欧州と西シベリアの炭素を豊富に含む泥炭地には、約400億トンの炭素が蓄えられている。これは欧州の森林に蓄えられた量の約2倍にあたる。
しかし最近の研究では、温暖化が中程度のシナリオの下で、2060年代までにこの地域の約75%が、永久凍土を維持するには暖かすぎるか湿りすぎる状態になる可能性があると示された。
この永久凍土が融け始めれば、何世紀、何千年にもわたって蓄積されてきた炭素が放出される可能性がある。
新たな研究によると、温暖化が中程度のシナリオでも、数十年以内に北欧と西シベリアの広大な地域が、炭素を豊富に含む永久凍土泥炭地にとって「気候的に不適」になる可能性がある。
こうした炭素を豊富に含む景観は、140万平方キロメートル(km2)を超える範囲に広がり、約400億トンの炭素を含む。これは欧州の森林に蓄えられた量の約2倍にあたる。
この研究によると、温暖化が中程度のシナリオの下で、2060年代までにこの地域の約75%が、永久凍土を維持するには暖かすぎるか湿りすぎる状態になる可能性がある。ただし研究者らは、どれだけの炭素が、どのくらいの期間をかけて放出されるのかは、依然としてまったく明らかでないと強調する。
研究者らはまた、北欧の一部が「転換点」に近づいており、それを過ぎると融解する泥炭地は回復できなくなる可能性があると警告する。しかし、強力な気候変動緩和策が講じられれば、西シベリアの一部では2090年代まで適した気候が維持され、温暖化がピークに達した後に新たな泥炭地が形成される可能性さえあるという。
研究に関与していない研究者はCarbon Briefに対し、この研究は、温暖化する気候に永久凍土泥炭地がどう反応するかを理解するうえで「極めて重要な一片」だと語った。
「転換点」
永久凍土泥炭地には約1,850億トンの炭素(GtC)が蓄えられており、北半球の泥炭地に含まれる土壌有機炭素のほぼ半分を占める。毎年融解と再凍結を繰り返す「活動層」の下では、凍土が何世紀、何千年にもわたって蓄積した炭素を閉じ込めている。
永久に凍結しているため、こうした泥炭地は気候変動の影響を非常に受けやすい。かつて凍結していた泥炭が融けると、微生物が長く埋もれていた有機物を分解し始める。条件によっては、二酸化炭素(CO2)、メタンなどの温室効果ガスが大気中に放出される。
研究者らが特に懸念しているのは、永久凍土が「転換点」に達する可能性だ。永久凍土はゆっくり融ける場合もある一方、特定の条件下では、景観が急速に崩壊することもある。
クリスティーナ・シェーデル博士(生態系生態学者、北アリゾナ大学)は、研究には関与していないが、Carbon Briefに次のように語った。
「気温が上がると微生物が活動を始め、そこにある物質を分解します。そうなると、その炭素は永遠に失われます。新たな炭素が地中に戻るまでには、はるかに長い時間がかかるでしょう」
融解する永久凍土から大気中に放出された温室効果ガスは、正のフィードバックとして働き、温暖化をさらに進める。
しかしシェーデルは、「どこまで進むかが重要です」と付け加える。融解した永久凍土からの炭素損失は元に戻せないが、温暖化を止めれば、さらなる融解を遅らせ、場合によっては止められる。彼女は2020年にCarbon Briefの寄稿記事で、この点を詳しく説明した。
Nature Climate Change誌に掲載された新たな研究は、永久凍土泥炭地の地形のうち、「パルサ」(泥炭台地とも呼ばれる)とポリゴン湿地の2種類に焦点を当てている。
パルサは凍結した泥炭が盛り上がってできた丘で、直径は数メートルから数キロメートルに及ぶ。点在しており、ポリゴン湿地より南に分布する。これに対し、ポリゴン湿地は連続した凍結景観で、北極圏の寒冷で乾燥した地域に見られる。
パルサは小さいため、衛星などのリモートセンシング技術では識別が非常に難しいと語るのは、カロリーナ・フォイクト博士(生物地球化学者、東フィンランド大学)だ。彼女は研究には関与していない。その結果、こうした地形の多くは「地図化が不十分」だという。
泥炭地の現在の広がりを把握するため、研究者らはパルサとポリゴン湿地の記述や位置を文献から詳しく調べ、その座標を地図に落とし込んだ。対象地域は西シベリアとフェノスカンジア、すなわちノルウェー、スウェーデン、フィンランドおよびロシアの一部を含む地域だ。
シベリアの他の地域や北米にも大量の凍結炭素が存在するが、これらの地域ではデータがまばらで、モデルの結果を検証しにくいと語るのは、新たな研究を主導したリチャード・フュースター(リーズ大学の自然地理学博士課程候補者)だ。
フュースターと同僚らは、泥炭地の地図と既発表の土壌有機炭素の地図を照合し、永久凍土に適した気候が失われるにつれて、どれだけの炭素が危険にさらされるかを算出した。
適した気候
適した分布域が時間とともにどう変化するかを理解するため、研究者らは「気候エンベロープ」モデルを用いた。永久凍土泥炭地の分布とさまざまな気候変数を結び付け、2種類の永久凍土景観それぞれに適した気温と降水量の範囲を推定した。
研究者らは1961~90年を基準期間として分析し、最新世代の結合モデル相互比較プロジェクト(CMIP6)による複数の気候変動予測も用いた。
フュースターと同僚らは、強力な緩和シナリオ(SSP1-2.6)、中程度の緩和シナリオ2つ(SSP2-4.5、SSP3-7.0)、および非常に高い排出シナリオ(SSP5-8.5)を選んだ。(各シナリオの詳細はCarbon Briefの解説記事を参照。)
以下の図は、4つの温暖化シナリオそれぞれで、適した気候エンベロープがどのように縮小すると予測されるかを示す。青の濃淡は、パルサ、ポリゴン湿地、またはその両方に適した気候を表している。
危険にさらされる炭素
強力な緩和シナリオの下でも、今後数十年で永久凍土泥炭地に適した気候エンベロープは大きく縮小するとモデルは予測しており、とりわけフェノスカンジアで顕著だ。この10年間で、パルサに適した地域は38%縮小し、フェノスカンジアでは同期間に縮小率が約90%に達すると予測されている。
シミュレーションでは、パルサに適した気候域は2070年代まで、10年ごとに約7万km2縮小し続ける。しかし、強力な緩和策によって世紀後半に気温が下がれば、西シベリアでは気候が部分的に回復する可能性がある。
この回復を考慮すると、世紀末までに適した地域は差し引き58%減少すると予測される。
しかし、この強力な緩和シナリオでも、モデルはフェノスカンジアで適した気候域が回復するとは予測していない。著者らは、同地域の泥炭地が転換点に近づいているか、すでにそれを越えたことを示唆すると記している。
こうした強力な緩和策が取られなければ、状況はさらに深刻になるとフュースターは語る。2060年代までに、SSP2-4.5ではパルサに適した気候エンベロープの75%が失われる。最も排出量の多いシナリオでは、これが93%に達する。
ポリゴン湿地に適した気候域はさらに縮小し、温暖化シナリオに応じて93%から99.9%減少する。
2090年代までに、パルサに適した気候を含む地域は、中程度、高度、非常に高度の排出シナリオの下で、それぞれ87%、98%、100%縮小する。著者らによると、これらの数値についてはモデル間で「強い」一致が見られる。この適した気候のほぼ全面的な喪失により、37GtC(SSP2-4.5)から39.5 GtC(SSP5-8.5)の炭素が危険にさらされる。
強力な緩和シナリオとは異なり、これらのシナリオには気候が回復する見込みがないとフュースターは語る。彼はCarbon Briefに次のように話した。
「中程度の緩和シナリオは、結局のところ最悪のシナリオと同じような道筋をたどります。そこに至るまでに少し時間がかかるだけです。私たちが示したのは、非常に強力な気候変動緩和シナリオでのみ、暖かくなりすぎたり湿りすぎたりする地域の拡大をある程度抑えられるということです」
さらに、こう付け加えた。
「この強力な気候変動緩和シナリオが、ほかのシナリオとは大きく異なることがよく分かります」
以下の図は、各10年間、各温暖化シナリオについて、適した気候エンベロープ内の泥炭地に蓄えられる炭素量を示す。上段はパルサの炭素量、下段はポリゴン湿地の炭素量を表す。温暖化シナリオはSSP1-2.6(緑)からSSP5-8.5(赤)まで色分けされている。黒い破線は、1961~90年の「現代」の気候条件下で蓄えられていた炭素量を示す。
「明確な答えはまだない」
フュースターによると、重要なのは、彼らのモデルが、これらの地域からどれだけの炭素が、どのくらいの期間をかけて放出されるのかについて何も示していない点だ。彼はCarbon Briefに次のように語った。
「結局のところ、泥炭地がその炭素の多くを放出するのか、それともその後の泥炭蓄積速度や植物の生産性の上昇によって、新たな炭素が地中に蓄えられ、損失の一部が実際に相殺されるのかは、まだ不明です……その時期にすべてが消失し、すべての炭素が放出されると言っているわけではありません。私たちのモデルからはそう言えませんし、実際にそうなる可能性は非常に低いでしょう」
しかし、研究では考慮できない未知の要素がいくつかあるとフュースターは言う。泥炭には有機物が多く含まれ、「下層の土壌を覆う断熱材の役割」を果たす。そのため、気温が気候的に適した範囲を超えてから永久凍土が融けるまでには、時間差が生じる。
この時間差の大きさは、依然として非常に不確かだ。永久凍土が数年で融けた場所もあれば、10年以上残存した場所もある。景観の大部分がすでに適した気候エンベロープの外にあるフェノスカンジアでは、融解する泥炭地は珍しくない。
「フィンランドでは、これがよく観察されています」とフォイクトは言う。「すでに始まっている過程です」
もう一つの大きな未知は、植生がどう反応するかだ。気温の上昇に伴い、新たな景観が植物にとってより生育しやすい場所となり、泥炭から失われる炭素の一部を相殺する可能性がある。
フュースターは、泥炭地が部分的に融け始めると、現在のポリゴン湿地がパルサに変わる可能性があると仮説を立てている。一方で、こうした変化は「これまで観測記録ではほとんど見られていない」とCarbon Briefに語った。
フォイクトはCarbon Briefに、土地被覆の種類や植生が北へ移動する可能性について「考えてみる価値がある」と語る。ほかの研究では、この可能性がほとんど取り上げられていないとも付け加えた。
融解した泥炭地から炭素がどれほどの速さで放出されるのかについて、「明確な答えはまだない」と語るのは、キンバリー・マイナー博士(気候科学者、NASAのジェット推進研究所)だ。研究には関与していないマイナーは、Carbon Briefに次のように語った。
「この問いに答えようと取り組んでいる研究分野が丸ごとあります」
研究に関与していない複数の研究者は、綿密な手法と、さまざまな緩和シナリオを検討した点を評価した。
マイナーは、この研究を「興味深く重要な研究」と評し、「科学と政策の指標をうまく適用している」と述べた。彼女はCarbon Briefに次のように語った。
「変化する北極圏の景観を理解するには、永久凍土泥炭地を調べることが不可欠です。この論文は、その理解に向けたもう一つの大きな前進です」
シェーデルも、政策に焦点を当てたことがこの研究の重要な貢献だと述べる。彼女はCarbon Briefに次のように語った。
「事態がどれほど悪いかを語るだけではなく、最善の道を進めば、そこにある炭素の多くを守り、生態系もはるかに適切に保全できることを実際に示しています……政策との関連性という点で、それは重要だと思います。行動を起こしたときにどのような影響があるのかを示す必要があります」






