クリーンで安価、かつ無尽蔵の核融合エネルギーは、将来的に世界のエネルギー需要の10%を賄う可能性があると推定されています。
核融合実験には多額の費用と高度な技術が必要ですが、科学と知識の発展に役立っています。
また、実験に不可欠な国際協力の促進にも役立っています。
世界は、安価な電力を供給するための、炭素を排出せず、安全でクリーン、かつ無尽蔵のエネルギー源を緊急に必要としています。核融合エネルギーには、この需要に応える可能性があります。
日本は2050年までに、 中国は2060年までにカーボンニュートラルを実現すると表明し、英国は2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにすることを約束しています。同時に、世界のエネルギー需要は大幅に増加するでしょう。炭素中立なエネルギー源による電化をさらに進める必要があります。長期的には、核融合エネルギーによる新たな供給がなければ、この需要を満たせません。
炭素集約型のエネルギー源が生み出す世界の電力は、減少していくでしょう。再生可能エネルギーは需要のかなりの部分を賄える可能性がありますが、天候の変動があるためベースロード電源を保証できず、人口密度の高い都市にもあまり適していません。現在、核分裂による電力は世界の需要の約10%を供給しています。核融合も将来的には同程度の割合を供給すると推定されています。
核融合エネルギーとは?
核融合は、恒星を輝かせるエネルギーを生み出すプロセスです。原子核同士が「融合」して、より重い原子核を形成するときに起こります。一方、現在世界の原子力エネルギーを生み出している核分裂反応は、原子を分裂させます。地球上で核融合を起こすには、摂氏1億5,000万度を超える温度が必要です。これは太陽の中心部の10倍の高温です。このような極端な高温を実現し、制御することが大きな技術的課題であることは言うまでもありません。通常は、非常に強力な磁石で高温のプラズマを閉じ込め、容器の壁に接触して壁を溶かさないようにする必要があります。核融合研究炉では、摂氏3億度を超える温度が達成されています。
核融合科学の知見によると、核融合エネルギーは燃料の使用量が少なく、核廃棄物の発生もごくわずかで、反応を速やかに停止できます。比較的小型の装置で膨大なエネルギーを生み出せると期待されています。こうした特性に高密度のエネルギー出力が加わることで、巨大都市への電力供給に理想的なものとなるでしょう。
実験が生み出す機会
気候危機の緊急性を踏まえると、核融合装置の設計・開発を含め、新たなエネルギー形態を生み出す実験を加速し、強化する必要があります。
実験は未来への選択肢を生み出します。学習とイノベーションの拠点となり、新たな技能や能力の開発を促します。大規模な実験は、19世紀末に都市の電化が進んだときや、インターネットとワールド・ワイド・ウェブが開発されたときのように、まったく新しい産業を生み出すことがあります。
実験は、概念実証や代替案の検証、技術性能の向上に必要です。通常、実験の数が多いほど、学習曲線は速く上昇します。やがて、先進的な技術者や設計者が最も優れた性能を発揮する技術の組み合わせを見いだし、主流となる設計が確立されます。
核融合の科学的原理は実証済みであり、実用的で制御可能、信頼性が高く費用対効果に優れた核融合エネルギーを実現するための技術的課題には、多くの実験計画を通じて取り組んでいます。米国、英国、ドイツ、中国、韓国、日本など26カ国に、政府資金による核融合研究センターがあります。各国政府はこれらの実験に数十億ドルを投資しており、信頼性の高い核融合装置の開発競争に勝つため、リスクが高く大きな成果を狙う「ムーンショット」型の開発計画に取り組み、努力を新たにしています。
核融合実験はすでに、新素材、ロボット工学、データ分析など、幅広い関連技術の進歩をもたらしています。教育や研修の機会を提供し、民間部門のエンジニアリングや建設の能力開発にも貢献してきました。
多様な実験が進歩につながる理由
核融合装置にはさまざまな設計があります。最も一般的なのはトカマクで、1950年代にロシアの科学者が設計した、通常はトーラス(ドーナツ)形の装置です。実験を通じて、どのような装置が費用対効果よく機能するかについて信頼性の高い知見が得られ、トカマクの設計は進化してきました。英国原子力公社がオックスフォードシャー州カラムに設置する欧州共同トーラス(JET)は、世界で最も成功した装置です。プラズマ加熱に投入したエネルギーの約3分の2に相当する核融合エネルギーを生み出した記録を保持しています。1990年代以降、英国は球状トカマクの開発を先導してきました。球状トカマクは一般にトーラス形の装置より小型で、コンパクトかつ安価で、信頼性の高い構成を目指しています。
ステラレーターはより複雑な設計で、流れるプラズマのバランスを取りやすくするため、容器をねじった形状にします。例として、ドイツのヴェンデルシュタイン7-Xがあります(下記参照)。核融合への別のアプローチに「慣性閉じ込め」があります。これは、核融合燃料に瞬間的に大きな力を加えて圧縮する方法です。レーザーを使って実施できます。例えば、米国の国立点火施設では、世界最強のレーザーを使い、小さなペレット内の核融合燃料を圧縮します。

現在、世界にはトカマクが58基、ステラレーターが12基、レーザー点火施設が5カ所あり、ほかに24種類の構成があります。現在稼働中の実験用核融合炉は74基で、さらに15基が提案または計画されています。稼働中または提案中の核融合炉のうち、79基は公的機関が、20基は民間が所有しています。民間の核融合企業は近年、約20億ドルの投資を集めています。
核融合実験は、政府投資がもたらす規模と長期的な利点を土台に、民間部門のスピード、柔軟性、市場規律を組み合わせて進展しています。政府資金による科学実験は不確実性を減らし、主流となる設計への進展を助けることで、民間投資家のリスクを軽減しています。
国際協力が開発を加速する理由
核融合が直面する技術的課題は規模が大きく複雑なため、国際協力が重要です。概念実証に必要な幅広い実験を数多く行うには、大規模な装置に取り組む大勢の科学者やエンジニアが必要です。世界最大級の科学実験の一つである核融合研究計画「ITER」は、現在フランスのカダラッシュで建設中です。ITERにはEU、日本、韓国、ロシア、米国、中国、インドの7つのメンバーが参加し、全体で35カ国が関わっています。2025年の運転開始が見込まれるこの大規模な国際実証実験の当初予算は100億ドルで、最終的な費用はその4倍に達する可能性があります。ITERトカマク炉の主要部品は、イタリア、スペイン、ドイツ、日本、韓国、インドで製造されています。現在、ITERでは3,000人が働き、世界各地から約15,000人が貢献しています。
ITERは、核融合で生み出すエネルギーを、その生成に使うエネルギーの10倍にすることを目指しています。ITERをはじめとする核融合実験は、科学と工学に大きな進歩をもたらすでしょう。プラズマの基礎科学、材料とその取り扱い、熱管理への理解が深まります。
核融合科学は国際協力のもとで進められていますが、困難な政治状況下で行われることも少なくありません。開発コストの高さや所要期間の正当性を示す必要が、その背景にあります。核融合発電が電力網に電力を供給するのは、投資を決定した政府の存続期間を過ぎてからです。ITERは、軍事や貿易をめぐって対立する国々が、複雑で困難な科学実験であっても協力する意思があることを示しています。そうする動機となるのは、無尽蔵でクリーン、安価なエネルギーという大きな成果です。
核融合実験は、私たちの未来に不可欠な科学技術の知識を進展させ、新たな経済的・産業的機会を生み出します。ジョン・F・ケネディ大統領が、容易だからではなく困難だからこそ課題に立ち向かうよう訴えたことも、心に留めておくべきでしょう。分断された世界において、核融合を支える協調的な科学の成果を示すことには意義があります。また、それは人類が生来の好奇心を追求する機会をもたらします。


