気候変動はハリケーンの勢力と降雨量の上限を高めるとともに、平均海面水位と高潮の高さも上昇させる。
研究者は、より多くのハリケーンが大型の嵐になると予測している。
しかし、気候変動が発生するハリケーンの総数にどのような影響を与えるかは明らかでない。
温室効果ガス排出量が迅速かつ大幅に削減されない限り、人間活動によって、さらに深刻な嵐が発生する可能性は高まり続ける。
ハリケーン・イアンがフロリダ州を襲ったとき、それは米国で記録上最も勢力の強いハリケーンの一つであり、世界各地で大規模かつ壊滅的な嵐が2週間にわたって相次いだ後のことだった。
その数日前、フィリピンでは、台風ノルーが急速な勢力強化の新たな基準を示した。風速50マイルの熱帯暴風雨から、翌日には風速155マイルのカテゴリー5の巨大な嵐へと急発達したのだ。ハリケーン・フィオナはプエルトリコを浸水させ、その後、カナダで記録上最も勢力の強い嵐となった。台風メルボクは暖かな太平洋上で勢力を強め、アラスカ沿岸の1,000マイルを超える地域に甚大な被害をもたらした。
西太平洋のフィリピンから、東大西洋のカナリア諸島に至るまで、さらに中緯度の日本やフロリダ、高緯度のアラスカ西部やカナダ沿海州でも、大型の嵐が発生した。
こうした嵐に地球温暖化がどのような役割を果たすのか、多くの人が問いかけている。答えは必ずしも単純ではない。
明らかなのは、気候変動がハリケーンの勢力と降雨量の上限を高め、平均海面水位を上昇させて、それに伴い高潮も高くするということだ。ハリケーンの総数への影響は、ほかの側面と同様、現時点では不確かである。しかし、ハリケーンが発生した場合、より多くが大型の嵐になると予想される。ハリケーン・イアンや、2020年の大西洋ハリケーンシーズンを含む近年のほかの嵐は、その状況がどのようなものかを示している。
私たちの 研究は長年、ハリケーン、気候変動、水循環に焦点を当ててきた。これまでに科学者が明らかにしていることを紹介する。
降雨:気温は明確な影響を及ぼす
海洋と大気の温度は、いずれもハリケーンの発達に不可欠である。
ハリケーンは、海面から蒸発した水が嵐の雨となって凝結する際に放出される熱を動力源とする。
海洋が暖かいほど蒸発量が増え、大気中に供給される水分が増える。大気が暖かいほど多くの水蒸気を蓄えられ、降雨量も増える。雨が増えれば放出される熱も増え、熱の放出が増えるほど風は強くなる。
これらは気候システムの基本的な物理特性であり、その単純さゆえに、地球温暖化に伴う嵐の状況について科学者の予測には高い確信がある。蒸発量の増加や降雨率の上昇は、一般に、陸上・海上を問わず、あらゆる種類の嵐
に当てはまる。こうした嵐の基本的な物理的理解は、現在と将来の気候を想定したコンピューターシミュレーションや、近年の 事例によって裏付けられており、ハリケーンの降雨率は、気温が1度上昇するごとに少なくとも7%増加するという見方には高い確信がある。
嵐の勢力と急速な勢力強化
温暖化する気候では風速が増し、強力なカテゴリー4または5の嵐に発達する割合も増えると、科学者は高い確信を持っている。降雨率と同様、勢力の増加も極端な降雨事象の物理法則に基づいている。
被害は風速に対して指数関数的に増大するため、勢力の強い嵐は人命や経済により大きな影響を及ぼし得る。上陸時のイアンのように風速150マイルのカテゴリー4の嵐がもたらす被害の可能性は、風速75マイルのカテゴリー1の嵐の約256倍である。
温暖化によって嵐がより急速に勢力を強めるかどうかは、現在も研究が進められている分野であり、そうなる可能性を示すモデルもある。課題の一つは、長期的な傾向を検出するための信頼できる過去のデータが限られていることだ。大西洋のハリケーン観測記録は1800年代にさかのぼるが、衛星による観測網が整って以降の1980年代からしか、世界全体で信頼できるデータとはみなされていない。
とはいえ、急速な勢力強化の増加を示す証拠はすでにいくつかあり、それは大西洋で識別できる。
2022年9月後半の2週間に、ノルーとイアンはいずれも急速に勢力を強めた。イアンの場合、嵐がまだ熱帯低気圧だった数日前に、急速な勢力強化を的確に予測する予報が発表された。これはここ数年の勢力予測における大きな進歩を示すものだが、改善の度合いは一様ではない。
嵐が最大勢力に達する場所が、平均して極方向へ移動している可能性を示す兆候がある。これは嵐の主な影響が及ぶ場所に重大な影響を与えるだろう。しかし、この傾向が将来も続くかどうかは、まだ明らかでない。
高潮:二つの重要な影響
高潮、すなわち嵐によって沿岸の水位が上昇する現象は、嵐の移動速度や規模、風向、沿岸の海底地形など、さまざまな要因に関係する。気候変動は、少なくとも二つの重要な影響を及ぼす可能性がある。
嵐の勢力が強まると、高潮が高くなる可能性も高まる。さらに、気温上昇によって海面水位が上がり、水位そのものが高くなるため、陸地を基準に見た高潮は以前より高くなっている。その結果、より高い高潮が発生する可能性が増すという見方には高い確信がある。
移動速度と停滞の可能性
嵐の速度は、特定の場所での総降雨量を左右する重要な要因になり得る。移動の遅い嵐は、2017年のハリケーン・ハービーのように、雨が蓄積する時間を長くする。
ハリケーンの移動速度が世界的に低下している兆候があるものの、過去のデータの質が現時点での理解を制約しており、考えられる仕組みもまだ解明されていない。
将来の嵐の発生頻度は、より不確か
毎年発生するハリケーンの数がどのように変化するかは、十分に理解されていないもう一つの大きな課題である。
現在の気候における嵐の数や、将来どう変化するかを説明する決定的な理論はない。
嵐の発生に適した環境条件が整っているだけでは足りず、大気中の擾乱から嵐が形成されなければならない。現在の気候と将来の気候における嵐の数を決めるうえで、こうした嵐の発生前の擾乱がどのような役割を果たすかについて、科学界では議論が続いている。
エルニーニョやラニーニャなどの自然な気候変動も、ハリケーンが発達するかどうか、またどこで発達するかに大きな影響を与える。これらやその他の自然変動が将来どのように変化し、今後のハリケーン活動に影響するかは、現在も研究が進められているテーマだ。
気候変動はイアンにどれほど影響したのか?
科学者は個々の嵐を対象に要因分析研究を行い、地球温暖化がどれほど影響した可能性があるかを評価する。イアンについても、現在そうした研究が進められている。
しかし、個々の嵐を対象とした要因分析研究がなくても、人間活動による気候変動が、より強く、より雨をもたらし、高潮も高い災害が起きやすい環境を作り出したことは確かだ。温室効果ガス排出量が迅速かつ大幅に削減されない限り、人間活動によって、さらに深刻な嵐が発生する可能性は年々高まり続ける。








