気候目標を達成するには、産業の脱炭素化が不可欠となる。
これを実現する技術はすでにあるが、導入にあたって企業は新たな設備やプロセスに多額の投資を行う必要がある。
改修や近代化のために負債性資本を利用できるようにする必要がある。その際、貸し手の意欲をそいだり、企業の自己資本利益率を低下させたりしないコストに抑えることが重要だ。
2015年のパリ協定は、世界の平均気温の上昇を産業革命前の水準から2°C未満に抑えれば、気候変動の影響を大幅に軽減できると認めている。これを達成するには、産業の脱炭素化が不可欠となる。産業プロセスからの直接排出は世界の温室効果ガス排出量の5.2%を占める一方、産業におけるエネルギー使用は約24.2%を占める。急速な工業化や、特に発展途上国での排出集約型プロセスの利用により、この割合はさらに増加する見込みだ。
産業の排出量を削減する方法は数多くある。例えば、最先端の産業技術の中には、「炭素スクラビング」によって二酸化炭素を吸収するものがある。産業界は生産やサプライチェーンにサーキュラーエコノミーの原則を取り入れ、持続可能な代替燃料を利用することもできる。重工業で既存の設備やプロセスを置き換えれば、財務リターンに大きな悪影響を及ぼすことなく、炭素排出量を10~20%削減できるとの推計もある。
しかし、適切な資金調達手段が不足しているため、企業が低炭素技術やエネルギー効率の高い技術を導入するのは現状では非常に難しい。新たなプロジェクト施設の建設や専用設備の購入には莫大な費用がかかり、化学、鉄鋼、セメントなどの重工業では特にその負担が大きい。企業はこうした設備を頻繁に置き換える計画を立てておらず、更新や交換には多額の投資が必要となる。設備の使用を停止した後に再利用することも難しい場合がある。
設備やシステムを変更するには、プロジェクトの所有者が財務上のメリットを見込める必要がある。現状では、産業由来の炭素排出に価格を付ける、市場で実績のある仕組みがほとんどない。そのため、企業が排出量の多い旧来の生産工場、機械、プロセスを停止したり、資本集約型の低炭素技術に置き換えたりする動機が乏しい。
負債による資金提供者、特に銀行は、エネルギー効率の高い産業設備を魅力的な融資対象と見なしていない。新しい設備のエネルギー効率に関する信頼できる過去のデータが不足しており、十分なコスト削減効果が得られないのではないかという懸念もある。新しい設備をプロジェクト施設に組み込むと、貸し手が融資の担保として使うために、その資産を切り離して分別管理することも難しい。借り手が債務不履行に陥れば、負債による資金提供者は、流通市場で容易に換金できない遊休資産を抱える可能性がある。
排出量削減に向けて新技術を導入したい企業は、多くの場合、新株を発行するか、資本市場から負債を調達するかという二者択一を迫られる。前者では短期的に自己資本利益率が低下する。後者も効率的とは言えない。資金の使途が目的どおりであることを確保するため、負債の提供者が高いクーポン金利と厳しい財務制限条項を求めるからだ。
産業の脱炭素化を進めるには、貸し手の意欲をそいだり、企業の自己資本利益率を低下させたりしないコストで負債性資本を利用できるようにする必要がある。その方法として、公的資金による無担保劣後債務の融資が考えられる。これは、資産に対する請求権の順位が他の債務より低い債務である。
これにより、負債による資金提供者に安心感を与えられる。債権者にとってさらに魅力的な条件とするため、劣後債務を現物払い(PIK)債として提供し、新技術による財務上のメリットが実現するまで、定期的な元本と利息の支払いを繰り延べることもできる。また、既存の債務より返済期間を長く設定すれば、既存の負債による資金提供者にさらなる安心を与えられる。
これにより借り手の信用力が高まり、既存の負債による資金提供者が厳しい財務制限条項を課すのを抑えられる。さらに、資金調達のために企業が新株を発行する必要がないため、新たな負債によって既存の資本提供者へのリターンが損なわれることもない。既存株主の持ち分を減らさず、比較的低コストで追加の資金を動員できる。最後に、返済期間中、借り手は劣後債務の利息について税控除を受けることができる。
この劣後債務融資に充てる公的資金は、多国間開発銀行からの融資枠、緑の気候基金のような国際的な資金調達メカニズム、公的金融機関、政府、または借り手がこうした機関のいずれかに発行するグリーンボンドから調達できる。
産業分野ごとに多様な技術を支援する代わりに、炭素排出量を大幅に削減し、財務上のメリットももたらす標準化された工場、設備、プロセスを特定できる。初期段階で標準化技術を特定すれば、新技術の環境面と財務面のメリットを調査・評価する費用を抑えられる。
グラスゴーで開催されたCOP26サミットでは、複数の国が今世紀半ばまでに炭素排出量を実質ゼロにすることを約束した。産業部門で低炭素設備の導入を拡大することは、急速な脱炭素化を進める上で重要な役割を果たす。





