政府は、難しいトレードオフを管理しながら、長期的で複雑かつ相互に関連し合う、システム全体に及ぶ課題に取り組む必要があります。
企業を対象とする気候・環境政策に長年注力してきた政策立案者は、今や市民の参画を促すことにますます注目しています。
私たちが現在享受している成長から、望ましいグリーン成長へと移行するには、地球規模の三重危機に取り組むため、あらゆる人の力が必要です。
私たちは、気候変動、生物多様性の損失、汚染という地球規模の三重危機に直面しています。成長の未来を支える経済、人々の健康、天然資源基盤への壊滅的な影響を避けるには、ただちに大規模な行動を起こす必要があります。政府は、難しいトレードオフを管理しながら、長期的で複雑かつ相互に関連し合う、システム全体に及ぶ課題に取り組まなければなりません。しかし、現在の進捗は目標に遠く及びません。
市民は、政府がこうした課題に対処する能力を信頼していないようです。2024年のOECD信頼度調査 によると、市民のほぼ70%が、政府は温室効果ガス排出量の削減を優先すべきだと考えていますが、今後10年間で自国がそれを達成できると確信している人はわずか42%です。これは、政策立案者と市民の間に信頼の隔たりがあることを示しています。
政府は長年、企業を対象とする気候・環境政策に重点を置いてきましたが、政策立案者は、変化を力強く推進し、気候政策の取り組みを前進させるうえで重要な役割を果たし得る個人や市民(つまり、私たち一人ひとり)の参画を促すことにますます注目しています。市民として、私たちは気候政策の実施を経験し、その恩恵を受ける一方で費用も負担します。個人として、自分自身や家族、職場において行動し、行動上の選択をします。そして人々として、意見を共有し、規範を広め、文化を形づくります。
気候変動対策に向けた4つの主要な行動分野
気候変動対策において、政府と市民の効果的な連携とはどのようなものでしょうか。政府への信頼、市民参加、公共コミュニケーションを高めるために、政府に何ができるでしょうか。また、政府の政策は、環境により持続可能な個人の行動をどのように「後押し」できるでしょうか。
よりグリーンな未来に向けて「人々の力」の可能性を最大限に引き出すため、次の4つの主要な行動分野が挙げられます。
1)透明性の高いオープンデータへのアクセスは、政府の取り組みに対する市民の信頼を築くうえで不可欠です。政府の決定が入手可能な最善の証拠やデータに基づいていると感じる市民は、わずか40%です(OECD信頼度調査)。政府は、グリーン政策の取り組みについて市民によりよく知らせるため、透明性の高いオープンなデータアクセスを活用する必要があります。関連情報を確実に公開し、容易に入手できるようにするには、法的枠組みや指針が重要です。しかし、気候問題が広範に及ぶため、どの情報が関連するのかを定めることは容易ではありません。いくつかの分野では進展が見られます。例えば政府は、気候政策に対する市民の態度や信頼に関する情報をますます収集するようになっており、自らの活動によるカーボンフットプリントを監視し、気候目標に向けた進捗を開示しています。
2)情報へのアクセスだけでは十分ではありません。政府は、公共コミュニケーション戦略を通じて信頼を築き、政策改革と政策の有効性について効果的に伝える必要があります。気候政策に対する市民の意識調査によると、政策の有効性(実際に排出削減につながるかなど)や分配上の影響(費用と便益がどのように分配されるか)に対する認識は、政策への支持を左右する重要な要因です。そのため、公共コミュニケーションは、説得力のある説明を組み立て、誤情報に対処し、政策の有効性や公平性に関する懸念に応えるうえで、極めて重要な役割を果たします。この分野でも進展が見られます。政府は、行動変容を促すコミュニケーション・キャンペーンの設計を改善し、対象とする人々や市民のニーズに合わせるようになっています。また、地域のリーダーやソーシャルメディアのインフルエンサーなど、信頼される第三者の発信者を通じるなど、市民と関わるための革新的な方法も生み出しています。
3)市民が政策決定や意思決定のプロセスに積極的に参加できる、より意義深く包摂的な機会を設けることが極めて重要です。市民の声に耳を傾け、その懸念が政策改革の成果に反映されるようにする必要があります。自らの政治制度が自分たちの声を届けてくれると感じている人は、わずか30%です(OECD信頼度調査)。そのため、政策の立案や実施において、革新的で人々を中心に据えたアプローチを通じ、市民の参画をより一層促すことが重要です。政府は気候政策の策定で熟議型のプロセスを取り入れ、意思決定に制度として組み込む動きを強めています。例えば、気候変動に関する市民会議を設置しています(例:デンマーク、アイルランド、フランス、オランダ、英国)。また、若者や先住民コミュニティなど、多様な声を政策策定プロセスに取り入れる動きも進んでいます。情報へのアクセス、コミュニケーション、積極的な参加は、説明責任の向上を促すうえでも重要です。ここ数年、気候変動に関する訴訟が世界的に急増しており、その大半はNGOや個人が起こしたものです。こうした訴訟は、環境法の執行強化につながっています。
4)行動科学は、より環境に配慮した行動へ個人を「後押し」するのに役立つ可能性が大きく、いわゆる需要側の緩和策は政策立案者の間で支持を広げています。交通、食、建物のエネルギー効率に関する行動変容により、2050年までに温室効果ガス排出量を40%から70%削減できる可能性があります(IPCC)。家庭の消費による環境負荷を削減する可能性は十分に文書化されていますが、実現は難しいことが明らかになっています。気候変動を抑制し、環境の質を改善するため、対策を緊急に強化する必要があることから、行動変容を妨げる障壁を理解し、取り除くことは政策上の優先課題でなければなりません。OECDの調査「環境政策と個人の行動変容(EPIC)」は、家庭の意識や行動、その環境への影響、さらにこうした選択が政府の政策とどのように相互作用するかを詳しく調べています。より環境に配慮した選択肢が利用できること、手頃な価格であること、便利であることは、家庭の意思決定を左右する重要な要因です。こうした知見は、需要側の緩和策を設計するうえで有用な指針となります。例えば、断熱改修やヒートポンプへの政府補助金だけでは、資格を持つ事業者を見つけにくい場合、効果は期待できません(技術サービスを担う人材を増やす職業訓練がさらに必要であることを示しています)。ガソリンへの炭素税や電気自動車(EV)への補助金など、高排出車の利用を抑える施策も、便利で手頃な公共交通機関や利用しやすいEV充電スタンドへのインフラ投資を伴わなければ、効果が上がらない可能性があります。
私たちが現在享受している成長から望ましいグリーン成長へと移行し、地球規模の三重危機に取り組む行動を加速・拡大するには、あらゆる人の力が必要です。政府と企業には主導する重要な役割があり、市民、消費者、個人がより積極的に関わることで、グリーン移行に向けた私たちの共同の取り組みを増幅できます。




