気候変動などの要因により、インドの都市はますます暑くなっている。
現代の建物は、インドの暑い気候に適していない。
インドの伝統建築は、現代建築よりも気候変動への耐性が高く、持続可能性にも優れている。
インドの都市では、伝統的な地域建築を復興させる動きが広がっている。
チェンナイを拠点とするソフトウェア技術者のA・クリシュナンは、パンデミックをきっかけに環境への意識を高めた。さらに4月と5月の熱波、その後の洪水を経験し、持続可能性を全面的に重視するようになった。
南インドのタミル・ナードゥ州の州都チェンナイでは、天気は「暑い、もっと暑い、いちばん暑い」の3種類だけだと人々は冗談を言う。「この夏、自分の部屋が暑く感じるのは、周囲に建った新しいアパートが風を遮っているからだと思っていました。でも、今年は気温がかなり高かったと分かりました」とクリシュナンは語る。
今年は、気温が40°C以上に達する日が増えている。2022年5月には、わずか5日間だけが40°Cを超えた。2023年5月には、40°Cを超えた日が10日あった。6月は15日だった。
「もっと涼しいので、郊外の伝統的な家に引っ越すつもりです」とクリシュナンは語る。
気温が上昇し、気候変動が日々の厳しい現実となるなか、クリシュナンのように伝統的な地域建築に目を向けるインド人が増えている。地域の気候条件に合わせ、地元で調達した建築資材を使う伝統的な建築設計の形式だ。
伝統的な地域建築への関心が再燃
インドでは、伝統的な住宅が必ずしも高く評価されてきたわけではない。自然素材は品質が劣るという見方が根強く残っているが、こうした建物の多くは100年以上も現存している。
しかし、その見方は変わりつつある。業界の専門家は、持続可能性への関心、気候変動への懸念の高まり、伝統的な暮らしを守りたいという思いが、伝統的な地域建築への関心再燃の理由だと指摘する。
「人々は都市環境にうんざりしています。子どもたちにより良い環境を与えるため、村に移ったり、故郷に戻ったりしたいのです」と語るのは、ムンバイ近郊のターネーを拠点とする環境配慮型建築事務所Dhirty Handsのアヌシュリー・テンドルカルだ(「dhirty」はヒンディー語で泥を意味する)。
気候変動の影響をますます実感するようになり、自宅の気候変動への耐性について考える人も増えている。
「ここ数年で変化がありました。今では、環境に優しい住宅を求める人が増えています」と、タミル・ナードゥ州を拠点とするMonarch Architectsのラジブ・クマラベルは語る。
チェンナイを拠点とするBenny Kuriakose & Associatesのベニー・クリアコースによると、伝統的な地域様式で設計された建物は、現代の住宅より涼しい傾向がある。

温熱快適性
2021年の研究によると、ベンガルールのインド科学大学持続可能技術センター(CST)が調査した西ベンガル州農村部では、現代住宅の室内温度は伝統的な住宅より7~10%高かった。
「土の家の中は、外より5~6°C涼しいです」と、Earth Buildingの建築家S・サミュクタは語る。彼女は南インドのコインバトールと、伝統的な建築様式が今も広く見られるトランス・ヒマラヤ地域のラダックを行き来している。
南部では、土壌に応じて土の塊に砂、わら、または石灰を混ぜ、壁に積み重ねるコブ工法が主に使われる。北部では石や木が使われ、場所によっては竹も用いられる。
「寒冷な北部では熱を中に閉じ込め、南部では熱を外に出さないようにします」とサミュクタは説明する。
クマラベルは、インドで伝統的な持続可能建築を先駆けた英国系インド人建築家ローリー・ベイカーの提唱した考え方を実践している。
「ベイカーは、壁は呼吸できるようにすべきだと言いました。だから、漆喰を塗ったり、ペンキを塗ったりしません。夏はエアコンが要りません。冬は室内が暖かいです」と彼は語る。
サミュクタによると、持続可能な建築設計は環境に優しい素材だけでなく、人の健康にも関わる。彼女の母親は、テラコッタの床がある土の家に引っ越して以来、膝の痛みがすっかりなくなった。
現代における意義
しかし、都市で伝統的な地域建築が実現可能なのか疑問視する人もいる。
伝統的な建物のほとんどは、高さが最大でも3階建てで、壁の厚さは18インチ(約46センチ)に及ぶ。しかし都市では空間に制約があるため、建物をコンクリートの柱と梁で支え、壁を薄くしている。
「都市部では、融合させるほうがうまくいきます。ローリー・ベイカーの手法を使い、レンガの壁をむき出しにしたり、コンクリート充填スラブを採用したりすれば、セメントの使用を減らせます」と提案するのは、ティルップールを拠点とするMagizh Buildersの共同創業者で土木技師のアラヴィンド・マノハランだ。
都市に暮らし、持続可能性を重視する人々に向けて、テンドルカルは、壁が呼吸できる石灰漆喰を勧める。また、天然顔料で色を付けた石灰や細かい泥で壁を塗装する方法も提案する。マノハランが使うのは、チェッティナード式の卵白入り石灰漆喰で、石を使って手作業で滑らかに仕上げるため、塗装の必要がない。
専門家は、泥壁が大雨で崩れるという懸念を退ける。「伝統建築では、帽子とブーツ、つまり屋根と基礎をしっかりさせる必要があると言います。屋根に適切な軒の出があれば、壁を守れます」とマノハランは語る。
寒冷で地震が起きやすいヒマーチャル・プラデーシュ州の山岳地帯を拠点とするコンサルティング会社Northのラフル・ブシャンは、伝統的なカトクニ構造が地震に強いことを指摘する。これは、接合材を使わず、木材の梁を交差させて石と組み合わせた壁だ。
ただしクリアコースは、伝統的な地域建築の技法がすべて持続可能とは限らないと注意を促す。丘陵地帯での過剰な採石が地滑りを引き起こしたため、採石が禁止された場所もある。
「現代の素材を使うことは間違いではありません」とブシャンは語る。「伝統的な技法だけにこだわるのが常に正しいわけでもありません。未来の建築では、現代の技術と地域に根差した知恵を組み合わせる必要があります。」

低炭素フットプリント
建物は、世界の二酸化炭素排出量の約40%を占める。そのうち27%は暖房と冷房に必要な運用時の炭素排出で、13%は建築資材の採掘、製造、輸送時に排出される二酸化炭素であるエンボディド・カーボンだ。
「どの様式でも、天然資源を使います。セメントの約70%は石灰石です。しかし、セメントのエンボディド・エネルギーは大きく、そのためカーボンフットプリントも大きくなります」とテンドルカルは語る。「建物の寿命が尽きると、建設廃材は埋立地や水域に行き着きます。鉄鋼のリサイクルには多くのエネルギーが必要です。一方、石灰や泥は再利用し、別の用途に活用できます。」
政府は、持続可能性評価制度である統合居住環境評価グリーン・レーティング(GRIHA)を導入しているが、天然素材や伝統的な地域建築が対象に含まれていないとの指摘もある。GRIHAの事例研究で取り上げられる代替素材は、フライアッシュ煉瓦や揮発性有機化合物の少ない塗料に限られている。
政府機関ではない評価制度、インド・グリーンビルディング評議会(IGBC)は、より幅広い建築を対象としている。天然素材を一部または全面的に使った建物を一覧に掲載する一方で、IGBCの副専務理事アナンド・ムトゥクリシュナンは、評価制度にエンボディド・エネルギーを十分に組み込めていないと認め、現在取り組んでいると述べる。
「しかし、私たちの評価制度は、環境に優しい製造方法や素材への認識を高めます」とムトゥクリシュナンは語る。
大手建設会社にとって評価制度は売り込みの材料になるかもしれないが、ローリー・ベイカーの原則に従って設計・建築する小規模な建設業者や予算の限られた建設業者にとって有用なのか、クリシュナンのような人々は疑問を呈する。自然素材だけを使う建築業者にとっては、健康と気候への配慮のほうが重要だ。
気候変動の影響が強まるなか、幅広い気温変化に耐えられる伝統的な地域建築は、インドにとって真に有効な適応策となる。




