科学者らによると、現在の温室効果ガス排出量は、気候のティッピングポイントを引き起こすおそれがあります。
これは、海面上昇などの壊滅的で不可逆的な変化をもたらす、気候システムの変化です。
氷床、海流、大規模な森林など、気候システムの9つの要素はティッピングに敏感です。
過去15年間の研究を新たに評価したところ、地球温暖化が約1.2°Cの現在、特定のティッピングポイントが引き起こされるリスクがあることが分かりました。
しかし、温暖化を1.5°Cで止めるというパリ協定の目標は、複数の気候のティッピングポイントが引き起こされる可能性を低下させると、研究者らは述べています。
温室効果ガスの排出が続けば、気候のティッピングポイントを引き起こすおそれがあります。これは、海面上昇のような壊滅的な変化を固定化させる、気候システムの自律的に持続する変化です。すべての排出が止まったとしても、変化は続きます。
最初の大規模な評価が行われたのは2008年で、氷床、海流、大規模な森林など、気候システムのうちティッピングに敏感な9つの要素が特定されました。それ以来、気候モデリングが大きく進歩し、観測データや古代の気候変動の記録が大量に得られたことで、科学者らはこうしたティッピング要素をはるかに詳しく把握できるようになりました。北極圏周辺の永久凍土(永久凍結した地面で、融解するとより多くの炭素を放出するおそれがある)のように、新たな要素も提案されています。
こうした要素がティッピングに至る温暖化レベルの推定値は、2008年以降、低下しています。かつて西南極氷床の崩壊は、地球の産業革命前の平均気温を3°C~5°C上回る温暖化に達した場合にリスクがあると考えられていました。現在では、現在の温暖化レベルでも起こり得ると考えられています。
私たちが新たに行った評価では、過去15年間の研究を検討し、私と同僚らは、地球温暖化が約1.2°Cの現在、5つのティッピングポイントが引き起こされる可能性を排除できないと結論づけました。この5つのうち4つは、地球温暖化が1.5°Cを超えると、起こる可能性が高まります。
これは厳粛に受け止めるべき結論です。しかし、報道のすべてが私たちの研究の微妙なニュアンスを捉えていたわけではありません。そこで、私たちの調査結果が実際に何を意味するのかを説明します。
不確かな閾値
私たちは200件を超える研究結果を統合し、それぞれのティッピング要素について温暖化の閾値を推定しました。最良推定値は、複数の研究が一致した値か、特に信頼性が高いと研究で判断された値としました。例えば、過去に氷床が後退した時期の記録とモデリング研究から、グリーンランド氷床は1.5°Cを超えると崩壊する可能性が高いことが示されています。また、崩壊が起こり得る最低・最高の閾値も推定しました。グリーンランドのモデル推定値は0.8°Cから3.0°Cの範囲です。
この範囲では、温暖化が進むほどティッピングが起こる可能性は高まります。温暖化が最低閾値を上回るものの最良推定値を下回る場合はティッピングが起こり得る(ただし、まだ起こる可能性が高いとはいえない)とし、最良推定値を上回る場合は起こる可能性が高いと定義しました。また、それぞれの推定値にどれほど確信が持てるかも評価しました。例えば、グリーンランド氷床の崩壊に関する推定値は、永久凍土の急激な融解に関する推定値より確信度が高いと考えています。
この不確実性を踏まえると、地球の気温が1.5°Cに達する最初の年(気候科学者らは今後5年以内にもあり得ると示唆しています)に4つの気候のティッピングポイントが引き起こされるとは考えていません。また、数年間の平均気温が今後数十年以内のある時点で1.5°Cに達したときに起こるとも限りません。むしろ、気温上昇が1度の何分の1であってもティッピングが起こる可能性は高まりますが、いつ不可避になるのかを正確に判断することはできません。
これは特に、グリーンランド氷床と西南極氷床に当てはまります。私たちの評価では、1.5°Cを超えると両氷床の崩壊が起こる可能性が高まりますが、氷床は非常に巨大なため、変化は極めてゆっくりと進みます。崩壊には数千年かかり、その過程が進むには、数十年にわたり温暖化が閾値を超えたままである必要があります。ティッピングが始まる前に温暖化が閾値を下回れば、氷床は崩壊せずに一時的に閾値を超えることが可能かもしれません。
他のティッピングポイントの中には、変化がより広範囲に分散して起こるものもあるでしょう。熱帯のサンゴ礁の死滅と永久凍土の急激な融解は、どちらも現在の温暖化レベルで起こり得ると推定しています。ただし、閾値はサンゴ礁や永久凍土の場所ごとに異なります。どちらも一部の地域ではすでに始まっており、 進行していますが、私たちの評価では、1.5°Cを超えると、同じ頃にこうした変化がはるかに広範囲に及ぶと見られます。
一方、アマゾンや北方林の小さな区域では、より壊滅的な森林全体の枯死に至る前にティッピングが起こり、サバンナのような状態へ移行する可能性があります。先に起こり、森林全体に及ぶさらに壊滅的な枯死を回避する可能性があります。未発表のモデル結果は、アマゾンのティッピングが一度の大規模な事象としてではなく、温暖化レベルが異なる中で複数の地域に起こる可能性を示唆しています。
ティッピング要素の中には、明確な閾値が存在しないものもあるかもしれません。古代の気候記録によると、北大西洋の海流は、温暖化とグリーンランドからの淡水の融解による循環の乱れが重なることで、現在のような強い状態から弱い状態へと劇的に転じる可能性があります。最近のモデリングによると、大西洋の循環が崩壊する閾値は、温暖化の進行速度や、測定が難しいその他の要因に左右されるため、極めて不確実です。
危険域へ
一部のティッピングポイントがすでに近づいている兆候があります。森林の劣化や干ばつにより、アマゾンの一部地域では回復力が低下し、火災などの攪乱に弱くなり、排出する炭素量が増えています。
後退が続く西南極の氷河の先端の中には、後戻りできない後退まで数キロの地点に迫っているものがあります。気候モニタリングデータに表れる早期警戒信号(例えば、氷河が毎年融解する量の変動が、より大きく、より長く続くこと)は、グリーンランド氷床の一部や大西洋の循環も不安定化していることを示唆しています。
こうした信号からティッピングポイントまでの距離を正確に知ることはできません。分かるのは、不安定化が進行中で、ティッピングポイントが近づいている可能性があることだけです。確実に言えるのは、さらなる温暖化が1度の何分の1であってもティッピング要素の不安定化を進め、自律的に持続する変化が始まる可能性を高めるということです。
このことは、温暖化を1.5°Cで止めるというパリ協定の目標に沿った、大胆な排出削減の必要性を強めています。近いうちに一部のティッピングポイントに達する可能性を排除できないとしても、排出削減によって複数の気候のティッピングポイントが引き起こされる可能性を低下させられます。






