クリーンエネルギー技術にはより多くの金属が必要となるため、脱炭素化は鉱物資源を大量に消費する。
ESG投資への関心の高まりを受け、金属採掘では社会的リスクを考慮しなければならない。
今後、より厳格なESGデータ報告の一環として、鉱山会社は個々の操業が及ぼす影響を報告する必要が生じる可能性がある。
エネルギー情勢と低炭素の未来への移行は、驚くべき速さで進んでいる。さまざまな集団や地域が受ける影響はそれぞれ異なる。勝者もいれば、敗者もいる。
プラスの影響には、大気汚染の減少、画期的な技術革新、再生可能エネルギーによる新たな税収が含まれる。マイナスの影響には、エネルギー転換に必要な金属(ETM)が存在する地域社会や地域で社会・環境面の負担が増すこと、移行に伴う雇用の喪失、税収の減少がある。移行に伴う社会的リスクを重視した環境・社会・ガバナンス(ESG)の枠組みを取り入れることで、こうした重大な悪影響への対処を促し、より迅速で公正な移行を実現できる。
低炭素の未来
世界銀行の2020年報告書は次のように述べている。「低炭素の未来では、鉱物資源が非常に多く必要となる。クリーンエネルギー技術は、化石燃料を基盤とする発電技術よりも多くの材料を必要とするからだ。パリ協定が示すように、気候変動目標をより高く掲げるには、こうした技術をさらに導入する必要があり、その結果、材料の利用量も増える。」
こうした動きはすでに始まっている。銅などのETMに対する旺盛な需要を背景に、ここ数カ月、鉱業セクターはテクノロジー株を上回る動きを見せている。銅は、脱炭素化に基づくあらゆるエネルギー転換に欠かせない金属だ。Markets Insiderによると、銅価格は2021年4月時点で、2025年までに1トン当たり15,000ドルという高水準に達し、66%上昇すると予測されている。
太陽光や風力による再生可能エネルギー施設は、炭化水素を利用する施設よりも、銅、リチウム、コバルトなどの鉱物資源を多く必要とする。例えば、電気自動車には従来型の自動車の6倍の鉱物資源が必要であり、陸上風力発電所には一般的なガス火力発電所の9倍の鉱物資源が必要となる。
ETM需要を押し上げる大きな要因は、電気自動車と蓄電池であり、2040年までに少なくとも30倍に拡大すると予想されている。とりわけリチウムは、パリ協定の目標達成に向けて、2040年までに約40倍へと大幅に増加すると見込まれている。

ESGの考慮事項
しかし、こうした需要急増がもたらす社会、環境、ガバナンスへの影響は、エネルギー転換のシナリオにほとんど盛り込まれていない。これらのETMの採掘と生産には、エネルギー転換において考慮すべき重大な下振れリスクが伴う。大口投資家がESGファンドや再生可能エネルギーへ資金を移し、金融分野でESGが主流となる一方、世界の一部地域ではESG規制が義務化されている。そのため、投資家、株主、規制当局、そして社会全体から、さらに厳しい監視が向けられることになる。
こうしたリスクへの対処は、地域社会、とりわけ最も弱い立場にある人々の尊厳を守る、公正で環境に配慮したエネルギー転換に不可欠だ。今後5年間、銅の採掘を最も大きく制約するのは社会的リスクになると予測されている。地域社会の反対や地域住民への影響、労働条件、鉱山雇用への需要、土地移転、治安、先住民族とその自由意思による事前の十分な情報に基づく同意の権利など、社会面の課題は深刻化するだろう。
そのため企業は、ステークホルダーとの対話、苦情処理の仕組み、労働者や地域住民の意識調査など、包摂的で参加型のプロセスを採用するとともに、次の枠組みを順守する必要がある。ビジネスと人権に関する国連指導原則(UNGP)および責任ある鉱物サプライチェーンのためのOECDデュー・ディリジェンス・ガイダンス。
人権に関する同じソフトローの原則に基づき、オランダの裁判所は5月、シェルに対し、2030年までにCO2排出量を45%削減するよう命じた。これは、気候変動訴訟におけるUNGPの適用について、法的先例を確立した。UNGPが人権の「尊重、保護、救済」の原則に基づいていることを踏まえると、今回の判決は、移行における社会的側面の重要性が高まることを示している。
鉱山会社も移行期に同様の課題に直面する。社会・環境面での影響が大きく、投資家がESGファンドへ資金を移すなか、監視の目が厳しくなっている。鉱山会社がこうした資金を得るには、自らの事業を改善する必要がある。
まず取り組むべき重要な課題は、ESGを構成する三要素のうち、長らく軽視されてきた「S」を正確に測定し、報告することだ。例えば、企業にはさまざまな報告枠組みを使ったESGおよび気候関連リスクの開示が求められているが、そうした報告は依然として任意であり、その大半は気候リスクの開示に重点を置き、企業の社会的リスクや管理慣行への配慮は薄い。「公正で人々を中心に据えた移行」を実現するには、これを変えなければならない。情報開示だけでは、不平等も気候変動も解決できない。企業内でESGリスクを軽減する手段や、それを実行する仕組みについて、より良いデータが必要だ。
そのため企業は、本社で集計したデータではなく、鉱山操業ごとの資産レベルのデータを開示する必要がある。地域や国、さらにはその中の各地域社会が直面するESGリスクは異なるため、これは特に重要だ。例えば、コンゴでのコバルト採掘は、企業を汚職や治安上のリスクにさらすほか、サプライチェーンにおける児童労働や小規模な零細採掘のリスクも伴う。水質汚染や先住民族との協議不足がもたらすリスクはラテンアメリカでより深刻であり、特にペルー、コロンビア、チリなど、鉱山開発計画に対する地域社会の反対が長く続いてきた国々で顕著だ。
こうしたリスクを適切に軽減できなければ、地域社会全体が甚大な被害を受ける可能性がある。また、地域住民の強い反対によって事業が中止されたり、多額の費用を伴う遅延が発生したりして、企業の評判が損なわれ、ひいてはエネルギー転換が遅れるおそれもある。今後は、ESGの「S」の比重を見直し、鉱山会社に限らず、エネルギー転換に関わるすべての企業の事業活動に適切に組み込む必要がある。これこそが、持続可能で公正なエネルギー転換を実現する道だ。

