世界で最も有名なタクシーであり、英国を象徴する存在でもある。世界的な知名度では、女王や赤い郵便ポストにも引けを取らない。いま、ロンドンの黒塗りタクシーをより環境に優しくするための競争が始まっている。ロンドン・タクシー・カンパニーを傘下に持つ中国自動車メーカーの吉利(Geely)は、 2億5,000万ポンドを投資し 、世界的に有名な黒塗りタクシーのゼロエミッション走行対応モデルを、コベントリーで生産する計画だ。
近隣のタムワースに拠点を置く英国企業Metrocabも、ロンドンのタクシーの 環境に優しいモデル を開発した。一方、深センを拠点とするBYDは、ロンドンのハイヤー会社Thrievに電気自動車を供給する 契約を結んだ 。
こうした技術革新がロンドンで進んでいるのは驚くことではない。同市は大気汚染への対策をますます強化している。2008年以来、ロンドンには世界でも 最大級の低排出ゾーン (LEZ)が設けられており、さらに 超低排出ゾーン (ULEZ)の導入も発表された。2020年にロンドン中心部で施行される予定で、新規タクシー購入に関する規制は早ければ2018年にも導入される見込みだ。
一見すると、電気自動車(EV)はタクシーに最適だ。タクシー会社は一般の消費者とは事情が異なり、車両をほぼ連続して稼働させられるため、初期購入価格よりも維持・運行費用のほうがはるかに重要になる。電気料金がガソリン代より大幅に安い地域では、タクシー会社はEVの高い車両価格を吸収できる。コベントリー大学による 小規模な車両群 の調査は、車両の稼働率が高ければ、短期間で節約につながるという、増加するEVタクシー会社から得られた証拠を裏付けている。
電気自動車は、従来型燃料を使う車より信頼性も高い。可動部品が少ないためだ。タクシーが一時的に使えなくなるだけで即座に収入減となる業界では、これは大きな利点である。排気管からの排出が少ない、あるいはゼロであることは、個々の乗客にとって大きな魅力とは限らない。しかし、環境面での評価を高めたい企業や政府の顧客を獲得するには十分な場合がある。さらに大手企業は、試験導入として電気自動車市場に参入し、電動化が自社に合わなかった場合に個人購入者が経験しかねない混乱のリスクを負わずに、車両群を補完できる。
道のりには課題も
しかし、技術的な課題は残っている。タクシーは公共交通機関ではない。決まった路線を走るわけではなく、専用インフラを自社で保有しているとは限らず、アイドリング時間も一定しない可能性がある。そのため、航続距離の短さ、充電時間、充電設備の利用可能性は、タクシー会社にとってより大きな障害となる。
ロンドン・タクシー・カンパニーが提案する新型車は、超低排出ゾーン内では電気で、区域外ではガソリンで走行できるハイブリッドエンジンを採用し、この課題を克服する。Metrocabの解決策は、バッテリーの持続時間を延ばすためにガソリン式の航続距離延長装置を使うことだ。同時に、Thrievなどの企業は、自社の充電インフラを整備し、充電時間を30分に短縮しようとしている。
それでも疑念は消えていない。日産はULEZの発表を受けて、黒塗りタクシーのガソリン車版(こちらもウェスト・ミッドランズで組み立てられている)の生産を停止すると決めた一方、電気自動車版の導入計画は発表していない。この点は示唆的だ。アストン・ビジネス・スクールのデービッド・ベイリーが 指摘するように、現在のEV市場をリードするメーカーは、市場の展開を見極める様子見の姿勢を取っているようだ。いずれにせよ、変化の余地はまだかなりある。2018年までには、水素燃料電池車が、より高価ではあるものの、給油時間の短い代替手段となるだろう。
きょうはロンドン、明日は世界?
こうした懸念は現実のものだが、メーカーにとっての機会もまた現実にある。ロンドンの超低排出ゾーンの発表は、都市単位で汚染者負担の政策を進める流れにおける次の段階を示す。欧州にはすでに100を大きく超える低排出ゾーンがある。たとえばパリでは、目立つ形で 電気自動車のカーシェアリング制度 をすでに運営しており、ディーゼル車の禁止も2020年に向けて 検討されている。北京では新たな 排出規制 が検討されている一方、上海近郊の島、東灘では、ゼロエミッション都市全体が建設されている。
地球温暖化は各国政府の優先課題リストでは低い位置にあるかもしれないが、都市当局にとって排出ガスが大気の質に及ぼす影響は、しばしば差し迫った懸念である。ロンドンのULEZを成功させられるメーカーには、同様の規制を検討する新興市場の巨大都市から、引き合いが相次ぐかもしれない。
こうした背景から、中国の自動車メーカー2社が競争をリードしているのは偶然ではない。液化天然ガスが代替燃料として高価なことも大きな要因となり、中国の都市では電気タクシーがより一般的だ。中国の自動車メーカーは欧州や米国でブランドを確立するのに苦戦してきたが、タクシー市場では仕様面でより競争しやすい。
吉利によるLTCへの投資は、見事な一手となる可能性がある。吉利は一挙に、世界的に知られるデザインの象徴、ロンドンの黒塗りタクシー業界という比較的保護された発売市場、そしてウェスト・ミッドランズにある充実した研究開発資源へのアクセスを手にする。吉利はすでに上海でロンドンのタクシーの一モデルを生産しており、刷新された電気モデルの輸出を拡大する意向を示している。
いずれにせよ、これは英国にとって朗報だ。超低排出ゾーンは首都の健康状態を改善すると同時に、歴史的にデザイン面で優位性を持つ同国の新興電気タクシー産業に活気をもたらす。これは、先を見据えた環境政策と、ニッチ分野への地域的な研究開発投資を組み合わせる強みを示している。この結果が意図的な設計によるものか、幸運な偶然かは、首相が選挙活動でこの取引をアピールする際には、おそらく問題にならないだろう。
この記事は、 The Conversationとの協力により掲載されています。 元の記事をお読みください。
掲載は、世界経済フォーラムが見解を支持することを意味するものではありません。
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著者:リチャード・ブルックス。コベントリー大学、ビジネス・環境・社会担当リサーチオフィサー。
画像:ロンドンでバスのストライキが行われるなか、オックスフォード・ストリートを走るタクシー。REUTERS/Suzanne Plunkett
