高等教育制度を通じて、米国の学生人口は、かつて抱かれていたかもしれない「視野が狭い」という残念なイメージを、少しずつ払拭しつつある。国際教育研究所(IIE)が最新報告書 Open Doorsで発表した新たな統計によると、米国は引き続き世界中の学生に選ばれる留学先であり、昨年の留学生在籍数は8%増加した。米国には、世界を移動する学生450万人のうち19%が在籍しており、どの国よりも多く受け入れている。2位の英国の2倍にあたる。
15年間の傾向を追ったこのデータは、米国に来る留学生と、海外に渡航する米国人の双方について知見をもたらす。一言でまとめるなら、「競争」だ。
270億ドルをもたらす
まずは経済面から見てみよう。留学生は引き続き米国経済に大きな恩恵をもたらしており、授業料、住居費、食費、書籍代、渡航費などの費用として、現在は実に270億ドルを拠出している。15年前の90億ドルと比べると大幅な増加だ。他国と比べて、米国の有力大学の多くが高額な授業料を課していることを踏まえると、これは注目に値する。それでも学生は高等教育を求めて米国に集まり続けている。 特にドイツなどでは、質の高い学位を、英語で取得できるものも含め、無料で提供しているにもかかわらずだ。
米国の専門職、ビジネス、学術の分野でしばしば論じられる「東方へのシフト」は、米国の大学生がアジア出身者と交流する機会の増加にも表れている。米国の留学生の半数は、現在、中国、インド、韓国のわずか3カ国から来ている。
中国人学生だけで、米国の留学生全体の31%、すなわち274,439人を占める。2000年にはわずか11%だったため、5倍に増えたことになる。インド出身の学生は12%、96,754人を占める。
ただし、こうした傾向は変わりつつある可能性がある。米国に来る中国人学生の数は5年連続で増えているものの、その増加率は鈍化した。中国政府は、歴史的に続いてきた慢性的な頭脳流出を食い止める手段として、国内の世界水準の教育機関と高等教育の受け入れ能力を強化するため、国内支出を大幅に増やしている。
海外留学先の選択肢が広がる
現在、学術単位の取得を目的に海外へ行く米国人学生は、15年前の2倍を超える。今日では、学部生の9%にあたる289,408人が、海外で単位の一部を取得している。これは、欧州の参加国で実施されている エラスムス・プラス(Erasmus+)モビリティ・プログラムの参加率に近づきつつある。この納税者負担の事業は、欧州の人々が大陸各地で学ぶ機会を提供する。
米国には、留学参加を促進するための、全国的に調整された同様のプログラムはない。連邦政府の支援や、グローバル化・国際化の着実な進展が、大学に留学を拡大させてきたのは確かだが、数値は依然として州ごと、機関ごとの取り組みに左右される。着実に進展しているものの、 米国の留学者数を倍増させる という目標の達成は、まだ遠いかもしれない。
米国人学生は、海外留学先をより多様に選ぶようになっている。欧州は依然として米国人留学生全体の53%を引き付けているが、15年前の63%から低下した。他の地域の存在感が急速に高まっており、特に中国は現在、米国人留学生の12%を引き付けている。ラテンアメリカは16%を受け入れている。
今年、米国にとってもう一つ非常に喜ばしいニュースは、下のグラフが示すように、科学、技術、工学、数学(STEM)分野の米国人学生が、これまでで最も多く海外留学していることだ。これまでSTEMの学生は、留学参加者の中では少数派と見なされていた。これらの分野は、社会科学では到底及ばないほど多くの特許や製品を生み出し、米国と世界経済にとって理想的にはイノベーションの主要な原動力となる。
依然として主にエリート層のもの
しかし、米国の高等教育には、公平性と機会へのアクセスを中心に、大きな課題が残っている。米国の高等教育における国際的な影響が大きく広がっているにもかかわらず、国内4,000校を超える高等教育機関全体で、留学生が占める割合は依然として学生人口のわずか4%にとどまる。
また、海外留学をする学生の属性は、依然として社会経済的エリート層を反映していると言える。卒業までに海外留学を経験しない学生は90%を超える。海外留学に参加する有色人種の学生を増やすことは、この傾向を変える 新たな取り組み があるにもかかわらず、依然として大きな障壁だ。Open Doorsのデータによると、2012~13年の留学者の76%は白人で、黒人またはアフリカ系米国人はわずか5.3%だった。
海外留学の機会へのアクセス改善は大きな課題であるだけでなく、高等教育全般へのアクセス確保も課題だ。米国で質の高い高等教育を受けることは、 ますます特権階層の領域になりつつあるのかもしれない。
今後の展望
国際教育の根幹にある概念、すなわちグローバル化、異文化への感受性、批判的思考、多様性、他者と協働する力、適応力は、ここ10年で一般の人々にとっても流行語となった。しかし、単なる耳当たりのよい決まり文句ではない。今回の新たなデータが示すように、国際教育活動の拡大は、すでに米国の高等教育に影響を及ぼしている。
学生の移動がこうして増えるのに伴い、社会がより大きな問いについて考え続けることも期待したい。誰が影響を受け、誰が取り残されるのか。この数十億ドル規模の事業は、国や大学、学生とその家族の間の競争に何を意味するのか。そして、世界ランキングは教育の 全体的な質にどのような影響を与えているのか。
本記事は、 The Conversation
との共同企画として掲載。
著者:ベルンハルト・シュトライトヴィーザーは、米国ワシントンDCにあるジョージ・ワシントン大学教育・人間開発大学院の国際教育学教授。



