ネットゼロは食料安全保障を脅かすのか?

Sulfuric acid is important to a range of industries.
Sulfuric acid is important to a range of industries.Image: Unsplash/Jeremy Bezanger
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  • 硫黄は幅広い産業で重要な役割を果たすが、とりわけ農業や肥料に欠かせない。

  • しかし、世界の硫黄の大半は化石燃料に由来する。そのため、需要が増加するなか、ネットゼロへの移行によって供給が大幅に減るおそれがある。

  • 世界は新たな硫黄の供給源を見つけるとともに、リサイクルや、硫酸を大量に使用しない代替産業技術によって需要を削減する必要がある。

硫酸の形の硫黄がなければ、産業界は農作物の収量を高めるリン酸肥料を製造したり、次のような用途に使われる不可欠な金属を採掘したりすることが困難になる。太陽光パネルから電気自動車のバッテリーまで、さまざまな製品に使われている金属だ。

しかし、ほとんど注目されてこなかった問題が迫っている。80%超の世界の硫黄供給は廃棄物由来である。二酸化硫黄の排出を減らすため、石油や天然ガスなどの化石燃料から硫黄が抽出される(これらには通常、重量比で1~3%の硫黄が含まれる)。二酸化硫黄は、酸性雨を引き起こす気体である。

気候変動を抑えるために化石燃料をなくせば、需要が増加する一方で、硫酸の年間供給量は大幅に減少する。世界ではすでに、硫酸が年間2億4,600万トン超使われている。グリーン経済の急成長と集約農業によって、2040年までに需要が4億トンを超える可能性がある。

、最新の研究によると、2050年までのネットゼロ排出の達成に必要な化石燃料の急速な使用削減により、2040年までに硫酸が最大3億2,000万トン不足する可能性がある。これは現在の生産量の130%に相当する。

硫酸の価格は上昇し、より収益性の高いグリーンテクノロジー産業が肥料生産者より高値を提示すると見込まれるなかで、競争が激化するだろう。その結果、食料生産コストが上がり、消費者にとって食料がより高価になる。とりわけ、農家がこうしたコスト増を負担する余力に乏しい発展途上国で影響が大きい。

不可欠な工業用化学物質

硫黄は、幅広い製品に含まれており、タイヤ、硫黄肥料、紙、石けん、洗剤などに使われる。しかし、最も重要な用途は工業化学であり、幅広い材料の分解に用いられる。

特に2008年以降、硫黄価格は化石燃料の生産と密接に連動している。Image: Maslin et al. (2022)、著者提供

高性能バッテリー、自動車用軽量モーター、太陽光パネルなど、低炭素技術の急速な普及は、大幅に増加させると見込まれるのが鉱床の採掘であり、とりわけコバルトやニッケルの重要な供給源となりつつあるラテライト鉱石の採掘が増える。2050年までに、コバルト需要は460%、ニッケルは99%、ネオジムは37%増加する可能性がある。これらはいずれも、現在、大量の硫酸を使って採掘されている。

同時に、予測される人口増加や食生活の傾向も、硫酸の最大の用途であるリン酸肥料製造業界からの需要を押し上げる。

硫酸の供給源が縮小する見込みのなか、需要は急増する。Image: Maslin et al. (2022)、著者提供

米国地質調査所によると、硫酸塩鉱物は蒸発岩(浅い塩水の海や湖が自然に蒸発して形成された岩石)にほぼ無尽蔵に存在し、また、鉄硫化物や単体硫黄も火山性鉱床に豊富に存在する。しかし、これらを利用するには、採掘や鉱物処理を拡大する必要がある。

現在の方法で硫酸塩を硫黄に変換するには、多くのエネルギーを消費し、大量の炭素を排出する。硫黄の採掘や硫化鉱石の処理は、大気、土壌、水を汚染し、水たまりや帯水層を酸性化させるほか、ヒ素、タリウム、水銀などの有害物質を排出する。また、集約的な採掘には常に人権問題が伴う。

リサイクルと技術革新

化石燃料に依存しない新たな硫黄の供給源を見つけるだけでなく、リサイクルや、硫酸を大量に使用しない代替産業技術によって、硫黄の需要を減らせる可能性がある。

下水からリン酸塩を回収して肥料にすれば、リン鉱石を処理して肥料を製造するために必要な硫酸を減らせる。これは、長期的に世界でリン鉱石が枯渇するという懸念への対応にも役立つ。また、リンが淡水域や沿岸の生息環境に流入する量も減らせる。リンの流入は大規模な藻類の異常増殖を引き起こし、他の植物や魚を窒息させるおそれがある。

電気自動車のリチウム電池をより多くリサイクルすることも役立つ。希少金属への依存を減らす新たなバッテリーやモーターを開発すれば、鉱石から金属を抽出するために必要な硫酸の需要を抑えられる。

再生可能エネルギーの無駄を減らすこと(太陽光や風力など)や、こうした金属を必要とするバッテリーを使わずにエネルギーをより多く貯蔵することは、硫酸需要を削減すると同時に、化石燃料の需要を減らし、脱炭素化を加速させる。将来的には、特定の細菌を培養することで、硫酸塩から大量の硫黄を生産できる可能性もある。

将来の硫黄不足を見越して、各国および国際的な政策によって将来の需要を管理し、リサイクルを増やし、環境面・社会面でのコストを最小限に抑えた代替供給源を安価に開発できる。

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