なぜ投資家は気候戦略に社会的側面を加える必要があるのか

A man walks during sunrise in smog on a polluted day as a red alert issued for air pollution in Beijing, China, December 19, 2016. REUTERS/Jason Lee - RC19182B6B70
In the USA, solar energy alone employs more people than oil, coal and gas combined.Image: REUTERS/Jason Lee
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ついに、投資という巨大なタンカーが方向転換し始めた。数兆ドルに上る投資資金が、今やゼロカーボン経済への急速な移行を支えている。理由は明快だ。気候変動は、世界の貯蓄者や年金受給者に長期的なリターンをもたらす機関投資家の能力を損なう。

しかし、トランプ大統領が米国をパリ協定から離脱させると決めたことで、今年、前途はいっそう険しくなった。トランプ氏が挙げた多くの理由の一つは、協定の順守によって米国で石炭産業を含む数百万人分の雇用が失われるという主張だった。「私はたまたま炭鉱労働者が大好きだ」と大統領は説明した。

「私はたまたま炭鉱労働者が大好きだ」ドナルド・トランプ

ドイツ環境省が実施したファクトチェックによると、雇用喪失に関するトランプ大統領の主張は「疑わしく、誤解を招く」ものであり、反気候変動団体が作成した調査に依拠している[i]。OECDが最近の報告書で収集した国際的な証拠は、グリーン政策は「適切に実施されれば、雇用全体に悪影響を及ぼす必要はない」ことを示している。[ii]

米国では、太陽エネルギーだけで石油、石炭、ガスを合わせたより多くの人々を雇用している。また、スタンフォード大学のマーク・ジェイコブソン教授の研究によると、再生可能エネルギーとエネルギー効率に基づく世界経済は、2050年までに正規のフルタイム雇用をさらに2,400万人創出する。

取り残される労働者

しかし、ゼロカーボンの未来が全体としてプラスの見通しだからといって、移行が雇用に及ぼす影響を軽視してよいわけではない。とりわけ投資家はそうすべきではない。移行がもたらすマクロ経済上の影響は、その広がりと深さにおいて前例がない。社会的な混乱も生じるだろう。適切に対処できなければ、移行そのものが損なわれ、経済実績が悪化し、投資リターンも損なわれる。

投資家は、ポートフォリオ内の座礁資産のリスクをますます意識している。しかし、高炭素産業に依存する労働者や地域社会に及ぶ潜在的な悪影響、つまり、取り残される従業員や地域社会のリスクについては、まだ十分に認識していない。重要な課題には、新たな「グリーン雇用」の勤務地と質、そして衰退する部門における変化の速度や進め方をどう協議するかが含まれる。これは少数の再訓練プログラムだけの問題ではなく、地域の経済的な命運に関わる。

高いリターンを求める投資家にとって、気候戦略に社会的側面を加える意義は、ますます説得力を増し、多面的になっている。

パリ協定を想起する

行動を促す最初のきっかけは、パリ協定そのものにある。同協定は、脱炭素化とレジリエンスを実現する政策を求めるとともに、それらは「労働力の公正な移行の必要性」を考慮すべきだと明記した。国際労働組合運動が長年提唱してきた「公正な移行」は、化石燃料産業で働く人々を尊重し、高炭素部門に依存する地域の再生に投資を振り向けてこそ脱炭素化は成功すると認識する人々の合言葉となっている。[iii]

実際、国際労働組合総連合(ITUC)によって、新たに公正な移行センターが設立された。[iv]過去40年間の脱工業化の歴史が、世界各地に長く残る経済的・社会的な傷跡をもたらし、機会の浪費や経済停滞につながったことは周知の事実だ。こうしたコストの多くには、ジェンダーや人種に固有の側面もある。

こうした根強い問題に対処しなければ、政治的な反発は必然的に起こる。したがって、投資家が円滑な移行を望むなら、その社会的影響を理解することが不可欠だ。

ポピュリストの台頭

投資家にとってのリスクは、気候変動対策に反対するポピュリストが台頭し、炭素集約型部門の構造的な衰退を利用して、クリーン経済の構築に向けたさらなる行動を阻むことだ。こうした抗議は、よりクリーンで効率的な産業モデル(風力、太陽光、エネルギー効率など、雇用創出の可能性を持つものも多い)へ資本を再配分することの政治的な根拠を弱める。

さらに、適切に管理されない移行が引き起こす不平等は、各国の長期的な経済成長力を弱める可能性があるという認識も広がっている。IMFによると、不平等は投資家のリターンの源泉となる成長の「速度と持続性を損なう傾向がある」。[v]要するに、不平等を減らさずに排出量だけを削減しようとする移行は、長期的な投資実績を損なう可能性が高い。

点と点を結ぶ

雇用と気候を結びつける投資家の行動を促す最後のきっかけは、2030年までの地球規模の進歩を導く包括的な国連の枠組みである、持続可能な開発目標にある。全体を俯瞰すると、SDGsは「公正な移行」のロードマップと見ることができる。特に、貧困撲滅(目標1)、ジェンダー平等(目標5)、クリーンエネルギー(目標7)、ディーセント・ワーク(目標8)、気候変動対策(目標13)がそれに当たる。

しかし、これらの目標は個別に捉えられることがあまりにも多く、社会目標と環境目標は別々の領域に分けられている。さらに、公正な移行が重要なのは脱工業化後の経済だけではない。新興国や発展途上国は、化石燃料の主要生産国であるだけでなく、経済発展を高炭素部門に頼る傾向も強い。

しかし、これらの目標は個別に捉えられることがあまりにも多く、社会目標と環境目標は別々の領域に分けられている。

また、そうした国々は社会的セーフティーネットが最も脆弱であり、気候影響の深刻化によって生計を損なわれている人々の大半を抱えている。このことは、真にグローバルな視点が必要であることを示している。

まずガバナンスから

投資家が取り組むべき実務上の課題は、ESGのE(環境)とS(社会)を結びつける気候戦略を策定することだ。まずはG(ガバナンス)から始めるとよい。株主エンゲージメントは、資本を2度目標に沿わせるための重要な手段である。

労働者や地域社会への影響を気候変動に関する対話に組み込み始めた投資家もいる。例えばCalPERSは、米国の公益事業会社との取り組みでこれを実践してきた。さらに労働組合は、労働者資本委員会を通じて株主提案の原則を策定し、企業に対し、社会的対話とともに脱炭素化計画を提示するよう求めている。[vi]

米国企業に気候シナリオの公表を求める株主提案は、今年、エクソンで62%、オクシデンタルで67%の支持を得た。次の段階は、シナリオ分析や企業戦略(雇用計画の設計と実施を含む)などをめぐる積極的な株主エンゲージメント戦略に、移行の社会的影響をより明確に組み込むことである。

地域に根ざしたアプローチ

資本配分も、行動を起こすべき重要な分野である。ここで目指すのは、インパクト投資とグリーン資産の双方への関心の高まりを結びつけることだ。脱工業化によってすでに取り残された地域や、脱炭素化の影響を受ける可能性が高い地域に、投資をどう誘導するかが課題となる。

米国の年金基金は長年、地域経済を支え、将来の年金給付を可能にする繁栄を生み出すため、「経済的目的を持った投資」(ETI)戦略を採用してきた。グローバル化の弊害の一つは、経済・金融の意思決定における地域の重要性が薄れたことだ。今こそ、地域に根ざした気候投資のアプローチを採用する機会がある。

このアプローチでは、不動産、インフラ、プライベートエクイティ、債券の投資家がアクセスできるグリーン資産の案件群を特定し、育成できる。地域の再生可能エネルギー事業は、脱炭素化、地域に根ざした投資、地域社会のエンパワーメントを組み合わせる魅力的な方法であり、一部の英国年金基金が推進している。地域の「ソーシャル証券取引所」の設立も、株式による資金調達に役立つ可能性がある。

アパラチアの公正な移行基金など、期待の持てるボトムアップの取り組みが進んでいる。しかし、これらはまだ機関投資家の中核ポートフォリオと結びついていない。[vii]前進する一つの方法は、「サステナブル・ファイナンス特区」の試験的な設置だろう。ニーズが大きく脆弱性の高い地域に注目し、規模を拡大できる実践的な行動を特定することを目的とする。

資金調達

こうした地域に根ざした戦略は、適切な政策が整って初めて機能することが多く、公正な移行をめぐる政府との対話に投資家が取り組む必要性も示している。意欲的な気候政策を求める投資家の姿勢が強まったことは、近年の成功例の一つだ。22兆米ドルを超える資産を運用する約400の投資家が、パリ協定の迅速な実施を推進するよう各国政府に求めている。

気候目標を現実のものとする「資金調達計画」の策定に取りかかる今、投資家は政策立案者やその他の関係者と協力し、脆弱な部門や地域社会が直面する雇用リスクに対応するとともに、そこに存在する再生の機会を実現するため、具体的な公的資金やインセンティブを整備する必要がある。気候変動に関する投資戦略が、より広範な経済再生を実際にどのように後押しできるかを理解するため、投資家が労働組合、地域団体、地域当局に働きかけることが極めて重要だ。

最終的に、移行にはさまざまな要素が求められる。気候目標の達成に効果的であり、混乱を最小限に抑えて円滑に進み、機会とリターンの双方を生み出す前向きなものでなければならない。そして、公正であることも必要だ。この不可欠な要素を実現するうえで、投資家の行動が極めて重要となる。

ニック・ロビンズは、国連環境計画の持続可能な金融システムに関する調査の共同ディレクターを務める。本稿は個人の資格で執筆している。

謝辞:本稿の着想は、2017年5月にフィンドホーンで開催されたオーセンティック・インベスターのリトリートでの議論から得た。このリトリートの参加者をはじめ、貴重な意見を寄せてくださった皆さんに感謝する。特に、ロビン・アルフレッド、アンドレア・アルメニ、ヴォンダ・ブルンスティング、アビゲイル・ヘロン、ロブ・レイク、セーレン・ラーセン、ウィル・ポムロイ、フィオナ・レイノルズ、シャノン・ローハン、アン・シンプソン、アリソン・テイト、リリー・トムソン、デビッド・ウッドに謝意を表する。

参考文献

[i] http://www.bmub.bund.de/en/topics/climate-energy/climate/international-climate-policy/paris-agreement/fact-check/

[ii] https://www.oecd.org/.../Employment-Implications-of-Green-Growth-OECD-Report-G7-Environment-Ministers.pdf

[iii] http://www.oecd.org/environment/cc/g20-climate/collapsecontents/Just-Transition-Centre-report-just-transition.pdf

[iv] https://www.ituc-csi.org/just-transition-centre

[v] https://iri.hks.harvard.edu/blog/why-and-how-might-investors-respond-economic-inequality

[vi] https://www.ituc-csi.org/IMG/pdf/shareholder_resolution_principles.pdf

[vii] 興味深い例として、デンマークのグリーン雇用イニシアチブ(http://groennejob.dk/documents) およびカナダのクリーン成長の世紀イニシアチブ

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