今週、アラブ諸国および各国の指導者がヨルダンに集まり、 中東・北アフリカ地域に関する世界経済フォーラム (MENA)に参加します。議論の中心となるのは、紛争の影響を受ける国々とその隣国を覆う深刻な人道危機、所得およびジェンダーの大きな不平等、失業する若者の増加といった、地域の最大の課題をどう解決するかです。教育は、これらすべての議論の中心的なテーマでなければなりません。地域の課題は教育に影響を及ぼす一方、教育もまた、こうした課題の解決に役立ちます。しかし、この地域の教育制度に残る深刻な脅威や弱点が、これらの重要課題への対応を困難にしています。
紛争が若いアラブ人から未来を奪っている
アラブ世界では、約450万人の子どもが学校に通っていません。その約87%は紛争の影響を受けた国々に暮らしています。さらに290万人の若者が中等学校に通う機会を得られていません。最も深刻な教育危機に直面しているのはシリアの子どもや青少年です。そのうち280万人は、自国でも隣国でも学校に通う機会がありません。シリアの子どもたちをはじめ、スーダン、イラク、リビア、パレスチナ自治区、エジプト、イエメンの子どもたちは、質の高い教育を受ける権利を保障するための協調的な取り組みがなければ、厳しい未来に直面します。
こうした不就学の子どもや若者のうち、憂慮すべきほど多くの人々が家族を養うために働かざるを得ません。その多くは、物品の密輸や性的搾取など、最悪の形態の労働を強いられています。少女たちは、より広範な暴力の危険を最小限に抑え、家族の負担を減らすため、早婚をしています。また、最も弱い立場にある子どもや若者の一部は、武装集団に労働者や戦闘員として勧誘されています。
教育だけで、子どもたちが経験する暴力やトラウマの影響を覆すことはできません。しかし、避難民や難民の子どもたちにとって、教育は希望を意味します。それは、困難に耐え抜く力であり、よりよい生活への架け橋です。教育がなければ、彼ら自身と自国の未来に期待できることはほとんどありません。紛争によって破壊された国々が復興と和解のプロセスを始められるのは、子どもや若者が生産的な市民となるために必要な教育と技能を身につけてこそです。
MENAで紛争の影響を受けた子どもたちに教育へのアクセスを提供することは、世界的な優先課題とならなければなりません。疑いようのない道徳的責務に加え、経済面および安全保障面からもその必要性は明らかです。それにもかかわらず、難民受け入れ国への支援を含む緊急時の教育資金は、常に不足してきました。国際社会が行動を起こさなければ、子どもや若者の一世代を失業、絶望、過激主義へと追いやる危険があります。その影響はMENAの枠を大きく超えて及ぶでしょう。
ジェンダーと所得の不平等が教育格差を広げる
アラブ世界で教育を妨げているのは紛争だけではありません。アラブの子どもたちのジェンダーと家族の所得は、質の高い教育を受けられるかどうかを左右する強い指標であり続けています。教育への障壁が特に大きいのは、農村部に暮らす低所得世帯の少女たちです。
10年前と比べ、初等教育を受けられる少女は増えました。しかし、この地域は、初等学校における女子と男子の在籍比率の平等を達成するうえで、依然として最も遅れている地域の一つです。モロッコなどでは男女比の均衡に近づいている一方、進展が見られるにもかかわらず、ジブチ、スーダン、イエメンではジェンダー格差が依然として特に顕著です。
図1が示すように、ジェンダー、所得、地理的条件の格差が重なり合うことで、アラブ世界における教育貧困の広がりが明らかになります。初等教育段階では、主に最も裕福な少女たちについて男女の平等が達成された例がある一方、最も貧しい少女たちは、最も貧しい少年たちに依然として大きく後れを取っています。モロッコやエジプトなどでは、最低所得層と平均所得層の世帯の子どもたちの間に、初等教育修了率の大きな格差が依然としてありますが、この10年間で縮小しました。また、農村部の子どもたちは、都市部の同年代の子どもたちと同じように質の高い教育を受けることができません。
図1:極度の教育貧困における格差の重なり:17~22歳人口に占める割合、2006年から2008年(出典:GMR WIDEデータ、Brookings AWLBから再掲載)

教育は、不平等の縮小と地域の開発目標の達成に不可欠です。世界全体では、教育を受ける年数が1年増えるごとに、個人の所得は10%増加します。アラブ世界では、女子教育は、アラブ諸国が社会的・経済的な豊かさのために行える最良の投資の一つです。学校に通う少女は早婚する可能性が低く、出産を遅らせ、より健康な子どもを持つ可能性が高くなります。また、 母親の教育年数が1年増えると、5歳未満の子どもが肺炎で死亡する数が23%減少することと関連している とされており、肺炎は5歳未満児の最大の死因です。
教育の質の低さが若者の失業を深刻化させる
最も不利な立場にある子どもや若者の教育機会に大きな格差があることは、MENAの若者の失業につながっています。しかし、教育を受けている人々全員が失業を免れるわけではありません。アラブ世界は学習危機に直面しています。学校に通うこの地域の子どもや若者の半数以上が、国際テストの読み書き・計算能力の得点で測ると、十分に学べていません。
基礎的な読み書き能力に加え、MENAの学習危機は、批判的思考力、創造性、コミュニケーション能力など、職場で必要とされる能力にも及んでいます。アラブ世界では、雇用主の40%が、事業運営と企業成長における主な制約として、技能不足を挙げています。
2013年、MENAの若者の失業率は、世界平均の14%の2倍でした。MENA地域の他の国々より伝統的に失業率が低い資源豊富なGCC諸国でさえ、若者の失業は常に課題となってきました。MENAの若者が職業の世界に向けてよりよく準備できるようにする質の高い教育は、この地域の若者の失業という課題を緩和するうえで不可欠です。
世界経済フォーラムで、あるいはそれ以降にMENAのために策定される将来を見据えた計画には、すべての子どもと若者に質の高い教育へのアクセスを提供することを盛り込まなければなりません。こうした計画を一つの部門だけの責任とすることはできません。この会合は、ビジネス界、政府、市民社会が、切実に必要とされる複数部門にまたがる解決策とパートナーシップの策定に着手する機会です。
教育は、MENAのあらゆる部門が行える最良の投資の一つです。教育は、紛争によって生活を一変させられた何百万もの若者に希望を取り戻し、よりよい未来を望む若い男女に、より大きな平等と機会をもたらすことができます。
中東・北アフリカ地域に関する世界経済フォーラム2015 は、5月21日から23日まで、ヨルダンの死海で開催されます。
著者:Maysa Jalboutは、ブルッキングス研究所のユニバーサル教育センターの非常勤研究員です。
画像:2015年1月3日、アレッポ旧市街の学校で授業を受ける子どもたち。REUTERS/Jalal Al-Mamo

