迫り来るエルニーニョは単なる気候現象ではない。システム全体を揺るがすショックだ

Residents of Pumula East township walk home after fetching water from a well, as temperatures soar during an El Niño-related heatwave and drought in Bulawayo, Zimbabwe in 2024.
El Niño can cause extreme weather events such as drought across the world.Image: Reuters/KB Mpof
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  • 今後数カ月以内にエルニーニョ現象が発生する可能性は80%で、予測では少なくとも中程度、さらに強まる可能性もある。

  • エルニーニョのピーク時の強さは不確かかもしれないが、リスクの方向性は明らかであり、この気候パターンの影響は世界各地で感じられる可能性が高い。

  • 政府、企業、支援機関はいずれも、潜在的な影響を和らげるため、重大なシステムショックとなり得る事態に備えなければならない。

エルニーニョは単なる気象の話として扱われがちだが、2026年にそう考えると、警戒心が薄れる恐れがある。最新の予測は、政府、企業、支援機関に対し、重大なシステムショックとなり得る事態への備えを促す早期警告と捉えるべきだ。行動を起こせば、その影響を和らげられる。

世界気象機関(WMO)は、2026年6月から8月にエルニーニョ現象が発生する可能性は80%と予測している。地球の気温を上昇させ、異常気象を引き起こす傾向のある自然の気候パターンについて、ピーク時の強さと時期には不確実性が残るものの、ほとんどの予測モデルは少なくとも中程度、さらに強まる可能性も示している。

WMOの予測に加え、米国海洋大気庁(NOAA)の気候予測センターは、エルニーニョが2026年5月から7月に始まる確率は80%を超えると見積もっており、2027年初めまで続く確率は96%としている。

エルニーニョのピーク時の強さは不確かかもしれないが、リスクの方向性は明らかだ。そして、その影響は広範囲に及ぶ。

エルニーニョとは何か

エルニーニョ(スペイン語で「男の子」)は、自然に発生する気候パターンであるエルニーニョ・南方振動(ENSO)の暖期に当たる。

数年ごとに再発するこの気象現象では、熱帯太平洋の中部から東部にかけて海面水温が異常に上昇し、平年より気温が高くなる。エルニーニョの影響は赤道付近の東太平洋で最も強いが、地球全体の気温も上昇させる。

2026~27年の現象が予測どおりに発生すれば、食料システムの脆弱化、公的財政の逼迫、エネルギー市場の緊張、地政学的不安定性の高まりにすでに直面している、さらに暑くなった地球を襲うことになる。また、限界に近い状態で運営されている機関のレジリエンスが試される可能性も高い。

記録上、最も強いものの一つだった1877~78年のエルニーニョは、アジア、アフリカ、ラテンアメリカで干ばつを同時に引き起こし、1876~78年の世界的な飢饉の一因となった。この飢饉では推定5,000万人が死亡した。これは、飢餓、統治の弱さ、制度的な怠慢が重なると、気候ショックが命を奪う事態になり得ることを示している。

エルニーニョの生態系と人々への影響

エルニーニョが最初にもたらすリスクは気象面にあり、大陸をまたいで降雨と気温のパターンを変化させることで、地域によって干ばつや洪水の可能性を高める。農家、漁業者、小規模生産者が最初の打撃を受けることが多い。

影響は地理によって異なる。東南アジアやオーストラリアではしばしば乾燥が進む一方、東アフリカや南米の一部では洪水リスクが高まる傾向にある。しかし、相互につながった世界経済では、地域の異常気象が地域内にとどまることはほとんどない。

エルニーニョがその後にもたらす生態系への影響は、よく知られている。海水温の上昇は、サンゴの白化を深刻化させ、漁業を混乱させる可能性がある一方、洪水は生息地を破壊し、汚染物質を拡散させる。また、干ばつと暑さは山火事のリスクを高め、森林に被害を与え、河川流量を減少させる。

エルニーニョは、気候上の危険であると同時に、公衆衛生上の脅威としても捉えるべきだ。

こうした損失は、生物多様性だけでなく、人々の生計にも影響する。漁業、観光、農業、水システムはいずれも、健全な生態系に依存している。自然環境が損なわれると、経済のレジリエンスも弱まる。

健康への影響も同様に深刻だ。世界保健機関(WHO)は、ENSO現象が、暑熱ストレス、山火事の煙への曝露、媒介生物による感染症、干ばつに関連する健康被害、栄養面のショックと関連していると警告している。具体的な影響は、強度、季節、地域の脆弱性によって異なる。

すでに暑い地域では、エルニーニョによって気温が安全の限界を超え、屋外労働者、高齢者、子ども、慢性疾患のある人々に危険が及ぶ可能性がある。暑さは睡眠の質を損ない、生産性や学習にも影響する。感染症の流行、煙の吸入、栄養不良に直面する可能性のある時期に、医療システムへの負担も増大する。

こうした観点から、エルニーニョは気候上の危険であると同時に、公衆衛生上の脅威としても捉えるべきだ。

食料、燃料、サプライチェーンに及ぼすエルニーニョの影響

エルニーニョは、すでに経済リスクの影響が表れている商品市場をさらに混乱させる恐れがある。世界は、生活費ショックに気候ショックが重なる事態に備えなければならない。

コメは、取引される商品であると同時に、何十億人もの日々の必需品でもあるため、重要な先行指標となる。小規模な供給障害でも価格が上がり、輸入額が膨らみ、低所得世帯が必需品を切り詰めざるを得なくなる可能性がある。

アジアの農家はすでに、コメの作付けを減らしている。その背景には、イラン戦争によるエネルギーと肥料の価格高騰があり、エルニーニョは世界で最も消費されている主食の供給を脅かしている。

エネルギー、食料、市場など、イラン紛争が経済に及ぼす影響について、チーフエコノミストが解説します。
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干ばつで河川水位が下がり、内陸輸送が滞る。洪水は道路、港、倉庫、加工施設に損害を与える。暑さは幅広い産業で労働生産性を低下させる。こうしてエルニーニョは世界のサプライチェーンにも混乱をもたらす。気候リスクが高まるのと同時に投入コストも上昇しているため、農業はとりわけ大きな影響を受ける。

エルニーニョはシステム全体を揺るがすショックとなり、収穫量を脅かす。折しもホルムズ海峡周辺の長期化する危機が農業コストを押し上げ、食料供給を逼迫させ、家計負担を増加させている。

テクノロジーにもリスクをもたらす。気候ショックは電力網、水システム、半導体生産、物流回廊、データセンターの運用を混乱させる可能性がある。これらは、チップ製造やデータセンターが依存する基盤であり、世界のシステムに不可欠な存在となりつつあるAI経済全体を脅かす。

不足が政治問題に転じるとき

歴史が示すように、食料や水の不安はすぐに社会的・政治的リスクへと発展し得る。主食の価格が上がると、その影響を直ちに感じるのは、より貧しい世帯だからだ。

こうした不足に対し、政府は輸出規制、補助金、配給、緊急輸入などで対応することが多い。こうした措置が必要な場合もあるが、市場をゆがめ、不足を別の地域へ移すことにもなり得る。食料不安は不満を強めて抗議行動を引き起こし、農村の困窮を深め、移住圧力を高めることもある。

国連機関はすでに、ラテンアメリカとカリブ海地域でエルニーニョによる食料不安リスクの高まりが懸念されると警告している。エルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラス、ニカラグアにまたがる中米の乾燥回廊で干ばつが起きれば、さらに多くの家族が脆弱な状況に追い込まれる可能性がある。

エルニーニョは、地政学的・地経学的圧力が重なり合い、強まるなかで発生すると予測されている。そこには、世界的な紛争水準の上昇、戦争に起因する燃料・肥料不足、重要鉱物の供給制限などが含まれる。気候ショックは、人道支援の必要性を高める一方で、各国政府や支援機関の対応能力を損なう恐れもある。特に支援予算が縮小するなかでは、そのリスクが大きい。

緩和、適応、レジリエンスへの投資

危機はもはや整然と順番に訪れることはない。危機は重なり、連鎖し、互いを増幅させる。同時に、政治システムには、余力が縮小するなかですべてを一度に受け止めることが求められている。

世界経済フォーラムの『グローバルリスク報告書2026』は、意思決定者が現在の危機と長期的な優先課題とのバランスを取らなければならない、激動するリスク環境を描いている。一方、『国際AI安全性報告書2026』は、汎用AIシステムの能力とリスクが加速度的に高まっていることを概説している。これらの警告は、個々のショックの深刻さだけでなく、ショック間の緩衝力が損なわれることも重要だと示している。

レジリエンスへの投資は今すぐ始める必要がある。エルニーニョを企業のリスク管理と国家安全保障の評価に組み込み、取締役会は洪水、暑さ、干ばつ、水ストレス、投入資材の不足、エネルギー不安に対する自社の脆弱性を検証すべきだ。

エルニーニョを企業のリスク管理と国家安全保障の評価に組み込むべきだ。

政府にも同じ規律が必要だ。食料備蓄、水システム、暑熱対策を含む保健計画、電力需要、社会保障、緊急時の物流について、ショックが訪れる前にストレステストを行うべきだ。

投資家は、気候の影響を受けやすい商品、脆弱な輸送回廊、高温環境で働く労働者、水を大量に使う生産、エネルギーを大量消費するデジタル基盤に依存する企業を精査すべきだ。

人道支援機関も早期に動く必要がある。国連食糧農業機関(FAO)が行ったエルニーニョへの先行対応では、2023年と2024年に24カ国で170万人に対し、危険が本格化する前に予防的支援を届けた。

気候ショックが訪れる前に曝露を減らす

当面の課題は、ショックが連鎖する前に曝露を減らすことだ。例えばフィリピンは、農業、エネルギー、教育、保健、安全保障を対象とするエルニーニョ国家行動計画を改定した。また、防災リスク管理や社会保障制度に先行的な対応を組み込み、深刻な暴風雨の前に現金給付を行う仕組みも整備している。

アフリカ南部では、同様の計画に現金給付、干ばつに強い種子、最終段階まで届く早期警報メッセージが組み込まれている。ラテンアメリカとカリブ海地域では、国際機関が各国政府と連携し、先行的な対応、備え、食料安全保障のレジリエンス強化に取り組んでいる。

都市も対策を進める必要があり、多くの都市がすでに動き出している。シンガポールは、都市のヒートアイランド現象に対処するため、暑熱マップの作成、都市緑化、計画策定ツールに投資している。コロンビアのメデジンでは、緑の回廊が、自然を活用したインフラによって気温を下げながら、大気質と公共空間を改善できることを示している。植栽、反射材、涼しさを重視した都市設計は、実践的な方法として、都市の暑熱曝露を減らす。

長期的には、大規模な適応策がレジリエンスに欠かせない。マラウイなどの国々は、気候スマート農業を国家開発政策や農業政策に取り入れている。一方、ザンビアで2024年に起きたエルニーニョによる干ばつは、作物の多様化、食料備蓄の強化、レジリエントなエネルギーシステム、より優れた水管理の必要性を浮き彫りにした。

国連食糧農業機関と世界銀行は、気候スマート農業が食料安全保障、農村の生計、気候レジリエンスを結びつけられることを指摘している。小規模農家、インフォーマルセクターの労働者、農村世帯に届く社会保障と組み合わせると、特に効果的だ。

企業は適応を慈善活動ではなく戦略として扱う必要がある。具体的には、サプライヤーの曝露状況を把握し、水への依存を減らし、調達先を多様化し、代替物流を確保し、エネルギー需要のストレステストを行い、気候変動の影響による変動を事業運営のコストに織り込むことだ。

エルニーニョは予見可能なシステムショックであり、社会は備えなければならない。正確な強さは不確かかもしれないが、影響が及ぶ経路は分かっている。紛争、技術競争、脆弱な市場がすでに存在する世界で、エルニーニョの影響が現れるまで待つことは、統治の失敗にほかならない。警告は明白だ。今すぐ行動しなければならない。

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