をも大きく上回ります。
一方、 デンマーク は2035年までに電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目指しており、 ドイツは2050年までに少なくとも80%を目指しています。ドイツの2つの州では、 すでにエネルギーの純消費量を再生可能エネルギーで100%賄っており 、 南オーストラリア州は40%に近づいています。全国電力市場の時間単位のコンピューターシミュレーションによれば、市販されている技術を拡大するだけで、同市場も 再生可能エネルギー100%で運用できる可能性があります。
風力や太陽光発電の変動性は、供給を平準化するため、地理的に分散した場所における複数の 再生可能エネルギー技術を組み合わせて管理できます。なぜ原子力にこだわる必要があるのでしょうか。
この記事は、The Conversationによる「原子力の未来」をテーマとする世界規模のシリーズの一編です。シリーズの他の記事は こちらで、この記事で示された見解への反論は こちらからお読みいただけます。
この記事は当初、 The Conversationに掲載されました。 原文をお読みください。掲載は、世界経済フォーラムが見解を支持することを意味するものではありません。
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著者: Mark Diesendorf は、 UNSW Australia環境学研究所の准教授兼副所長です。
画像:テメリン原子力発電所の冷却塔を背景に、マスタード畑でミツバチが花粉を集めるために飛んでいる。REUTERS/David W Cerny。
