アジアは世界経済を牽引する主要な地域だが、とりわけ排出量に関して複雑な開発課題に直面している。
地政学的な変化と、パンデミック後の政府財政を背景に、政府開発援助の従来の財源は減少している。
ブレンデッド・ファイナンスをはじめとする革新的な資金調達モデルは、持続可能で包摂的な、アジアならではの未来の構築に役立つ。
アジアは世界経済の牽引役となるべく前進する一方で、最も複雑な開発課題を背負っている。
世界の温室効果ガス排出量の半分以上はアジアで発生しており、目覚ましい成長の軌道を排出量の増加から「切り離す」必要がある。依然として10億人近くが、1日あたり3.65ドル未満で暮らしており、単一の持続可能な開発目標(SDGs)も2030年までの達成に向けて順調に進んでいない。
課題の深刻さが増す一方で、地政学的な変化により、政府開発援助(ODA)を含む従来の開発資金源は減少しており、COVID-19後の政府財政にも余力がない。慈善資金も、私たちの分析によれば、アジアが抱える年間2.5兆ドルのSDGs投資ギャップに対して、ごくわずかな割合しか担っていない。
こうした状況を踏まえると、ブレンデッド・ファイナンスおよび革新的金融(BIF)――公的資金や慈善資金による譲許的資本を戦略的に活用し、SDGs関連投資に民間投資を呼び込む手法――は、アジアの開発モデルの中核とならなければならない。
通常、BIFはリスク保証、劣後債務や株式、技術支援、プロジェクト準備ファシリティといった譲許的手段を用い、SDGsに沿った「かろうじて融資可能」なプロジェクトに商業資本を「呼び込む」。アジアはこの手法の活用を一段と強化する必要がある。
今なぜ必要なのか。最悪の条件が重なる一方で、またとない機会が訪れている
今日のアジアの開発の歩みは、二つの強い逆風と二つの有望な追い風に形作られている。だからこそ、ブレンデッド・ファイナンスおよび革新的金融は、時宜にかなうだけでなく、不可欠なのだ。
まず逆風を見てみよう。一方で、SDGs資金の重要な源である政府開発援助は、世界の地政学的な優先課題の変化に伴って減少している。BCGは、援助国が2023年以降にODAを削減した結果、アジアへの世界の援助資金の流入が18–26%減少する可能性があると推計している。
同時に、国内の公的財政は、COVID-19後の復興需要ですでに逼迫しており、SDGsが求める規模の投資を賄うのに苦慮している。こうした逆風を受け、資源を動員する方法を根本から見直す必要がある。ここでBIFが重要な役割を果たす。譲許的資本を活用して、大規模な民間投資を呼び込むのだ。
幸い、二つの追い風が楽観的な見通しをもたらしている。第一に、推定4.5兆ドルの世界の民間資本が「ドライパウダー」として待機しており、投資可能な機会を探している。急成長する経済と大きな投資需要を抱えるアジアは、この資本を受け入れるうえで有利な立場にある。
第二に、この地域の金融エコシステムは、イノベーションを促す独自の環境を備えている。先駆的なマイクロファイナンス・モデルから今日のフィンテック革命に至るまで、アジアは従来の手法を一貫して飛び越えてきた。資本市場が深化し、使命を重視する投資家層も拡大するなか、この地域は待機資金を活用し、BIFを大規模に展開する先導役となる準備が整っている。
ブレンデッド・ファイナンスおよび革新的金融は、アジアにとって2兆ドル規模の機会
ブレンデッド・ファイナンスおよび革新的金融は、実証例を示しつつあるが、規模の拡大には至っていない。2019-2023年に、再生可能エネルギー、インフラ、金融包摂などの分野で、アジアでは総額160億ドルに相当するブレンデッド・ファイナンス案件が137件あったと推計している。
さらに、公的部門、民間部門、慈善団体のパートナーを結集して資金を動員するブレンデッド・ファイナンスの取り組みであるFinancing Asia’s Transition Partnership(FAST-P)など、新たなファンドやファシリティが立ち上げられている。これらはアジアの脱炭素化と気候レジリエンスの課題に向けて50億ドルを動員する。
しかし、活用されていない潜在力は膨大だ。BCGの推計によれば、SDGsの目標達成に必要な投資需要を積み上げて算出すると、BIFに適した四つの優先分野で、アジアには年間2兆ドルを超える有望な投資機会がある。
エネルギー(1.3兆ドル):BIFは、多額の設備投資、不確実な電力購入契約、ソブリンリスクに直面する初期段階の再生可能エネルギー事業のリスクを低減できる。
インフラ(2,400億ドル):都市インフラ、電気自動車(EV)の充電設備、気候変動に強いシステムは資本集約的だが、適切な仕組み設計、長期的な視点に立った資本、BIFの手法がもたらすリスク軽減があれば、商業的に成立する。
農業(1,800億ドル):小規模農家向け融資や持続可能な農業バリューチェーンは、リスク認識を理由に十分な支援を受けられていない。BIFや、カーボンクレジットなど新たな収益源の創出によって、この課題に対処できる。
金融包摂(1,500億ドル):十分なサービスを受けられていない人々に焦点を当てたフィンテックや融資ソリューションは、金融機関がこれらの層への貸出を拡大できるようにするリスク保証基金など、BIFの支援があれば、さらに規模を拡大できる。
ブレンデッド・ファイナンスおよび革新的金融の拡大を妨げているものは何か
一定の勢いはあるものの、アジアにおけるブレンデッド・ファイナンスおよび革新的金融(BIF)の総額は2019年以降、停滞している。なぜだろうか。BIFは公的部門と民間部門という二つの世界が交わるところで機能するが、両者はしばしば異なる言葉を使い、インセンティブも一致していない。いくつかの主要な障壁が、この停滞を招いている。
第一に、投資可能な案件のパイプラインが限られている。融資可能なプロジェクトの準備に対する投資不足に、エコシステムの分断が重なり、民間事業者が実行可能な案件を特定しにくくなっている。第二に、案件の仕組みが標準化されていないことが状況を悪化させている。多くの案件は個別設計で、関係者との複雑な調整、高い取引コスト、長い交渉期間、再現性の低さを伴い、いずれも規模拡大を妨げている。
さらに、認識されているリスクやデータ不足も課題の一因だ。新興市場はカントリーリスク・プレミアムが高く、民間投資家にとって魅力が薄れている。実績データが限られ、収益率、債務不履行率、回収率に関する標準化された指標もないため、リスク評価はさらに複雑になる。
最後に、譲許的資金の提供者と商業資金の提供者の間の連携不足も、大きな障壁だ。許容可能なリスク水準、 開発上の追加的効果、インパクト測定について両者の足並みがそろわないことが多く、その結果、資本動員の非効率化と効果の低下を招いている。
この機会を切り開くには、6つの「P」が必要だと考える。以下のとおりである。
パイプラインの開発:融資可能な案件の堅固なパイプラインを構築するため、プロジェクト準備ファシリティと政策調整を強化する。
資金の集約と仕組みづくり:ファンド・オブ・ファンズのような資金集約の仕組みや、FAST-Pのようなプラットフォームによって、機関投資家の資金を大規模に呼び込み、仲介コストを削減するとともに、プロジェクトの完了までの期間を短縮できる。
パートナー間の連携:ブレンデッド・ファイナンスを効果的に機能させるには、民間投資家、開発金融機関、慈善団体、政府のすべてに同時に「相手の言葉で話せる」専門家が必要だ。
政策調整:固定価格買取制度などエネルギー分野の政策や、銀行に適切なプルーデンス規制を設けるための、重点分野に特化した政策支援と実現を促す規制が必要だ。さらに、長期の融資期間と現地通貨での資金提供を行う為替ヘッジ・ファシリティ(例:TCX)のような手段も、マクロ経済リスクへの対処に役立つ。
プラットフォーム:国別プラットフォームは、ブラジルの事例のように、案件パイプラインの開発、関係者の連携、BIF投資の基盤づくりと資金の誘導を推進できる。
人々を中心に据える:適応とレジリエンスへの投資、後発開発途上国や十分な支援を受けられていない地域社会への投資など、見過ごされがちだが重要な優先課題に特別な焦点を当てる必要がある。こうした分野では、融資可能性が境界線上にあると明らかなプロジェクトが少ないため、最も必要とする人々に資金が届くようにしなければならない。
複合危機から複合的な機会へと移行するアジアの好機
20世紀が援助の時代で、21世紀初頭がインパクト投資の時代だったとすれば、次の章を担うのは、大規模に、そして適切に実施されるブレンデッド・ファイナンスおよび革新的金融だ。
アジアには必要な力がある。起業家精神に富む活力、豊かな資本、デジタル基盤だ。しかし、この好機は何もしなくてもつかめるものではない。目的に合ったモデルを築き、地域の声を高め、人々と地球を第一に考える理念を資金調達戦略に組み込む意志が必要だ。
その一歩がASPIRE(Asian Platform for Investment into Resilient Economies)だ。BCGとAVPNが立ち上げたこのプラットフォームは、政策立案者、慈善団体、開発金融機関(DFI)、民間投資家を結集し、「参加意欲のある有志の連合」を築く。
世界経済フォーラムは、気候危機にどう取り組んでいるのか。
ロックフェラー財団と連携して、まずベラージオで会合を開くASPIREは、持続可能な金融の推進に取り組むアジアのリーダーたちのコミュニティを築く。このプラットフォームは、開発資金国際会議を含む世界的な議論の場でアジアの声を高め、世界の金融システムの再構築におけるアジアの役割を示す。ASPIREは世界の規範に従うのではなく、それを形作ることを目指し、次の金融革命の最前線にアジアを押し上げる。
もはや問われているのは、ブレンデッド・ファイナンスおよび革新的金融がアジアで機能するかどうかではない。それが期待に応え、持続可能で包摂的な、アジアならではの未来を築けるかどうかだ。



