海上輸送は、世界の温室効果ガス(GHG)排出量の2~3%を占めています。
課題は大きいものの、海運業界は脱炭素化に向けて動き始めています。しかし、依然として障壁が残っています。
「First Mover's Coalition」の報告書は、こうした課題を詳しく示し、持続可能な海運燃料産業の構築に向けて障壁を乗り越えるための指針を提示しています。
現在、世界の貿易品の80%以上が船舶で輸送されており、海上輸送は世界の温室効果ガス(GHG)排出量の2~3%を占めています。海運からの直接排出は、サプライチェーン排出の不可欠な一部です。
海運業界は排出削減に向けて前進しています。例えば、船会社はメタノール二元燃料船を200隻以上発注しています(ゼロエミッションの脱炭素化経路を実現する有望な燃料です)。
しかし、メタノールをはじめとするゼロエミッション燃料はすでに供給不足にあり、供給プロジェクトの現状見通しにも懸念があります。海運燃料プロジェクト計画の95%以上が、建設開始に必要な最終投資決定(FID)にまだ至っていません。
FIDに至るまでの障壁に関するインサイトレポート
削減が困難なセクターにおけるゼロエミッション技術への世界最大の需要シグナルであるFirst Movers Coalition(FMC)は、2023年12月に「ゼロエミッション燃料供給の拡大に向けた主な障壁に関するインサイトレポート」をボストン コンサルティング グループと共同で発表しました。
この報告書は、海運のバリューチェーンに関わる20を超える組織から意見を集めています。海運業界の脱炭素化ニーズに応える規模までゼロエミッション燃料の供給を拡大するために、何を解決すべきかを明らかにしています。

業界の声
FMCのメンバーやサプライヤーが、ゼロエミッション船舶燃料への投資判断に報告書の知見をどのように活用しているかを紹介します。
リオ・ティント、海運・物流戦略シニアマネージャー、ギャレット・リパ:
「報告書で特定された障壁は、低炭素海運燃料への投資評価に役立ちます。特に、脱炭素化を必要とする競合セクターがあることや、世界的な炭素価格を導入するための短期から中期における明確な義務付けが欠けていることを考慮するうえで有用です。IMOが主導する世界的な市場ベースの措置や、対象を絞ったグリーン回廊のように、バリューチェーンのパートナーと政府を結びつける地域的な取り組みは、海運のエネルギー転換を加速するために不可欠です。」
ヤラ・クリーン・アンモニア、上級副社長兼コマーシャル責任者、ムラリ・スリニヴァサン:
「本報告書は、海運の脱炭素化を加速することを目標に、障壁を特定し、具体的な形で解決策の可能性を提示しています。パートナーシップ、積極的な協働、需要の集約がこれらの解決策の中核にあり、信頼できるゼロエミッション海運燃料としてアンモニアを開発するというヤラ・クリーン・アンモニアの取り組みと完全に一致しています。」
リキッド・ウィンド、コマーシャルディレクター、ヨースト・ウェテリングス:
「これは、e-fuelの引き取りを妨げるボトルネックの核心に踏み込んだ重要な報告書です。個々の課題を明らかにし、それぞれに光を当てる点に大きな価値があります。課題を個別に扱えば、より対処しやすく、決して克服不可能ではないことが明らかになります。その結果、海運業界で広く見られるゼロエミッション燃料をめぐる逸話的な否定論を払拭できます。」
マースク、グローバルパートナーシップ・ESG、広報・規制関連担当ディレクター、コンセプシオン・ブー・アリアス:
「本報告書に記載された障壁は的を射ており、脱炭素化に向けて具体的な措置を講じる先駆者たちの意見に基づいています。海運業界には、カーボンフットプリントを大幅に削減する鍵があります。しかし、グリーン転換の初期段階にある今、最も必要とされる局面で化石燃料とグリーン燃料の価格差を埋めるには、今すぐ具体的な規制措置が必要です。国際海事機関(IMO)は、化石燃料の使用に課される料金を再配分してグリーン燃料の経済性を確保するとともに、成長途上国を新たな海運燃料の生産に巻き込む価格メカニズムの形成に力を尽くす必要があります。」
海運の脱炭素化に向けた取り組みはすでに進行中
すでに実施されている取り組みの例をいくつか紹介します。
インテグレーターがサプライチェーンを結びつけ、取り組みを加速。1月には、 マースク、横浜市、三菱ガス化学が覚書に署名し、横浜港でグリーンメタノールのバンカリングインフラを整備することに合意しました。これは、バリューチェーン全体の関係者が協力して、実現を支えるインフラを構築する一例です。さらに船会社は、集約した代替燃料需要を活用して港湾のバンカリングインフラの選択を促し、好循環を生み出すことができます。
同様に、2023年10月には、シンガポール海事港湾庁が、発電とバンカリング向けにジュロン島で低排出またはゼロエミッションのアンモニアソリューションを開発するため、最終候補に選ばれた6つのコンソーシアムに提案依頼書(RfP)を出しました。このような主要港が需要集約で中心的な役割を果たすことで、新たな機会が生まれます。海運だけでなく発電の需要も組み合わせることで、燃料の供給可能性と拡張性に相乗効果が生じます。
官民による需要集約で引き取り契約を促進。2023年には、ゼロエミッション海運バイヤーズ・アライアンスが、ゼロエミッション船で貨物を輸送するための共同調達に関する提案依頼書(RfP)を開始しました。これにより、CO2排出量を100万トン削減できる可能性があります。
他のセクターでも同様の取り組みが始まっています。例えば、ロッキー・マウンテン研究所が2023年9月に立ち上げた「持続可能な鉄鋼バイヤーズ・プラットフォーム」は、サプライヤーに対し、ほぼゼロエミッションの鉄鋼を最大200万トン購入するための情報提供依頼を出しています。持続可能な航空燃料バイヤーズ・アライアンスも同様に、2023年4月に共同調達の取り組みを開始し、持続可能な航空燃料証書の購入を目指しました。海運には、特にゼロエミッション海運燃料の調達において、需要を集約する機会が残されています。
バリューチェーンのパートナーシップや、コストとリスクを分担するビジネスモデルが実現しなければ、移行が遅れるリスクがあることを、これらの障壁は示しています。困難に思えるかもしれませんが、すでに進行中の多くの取り組みがゼロエミッション海運の実現可能性を示しています。従来にないパートナーシップやセクターを越えた協働を、さらに探る必要があります。


