気候変動の議論で見過ごされがちな砂漠。しかし気温の上昇に伴い、地球上で最も脆弱な場所の一つとなっている。
砂漠のもろい土壌クラストには数百万の微生物が生息し、それらがいなければ他の砂漠の生物は生きられない。
この生物土壌クラストが失われれば、砂漠は広がり、農業に適した土地をのみ込んでしまう。
米国のあるプロジェクトでは、専用の農場で生物土壌クラストを再生産し、それを使って「砂漠に皮膚移植」を行うことで、この事態への対策を進めている。
気候変動対策と聞けば、熱帯雨林の保全や、海面上昇から島国を守ることを思い浮かべるかもしれない。しかし、すべての生態系の中で最も脆弱であることが明らかになる可能性もある砂漠にも目を向けてほしい。
気候変動を引き起こす気温上昇の影響を、世界の砂漠はとりわけ強く受けている。科学者たちは、「超高温および極端な高温」の熱波が、気温56°Cを超えるようになり、今世紀後半には中東や北アフリカで頻発すると予測している。
新たな研究により、極端な暑さが世界の砂漠の生命をどれほど破壊しうるかが明らかになった。
砂漠に生息する動植物は、微生物が豊富な、生物土壌クラストと呼ばれる地表の保護層に依存している。菌類、地衣類、コケ、藍藻などの微生物は、水を保持し、植物から小型哺乳類まで他の生物が利用する栄養分を生み出すことで、砂漠の自然生態系に欠かせない役割を果たしている。
科学者たちは、こうした微小な生命体は極端な気温に適応して進化してきたため、気候変動にも耐えられると考えていた。しかし、米国南西部の砂漠地域を対象とした研究は、これらが従来考えられていた以上に脆弱であることを示している。
「コケ、地衣類、シアノバクテリアから成る生物土壌クラストは、多くの乾燥地の生態系にとって重要な構成要素です」と、砂漠の土壌クラストを年2回採取した調査に基づく知見を発表した米国地質調査所(USGS)の研究チームは記している。
ティッピングポイント
研究チームは自らの研究に先行研究を組み合わせ、53年分のデータを活用できた。砂漠の生物土壌クラストは、そこから回復できない可能性のある転換点に近づいていると結論づけている。すでに、砂漠の土壌に生息する地衣類の数が急減していることも確認された。
調査対象地域では、手つかずの砂漠環境を保つため、放牧が制限されてきた。しかし科学者たちは今、気温上昇によって「何十年にもわたる攪乱からの保護の効果が部分的に損なわれる可能性がある」と述べている。
生物土壌クラストが失われれば、それに依存する植物や動物も失われる。やがて砂漠が広がり、農業に適した土地をのみ込むことになる。国連の推計によると、生産性の高い土地がすでに毎年1,200万ヘクタール失われている。その多くは、迫りくる砂漠によるものだ。
科学者たちによると、生物土壌クラストは地球の地表の12%を覆っている。最新の研究を率いたUSGSの生態学者、レベッカ・フィンガー=ヒギンズ氏はScience.orgに対し、土壌に窒素を固定するある種の地衣類が、生物土壌クラストに占める割合で1996年の19%から現在はわずか5%に減少したと語った。
生物土壌クラストを守るには、化石燃料の使用やCO2排出の削減など、「大規模な気候変動緩和策」が必要だと、同氏はインタビューで述べた。「そうでなければ、私たちにできることはあまりありません。」
他の研究では、緊急の気候変動対策を講じなければ、世界の生物土壌クラストの25~40%が2070年までに失われると警告されている。「生物土壌クラストを失えば、土壌の安定性、植生、野生生物に大きな影響が及びます」と、米国ユタ州の自然保護団体ネイチャー・コンサーバンシーのスー・ベラガンバ氏は語る。
砂漠への皮膚移植
同氏の所属団体は、生物土壌クラストの農場でクラストを再生産するプロジェクトに参加している。再生産したクラストを「砂漠への皮膚移植」に使い、自然の生物土壌クラストが失われたユタ州キャニオンランズ国立公園の地域を回復させる計画だ。
アリゾナ州とカリフォルニア州の砂漠では、道路やパイプラインの建設に伴い、生物土壌クラストが取り除かれた。それをユタ州に運び、3年以内に約0.7ヘクタール分の新たな生物土壌クラストを育てた。
新たに育った生物土壌クラストのマットを取り出して砂漠に広げ、成長の島をつくった。科学者たちは、それがより広い地域の再生につながることを期待している。USGSのサーシャ・リード博士は、このプロジェクトを「驚くべき成功」と称賛した。




