気候変動は金融政策に関係する。その理由とは

Climate change could also make it harder to identify a monetary policy stance that is considered ‘neutral’.
Climate change could also make it harder to identify a monetary policy stance that is considered ‘neutral’.Image: UNSPLASH/micheile .com
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  • 気候変動は長期的な課題と見なされ、金融政策は短期に重点を置いてきたが、その隔たりは縮まりつつあると新たな研究が指摘する。

  • 気候変動の影響がすでに現れ、気候関連リスクがインフレに影響を及ぼしているためだ。

  • 複数の中央銀行が、気候変動が政策運営にもたらす影響を考慮し始めている。

  • 気候ショックの頻度が高まるなか、金融政策には、より先手を打った安定化の役割が求められる。

ごく最近まで、気候変動は金融政策に関係するものとは見なされていなかった。主な障害の一つは時間軸の違いであり、その背景には、金融政策は長期的な成長軌道の周辺で経済変動を平準化するものの、成長トレンド自体にはほとんど影響を及ぼさないという認識があった。これに対し、気候変動が重要となる時間軸は数十年に及ぶ(Brunnermeier and Landau 2020)。

しかし、気候変動と金融政策は一見無関係だという見方は、今や複数の観点から見直されている(ECB 2021)。第一に、何十年にもわたる先送りの末、移行が目前に迫っているとの認識が高まっている。そのため、気候変動と金融政策の時間軸の隔たりは縮まりつつある可能性がある。第二に、頻度が高まり、甚大な被害をもたらす気候災害によって、気候変動は長期的な問題だという見方が次第に揺らいでいる。実際、気候関連リスクがすでにインフレに大きく影響していることを、近年の複数の研究が示している(Moessner 2022, Faccia et al. 2021, Konradt et al. 2021)。

こうした認識の変化を反映し、近年の文献では、気候変動が金融政策に影響を及ぼす主な経路として、次の3つが挙げられている。

  • 第一に、気候変動とそれに対抗する政策は、経済全体および金融システムの構造と動態に影響を与えうる(ECB 2021, Caselli et al. 2021)。その結果、中央銀行のインフレ目標に直接影響したり、金融不安定を招いたり、均衡金利(r*)や、後述する通常の金融政策に利用できる「余地」に影響を及ぼしたりする可能性がある。

  • 第二に、気候変動は金融市場や銀行部門への影響を通じて、金融政策の波及を弱める可能性がある。例えば、資産の座礁や気候関連金融リスクの突然の再評価は、金融システムに損失をもたらし、実体経済への資金の流れを損なうおそれがある。また、物理的リスクが銀行に及ぼす影響など、金融面の脆弱性に起因する波及の効率低下も、金融政策の運営を複雑にしかねない。

  • 第三に、気候変動はさまざまな側面から、中央銀行のバランスシート上の資産のリスクを高め、金融損失につながる可能性がある。気候変動リスクは、取引相手、発行体、その他の債務者が債務を履行する能力に影響し、信用リスクの上昇につながりうる。中央銀行は金融資産の保有を通じて、こうしたリスクに直接、かつ潜在的に長期にわたってさらされている。また、例えば取引相手が差し入れる担保を通じて、より短期に間接的な影響を受けることもある。

したがって、中央銀行は気候変動が経済、インフレ見通し、金融市場に及ぼす影響を評価する必要がある。複数の中央銀行が、気候変動が政策運営にもたらす影響を考慮し始めている。こうした取り組みを支援するため、金融システムをグリーン化する中央銀行・監督当局ネットワーク(NGFS)は、気候シナリオや気候変動が中央銀行に及ぼす影響に関する研究の優先課題など、複数の報告書を公表している(NGFS 2021)。ECBは、最近の戦略見直しの一環として、気候変動に関する専用の作業部会を設けた(ECB 2021)。

金融政策の運営にはどのような影響があるのか。

気候変動は、経済に対するショックの頻度、強度、持続性を高め、その性質(供給と需要)の特定も難しくするため、金融政策のスタンスの評価を複雑にする。頻度が高く、一方向に作用するショックが増えれば、金融政策には、より先手を打った安定化の役割が求められる。また、金融政策は産出とインフレの安定化をめぐるトレードオフに、より頻繁に直面することになる。

従来、中央銀行はショックの規模と持続性に応じて対応を調整してきた。ショックが短期的で、金融政策に関係する中期的なインフレ見通しに影響する可能性が低いと判断されれば、中央銀行はそのショックを「見過ごす」ことがある。しかし、気候変動によって供給ショックの頻度と深刻さが増し、ショックが長期化するなかで、中央銀行がそれらを「見過ごす」ことは次第に難しくなる可能性がある。ショックがますます長期化し、インフレ期待のアンカーが外れるリスクがある場合には、金融政策上の措置が妥当となる可能性がある(Schnabel 2022)。

気候変動は、「中立」と見なされる金融政策スタンスを特定することも難しくする可能性がある。自然利子率であるr*は、政策金利の水準を踏まえて金融政策スタンスがどの程度緩和的かを評価するうえで、重要な基準となる。気候変動に関連する複数のリスクは、過去数十年にわたる長期的な低下をもたらした要因に加え、r*を押し下げる力となる可能性がある。¹ 一方、他の条件が同じであれば、グリーン投資や新技術はr*を押し上げる可能性もある。この相反する2つの力の純効果は不確実だ。しかし、下押しの力が優勢となれば、r*の低下により通常の金融政策の政策余地は狭まる。他にも、非標準的な措置を通常の金融政策手段に加えるべきだという根拠が強まることになる。

ECB(2021)は、気候変動に関連する物理的リスクと移行リスクが、既存の金融・財政面の脆弱性と組み合わさることで、金融政策が通常の景気循環の変動に対応する能力を大幅に制約しうることを示すモデルシミュレーションを紹介している。こうした脆弱性自体も、気候リスクの顕在化によって生じる可能性がある。

金融政策の枠組みの設計に関する影響

気候変動は、金融政策の体制の設計にも影響を及ぼす可能性がある。世界で圧倒的に主流となっているインフレ目標を採用する中央銀行に焦点を当て、Boneva et al.(2021, 2022)では、この枠組みの特定の設計要素が気候変動という課題とどのように相互作用し、それに応じてどう変化しうるかを検討している。

インフレ目標を採用する中央銀行は、ショックが一時的で、インフレ期待のアンカーを脅かさないと判断される場合にそれを見過ごすため、総合インフレ率とコアインフレ率の関係を再検討する可能性がある。基調的なインフレ指標が相対的に安定していることを強調する適切なコミュニケーションは、こうしたショックを見過ごす金融政策スタンスの根拠を支えうる。

点目標とレンジ目標のどちらが相対的に望ましいかも、再検討される可能性がある。点目標は中央銀行の政策目標を明確に伝え、インフレ目標が中期的なものであることを示し、期待を安定させる。レンジ目標、または許容幅は、インフレ率を常に特定の値に保つ必要はないという考えを伝える。また、一時的な物価ショックを吸収するための金融政策の余地を広げ、一定程度の産出安定化を可能にする。一方、レンジ目標はインフレ目標の明確さを損ない、強いインフレショックによって期待のアンカーが外れるリスクが高まる状況では、インフレ期待を不安定にする可能性がある。

目標期間については、気候関連ショックが異なる時間軸と持続性で経済に影響を及ぼすため、インフレ目標を採用する中央銀行は、金融政策の目標期間の最適な長さを監視する必要があるかもしれない。目標期間を長くすれば、産出と雇用の落ち込みを抑え、その変動を和らげることができる。一方、柔軟なインフレ目標のもとでは、期間をあまり先まで延ばし、インフレ目標の未達が頻発すると、中央銀行の信頼性が損なわれるおそれがある。

特に移行政策がインフレの変動性とトレンドに長期的な影響を及ぼすことから、金融政策の柔軟性をより重視する必要が生じる可能性がある。同時に、インフレ目標が柔軟に解釈されすぎて目標未達が頻発すれば、中央銀行の信頼性が疑問視されかねない。そのため、信頼性の低下を抑えるには、中央銀行の政策意図を明確に伝えることが不可欠となる。しかし、気候変動が経済やインフレに及ぼす長期的な影響について、現時点での知見はまだ限られているため、今の段階で金融政策戦略の設計に関する具体的な影響を導き出すのは時期尚早だろう。それらは時間の経過とともに明らかになる。

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