世界経済フォーラムの「デジタル信頼」イニシアチブは、デジタル信頼の意味について、利害関係者間で世界的な合意を形成するために設立されました。
このイニシアチブは、セキュリティと責任あるテクノロジーの利用を通じてデジタル技術の信頼性を高めるために講じられる措置を特定しています。
フォーラムが開催した2021年サイバーセキュリティ年次会合では、デジタル信頼をめぐる議論が中心的なテーマとなりました。
「デジタル経済の生命線がデータだとすれば、その心臓はデジタル信頼」――2018年に発表されたPwC初のデジタル信頼に関する調査レポートによると、そう表現されています。世界がテクノロジーへの反発とデジタル化に対する市民の支持低下を経験している2021年の今も、この言葉は重みを持っています。
実際、エデルマンの2021年トラスト・バロメーターは、この「テクノロジーへの反発」がいかに広がっているかを示しています。同調査によると、2012年から2021年にかけて、テクノロジー業界に対する世界の信頼は77%から68%に低下しました。偽情報、個人情報のプライバシー、5Gネットワーク、AIのバイアスなどが懸念の上位を占め、テクノロジーへの人々の疑念は強まっています。
デジタルへの信頼の喪失は、現在の生活においてテクノロジーが果たす役割に多くの人が不安を抱いていることを示しています。新型コロナウイルス感染症のパンデミックによる制限に対応するため、世界中で何百万人もの人々がオンライン学習、遠隔医療、リモートワーク、電子商取引へと移行した今、この問題は特に重要です。
PwCの2021年信頼調査は、デジタルに対する意識のこの変化を認めています。同社でサイバー、プライバシー、フォレンジックを統括するショーン・ジョイス氏は、パンデミックによって劇的な変化が生じ、「将来の姿だと思っていたことが、実際には急速に導入された」と述べています。
この観点から見ると、テクノロジーへの不信は、イノベーションを可能にする開かれた国際協力を妨げるおそれがあります。この脅威に対処するため、官民のパートナーは、システムとデータの安全を確保するだけでなく、新たなイノベーションの技術的完全性を守り、維持するために結束しなければなりません。
安全なデジタル世界の構築に必要な人々、プロセス、テクノロジーへの信頼を取り戻すため、産業界の多様な関係者が一丸となる必要があります。この目的に向けて、世界経済フォーラムのデジタル信頼イニシアチブは、デジタル信頼の意味と、セキュリティおよび責任あるテクノロジー利用を通じてデジタル技術の信頼性を高めるために講じられる測定可能な措置について、主要な利害関係者間で世界的な合意を形成することを目指しています。
このイニシアチブを通じて、フォーラムは、より安全で信頼できるテクノロジーの導入を促進し、市民、企業、政府が「不信の罠」に陥るのを防ぎます。2021年11月、フォーラムはサイバーセキュリティ年次会合を開催し、信頼をめぐる議論が中心的なテーマとなりました。
この会合では、サイバーセキュリティ分野の世界的リーダーに、テクノロジーの責任ある利用や、サイバーセキュリティがデジタル空間におけるより深い信頼をどう生み出すかについて、見解と専門知識を共有してもらいました。ここでは、デジタルの安全とセキュリティの最前線で活動する4人のリーダーの知見を紹介します。
説明責任を果たすこと。規則や法律を定める人々も、その規則や法律に従わなければなりません。
マシュー・プリンス、共同創業者兼最高経営責任者、Cloudflare、米国
デジタル信頼を築くために、どのような取り組みをしていますか?
Cloudflareは、まさに信頼を基盤とする事業を行っています。お客様には、データを安全に保ち、システムの信頼性を確保し、極めて高速にデータを流通させるため、当社のシステムを大いに信頼していただいています。私たちにとって、信頼の根幹は透明性です。社内でも社外でも、自分たちの取り組みについて透明である必要があります。つまり、間違いを犯したときには、それを認め、説明し、明確に伝え、同じ過ちを繰り返さないと約束することです。また、説明責任を果たすことも含まれます。規則や法律を定める人々も、その規則や法律に従わなければならないということです。
マシュー・プリンス, 共同創業者兼最高経営責任者、Cloudflare、米国
当社のサイバーセキュリティ戦略は3つの柱で成り立っており、その第一の柱が信頼です。
ジム・アルコーブ、最高信頼責任者、Salesforce、米国
組織内で最高信頼責任者として、信頼を最優先事項にするためにどのようなことをしていますか?
信頼は当社の土台です。文化、テクノロジー、顧客の成功への注力、そのすべてに信頼が根付いています。最優先事項は、信頼を第一とする文化を築き、維持することです。Salesforceの5万人を超える従業員一人ひとりが、あらゆる業務の中心にセキュリティを置くことに取り組んでいます。
つまり、ITやオペレーションから営業、カスタマーサービスまで、事業分野を問わず、私たち一人ひとりがお客様を守ることに尽力しています。入社初日から、強固なパスワードの選択、多要素認証(MFA)の有効化、社内システムへのパッチ適用など、高いセキュリティ意識を持って業務にあたるよう、全従業員を訓練します。
さらに、共通の管理策を提供し、研修や業界最高水準のベストプラクティスを通じてお客様を支援することで、セキュリティという共同責任の一端を果たせるようにしています。例えば、Salesforceのアプリやサービスへのアクセスに、すべてのお客様がMFAを導入することを必須としています。その一方で、Salesforceのセキュリティ、パフォーマンス、可用性の状況を透明性をもって伝え、成功も失敗もリアルタイムで共有しています。
ジム・アルコーブ、最高信頼責任者、Salesforce、米国
テクノロジーを通じて人々を支援すれば、業務の中で正しい行動を取りやすくし、誤った行動を取りにくくできます。
ジュディス・ヴンシック、グローバル最高サイバーセキュリティ責任者兼サイバーセキュリティ部門グローバル責任者、Siemens Energy
組織内でセキュリティ文化をどのように育み、築いていますか?
経営陣が率先して方針を示し、従業員には職務に応じた適切な研修を提供しています。適切な訓練を受けた人々は、例えばコードの開発、新しいサーバーや特権アクセス管理システムの設定といった分野で、知識を広げる役割を果たします。一方、役員秘書を含めたり、取締役会にサイバーシステムの研修を行ったりする場合は、事情が異なります。お客様も参加する合同研修を推奨しています。協力することに価値があるからです。
さらに一歩進めて、テクノロジーを通じて人々を支援し、業務の中で正しい行動を取りやすく、誤った行動を取りにくくする必要があります。そして、自分たちの製品と顧客にとって重要な「信頼の担い手」となってもらうことです。そうすれば、サイバーセキュリティチームの指示に従うだけでなく、顧客が期待することだから規則を守るようになります。私たちにとって大切なのは、研修を推進できる強力な中央のリーダーシップを確立し、協力しながらデジタル信頼とデジタル文化を築くことです。
ジュディス・ヴンシック、サイバーセキュリティ部門グローバル責任者兼グローバル最高サイバーセキュリティ責任者、Siemens Energy、ドイツ
自社のサイバーセキュリティについては、過剰とも言えるほど投資する価値があると考えています。
ウディ・モカディ、会長兼最高経営責任者、CyberArk
企業は、組織の人々やプロセスにサイバーセキュリティと信頼をどのように組み込めますか?
ネットワークセキュリティから製品開発まで、自社のサイバーセキュリティについては、過剰とも言えるほど投資する価値があると考えています。脅威を十分に認識し、それに対応するために必要なセキュリティ対策を講じることが、確固たる基盤を築くうえで欠かせません。例えばCyberArkでは、開発者でもあるセキュリティ専門家を、製品開発サイクルのあらゆる段階に配置しています。
継続的な高度研修によって、組み込まれたセキュリティ専門家は、周囲の開発者に新たな脅威や最新のベストプラクティスに関する情報を提供できます。これにより、私たちが「セキュリティ・ギルド」と呼ぶこともあるセキュリティ専門知識の集団が生まれます。専門グループに所属するという意味です。新入社員は、私たちがセキュリティを真剣に重視していること、そして安全な環境でスキルを磨けることをすぐに理解します。それが、すべての開発者にとって前向きな文化をつくります。
ウディ・モカディ、会長兼最高経営責任者、CyberArk
企業は今日、デジタル信頼を高めるために何ができますか?
信頼される企業を築くには、信頼を最も大切な価値とする必要があります。従業員、顧客、パートナー、地域社会から日々信頼を得ることほど重要なものはありません。
今後、顧客は信頼できない企業とは取引しなくなるでしょう。顧客は、より直接的で信頼に基づいた関係を求めています。信頼はセキュリティよりも広い概念であり、倫理、プライバシー、可用性、透明性などを含みますが、それでもセキュリティは信頼の礎であり続けます。セキュリティという土台がなければ、信頼を支える他の柱を実現することも難しくなります。だからこそ、企業はこれまで以上に、あらゆる業務にセキュリティを組み込まなければなりません。
ジム・アルコーブ、最高信頼責任者、Salesforce、米国
組織は、デジタル信頼を文化的な観点から捉え、組織の全員に行き渡らせる必要があります。つまり、全従業員がデジタル信頼に対する組織の考え方を理解し、それを受け入れる必要があります。あらゆる業務に浸透させるだけでなく、説明責任の水準も定めるべきです。デジタル信頼に関する方針の詳細を、憲章やその他の正式な社内指針文書に明記するよう、企業に勧めています。
ウディ・モカディ、会長兼最高経営責任者、CyberArk
世界経済フォーラムのサイバーセキュリティへの取り組み
サイバーセキュリティ・センターは、リーダーたちが集まり、変化するサイバーリスクとそのシステム全体への影響を理解するための、信頼できるプラットフォームを提供しています。相互接続が進むデジタル世界において、理解と信頼を築くことに重点を置いています。
分野横断的な連携と知見の共有を促すことで、同センターはパートナーのサイバーレジリエンス強化を支援し、協調的な対応が必要な課題に取り組みます。
CEOや投資家には、デジタル信頼と自社の憲章を結び付けて考えるよう強く勧めます。デジタル信頼は、正式に制度化する必要があるサイバーセキュリティのビジネスモデルです。テクノロジー分野のリーダーは、自社の対象範囲と資産を把握し、それらを誰が管理しているかを監視してください。組織のセキュリティ態勢と成熟度は、常に重要業績評価指標で追跡すべきです。しかし、最終的に信頼は科学ではなく感情であり、人がどう受け止めるかに基づきます。サイバー企業にとって、プライバシー、持続可能性、法的保護、物理的セキュリティはすべて信頼と密接に関わっています。あらゆるものが相互につながっているからです。
ジュディス・ヴンシック、サイバーセキュリティ部門グローバル責任者兼グローバル最高サイバーセキュリティ責任者、Siemens Energy、ドイツ
最も大きな効果が期待できる単一の施策は、非難しない文化をつくることだと思います。人間は人間です。人は間違いを犯します。その間違いから学ぶことが重要です。人々が自分の犯した間違いを共有する文化をつくれれば、そこから学ぶことができます。正当な間違いを犯した人を罰しないために、できることは何でもしてください。
間違いを認め、それについて透明性を保つ文化を築きましょう。そうすれば説明責任が促されます。チームの誰かが間違いを犯したら、問題をどう解決し、技術面だけでなく文化面でも影響範囲をどう縮小できるかを考えてください。それが社内の信頼を築く本当の鍵です。社内に信頼がなければ、社外の信頼を築くことはできません。まず、非難しない文化から始めましょう。透明性、一貫性、説明責任から始めましょう。それが信頼を築く土台です。
マシュー・プリンス、共同創業者兼最高経営責任者、Cloudflare、米国

