先月、ベネズエラでは社会・政治・経済危機が深刻化し、停電によって国土の70%を超える地域が影響を受けた。停電の正確な原因には議論の余地があるものの、それが引き起こした混乱は疑いようがない。簡潔に言えば、電力ほど私たちの暮らしと経済にとって重要なインフラはほとんどない。
世界各地で、政府と電力事業者は年間7,500億ドルを発電・供給に投資しており、これはエネルギー部門の他のどの分野をも上回る。スマート技術はこの投資に欠かせない。従来の電力システムを、スマートグリッドとして知られる、インテリジェントに接続されたネットワークへと変革する一助となってきた。スマートグリッドには、レジリエンスを高め、電力の効率的かつ持続可能な利用を促進する可能性がある。スマートグリッドによって実現する、需給プラットフォームへのリアルタイムアクセスは、社会に6,320億ドルの価値をもたらす可能性があり、単独のデジタル施策としては他のどれよりも大きい。この価値は主に、顧客のコスト削減と炭素排出量の削減によるものだ。
サイバー攻撃のリスク
電力網のスマート化と相互依存が進むにつれ、サイバー攻撃の影響もより深刻かつ広範になる。世界経済フォーラムの「グローバルリスク報告書2019」によると、大規模なサイバー攻撃は、今後10年間に発生する可能性が最も高いリスクのうち第5位にランクされている。米国のスマート電力網に対するサイバー攻撃の被害額は、1兆ドルと推定されており、福島原発事故の後処理費用のおよそ8倍にあたる。フランスで冬季に6時間の停電が起きれば、被害額は17億ドルを超える可能性がある。スマート電力網へのサイバー攻撃による負の外部性は甚大になりかねない。水の供給、交通、通信を含め、ほぼあらゆるものが電力の利用可能性に依存しているからだ。
電力・エネルギー部門は、サイバー犯罪による企業1社あたりの予測損失額で第2位に位置し、年間の損失額は1社あたり推定1,720万ドルにのぼる。首位は金融サービス業界で、サイバー犯罪による損失額は年間1社あたり推定1,820万ドルだ。サイバー攻撃から連鎖的に生じる影響のコストを、社会が負担することが多いという点で専門家の意見は一致している。
企業がサイバーリスクへの対策を計画し、リスクを防止できるよう、世界経済フォーラムの「リスク・スナップショット:スマートグリッド」報告書は、企業がサイバーリスクを軽減するための3つの方法を示している。
1)優先事項のバランスを取る。企業は、イノベーション、適応力、俊敏性、効率性と、安全性、投資、レジリエンス、セキュリティとのバランスを取る必要がある。偏った取り組みはリスクの増大につながる。調査に協力した業界専門家は、この8つを優先事項として挙げている。
2)予防的な保護策と社内のリスク管理を実施する。企業がデータ駆動型の自動化システムへの依存を強めるなか、IoT(モノのインターネット)技術に関する予防的な保護策と社内のリスク管理が必要となる。これには、経営上層部の説明責任や情報共有も含まれる。
3)組織に意識向上の文化を根付かせる。保険データによると、サイバー保険の保険金請求につながる事故の3分の2は、従業員の行動が直接の原因となっている。たとえば、不注意による端末の紛失が挙げられる。人材不足、スキルの欠如、従業員のエンゲージメントも、これまでサイバー犯罪による金銭的損失の大部分を占める要因となっている。報告書によると、ファイアウォールの構築だけでなく、あらゆる階層の従業員にサイバーリスクについて教育することで、業界にかかる負担の多くを軽減できる。
協調的な取り組みが急務
電力網全体にIoTを安全かつ責任ある形で導入すれば、温室効果ガスの削減、資源管理の改善、レジリエンスの向上、消費者のコスト削減につながる可能性がある。しかし、イノベーションを拡大し、社会全体にもたらす恩恵を加速させるには、業界全体でリスクに取り組む必要がある。
この課題への取り組みを支援するため、フォーラムの第四次産業革命センターは、募集しているのは、急速にスマート化する世界で安全とセキュリティを確保するため、業界全体に適用する新たなベストプラクティスや市場のインセンティブ制度を試験導入する、主要企業、政府、組織、専門家だ。
スマートグリッドの利点が明白になるにつれ、電力部門ではIoT技術への需要が高まっている。IoTへの世界の支出は2020年に1.2兆ドルに達すると予測されており、これは世界の防衛支出予測額の半分を超える(2兆ドル)。また、デジタル広告への支出の2倍を超える(5,000億ドル)。この技術への支出が最も多い業界のなかで、電力事業者は第4位にランクされている。しかし、こうした新技術のセキュリティを確保できなければ、リスクが利点を上回るのではないかと疑問視されるおそれがある。





