温室効果ガス排出量の迅速な削減に代わるものはありませんが、世界はすでに気候変動の影響を受けています。
データ主導型テクノロジーとデジタル技術は、変化する気候への適応を支援するうえで特に有効な、独自の機能を提供します。
こうした技術を大規模に効果的に活用するには、標準化、透明性、公平性をさらに高める必要があります。
世界が新たな気候リスクの時代に入ったことは疑いようがありません。気候変動の影響は社会のあらゆる側面に及び、長期的な気象事象と突発的な気象事象によって、特にグローバルサウスで、脆弱な地域社会がすでに移住を余儀なくされ、貴重な生態系が脅かされています。こうした地域の人々への影響は世界中に波及し、バリューチェーン全体を混乱させ、食料危機や必需素材の不足のリスクを高めています。
温室効果ガス排出量の緊急削減(気候変動の緩和)が引き続き最優先課題である一方、過去の排出と将来の排出は、依然として対処すべき気候への影響をもたらします。これに取り組むのが気候変動への適応です。UNFCCCは、気候変動に伴う潜在的な損害を抑えたり、機会を生かしたりするために「プロセス、慣行、構造を調整する」取り組みと説明しています。

気候変動への適応を支援するテクノロジーの役割とは?
効果的な適応戦略を策定するには、経済的インセンティブや強固な政策枠組みから、地域主導の取り組みまで、多様なアプローチを結集する必要があります。気候変動を解決する万能なテクノロジーはありませんが、データ主導型テクノロジーとデジタル技術は、気候変動への適応サイクルの3段階にわたり、リーダーや地域社会に、適応の取り組みを支援するうえで特に有効な独自の機能をもたらします。「適応サイクル」:
– リスクを把握する:テクノロジーにより、地球とその気候をかつてない規模で観測できるようになりました。衛星、ドローン、IoTによって、地球規模から個人レベルまで、地球に関する情報を収集できます。AIをこれらのシステムと連携させる新たな研究は、予測システムの改善や地域ごとに調整された知見の提供につながる可能性を示しています。これにより、地方自治体や企業は、差し迫る気候リスクに関する貴重な情報を得られます。
– レジリエンスを高める:AIモデルをリアルタイムの地球観測データやIoTデータと統合すると、早期警戒システムに役立ち、異常気象時の人命やインフラの損失を抑えられます。また、こうしたモデルはサプライチェーン管理システムへの情報提供でも重要な役割を果たし、影響を受けた地域の経済的混乱を軽減します。
– 柔軟に対応する:地球観測は、危機後の地図作成や被害評価に不可欠な確かな情報源です。また、現場で運用できるAIやドローンは、当局の対応を支える重要な手段となり、資源配分に関する提案を行い、避難時の交通渋滞を緩和します。
この可能性を引き出すには、何ができるでしょうか?
こうした技術には大きな可能性がある一方、その力を最大限に発揮する妨げとなる重大な課題が残っています。以下の7つの優先行動は、障壁を乗り越えるための道筋を示し、データ主導型テクノロジーとデジタル技術の能力を最大限に引き出して、意図された効果の実現を促すことを目指します。
1. オープンソースのデータとツールを普及させる
オープンソースの原則は、気候変動がもたらす課題への対応をより包摂的かつ透明にし、より幅広い利用者や貢献者の参加を促すことで、イノベーションと発見の好循環を生み出します。
2. 標準化、相互運用性、透明性を高める
多様な関係者間の円滑な協力とデータ交換を可能にする一貫したエコシステムを構築するには、共通規格を定め、多様な技術やデータソース間の互換性を促す必要があります。さらに、このエコシステムに透明性(査読プロセスなど)を組み込めば、技術が単一の主体の利益ではなく、知見の共有を目的とすることを確かなものにできます。
3. サービスが行き届いていない地域でテクノロジーへのアクセスを改善する
気候変動の影響を最も受けやすい世界の地域社会は、気候データ、分析、計算能力へのアクセスも最も限られています。この格差を解消することは、周縁化された地域社会、とりわけグローバルサウスの地域が、十分な情報に基づく意思決定を行い、気候課題に直面しても持続可能なレジリエンスを築くためのツールを得られるようにするうえで重要です。
4. 適応テクノロジーへの資金を増やす
気候変動への適応に向けた資金調達の取り組みは、新たな気候リスクへの備えに必要な水準に大きく届いていません。この資金不足を埋め、新技術の継続的なイノベーションと、レジリエンスを高めるシステムの導入を支援する必要があります。
5. テクノロジー分野のリーダーと政府の連携を強化する
こうした技術の応用の多くが、試験導入の段階にとどまっています。課題の一因は新技術の開発に伴う固有のリスクですが、政府と企業のインセンティブの不一致も大きな要因です。政府は需要を示すシグナルをより強く発信し、産業界は投資収益をより長期的な視野で捉える必要があります。
6. 気候変動への適応に重点を置く規制を整備する
気候に関する知見は、気候変動への具体的な行動につながらなければ効果を発揮しません。政策立案者はこうした知見を活用し、人々を気候リスクからより適切に守る政策を策定、実施する必要があります。
7. 適応策におけるAIソリューションの潜在的なバイアスに対処する
AIは他の技術と同様、さまざまな形の潜在的なバイアスの影響を受ける可能性があります。気候関連の応用で公平かつ公正な結果を確保するには、こうしたバイアスを認識し、是正することが重要です。信頼性と包摂性を高めるため、これらの新たなソリューションを多様な関係者のもとで検証し、導入する必要があります。
今後に向けて
こうした課題を乗り越え、これらの技術の幅広い導入を加速するため、世界経済フォーラムはボストン コンサルティング グループと協力し、テクノロジー、産業界、公共部門、学術界、市民社会から約40人のリーダーや専門家を集め、「気候変動への適応に向けたテクノロジー」ワーキンググループを設立しました。
このグループは、先に触れた技術の応用と、それを可能にする重要な要素をさらに掘り下げた最近発表された報告書にも大きく貢献しました。さらに、報告書の主要な知見を実践に移し、最先端技術を活用した各自の気候変動適応戦略を策定するための実用的なツールを、意思決定者に提供する「アクション・ツールキット」を開発中です。
世界経済フォーラムは、テクノロジーを活用した気候変動への適応を推進するすべてのリーダーに、このグローバルコミュニティへの参加と、よりレジリエントな世界に向けた取り組みへの貢献を呼びかけています。


