企業が温室効果ガス排出量の削減に取り組む際、多くの場合、手軽に実現できる削減や短期的な解決策に注目します。
炭素削減目標を達成するには、はるかに野心的で広範囲にわたるアプローチが必要になるでしょう。
企業がネットゼロを達成し、利益を維持することは可能ですが、バリューチェーン全体にわたる排出の根本原因に取り組む必要があります。
ネットゼロへの移行は非常に困難な課題であるため、企業は利益率を維持したままでは達成が不可能だと考えがちです。その結果、多くの企業は取り組みやすい方策や短期的な解決策に注力しています。具体的には、鉱物採掘、食肉加工、石油会社への融資といった高炭素排出事業を売却して排出を他者に転嫁したり、再生可能エネルギーからのみ電力を調達するなど、社内に「グリーンの孤島」を作ったりしています。
企業にとって、まずは現在の排出削減に注力することは有益です。しかし、長期的に見ればそれだけでは十分ではありません。再生可能エネルギー由来の電力への切り替えは、二酸化炭素排出量を削減する有効な方法です。しかし、の試算によると、当社が12の地域と22の業種にわたって実施した試算では、その効果はネットゼロ達成に必要な量の3分の1にも満たないことが示されています。最終的には、企業は排出を削減するためにビジネスモデルを再設計しなければならないでしょう。
明るい材料として、当社は企業がネットゼロ型ビジネスモデルへ利益を確保しながら移行することが可能であることを示す証拠が増えつつあることがわかりました。特に何もしない未来と比較した場合にそうです。顧客、投資家、政策立案者がますます企業に排出削減を求めるなか、これらの機会を無視したり先送りしたりする企業は、準備不足に陥る可能性があります。
当社は、幅広い業種と地域にわたる27の大手企業の代表者と対話し、多くの企業が商業目標と気候変動対策の間で続いてきた相反する課題を解決する方法をすでに見いだしつつあることがわかりました。当社のレポート「Getting Real(現実を直視する)」では、企業がこの課題にアプローチする際に前進していることが示されています。 製品やサービスを生み出すために必要な、あらゆる活動全体にわたって排出を削減するというより野心的な目標を掲げています。こうした取り組みに役立つ実践例は数多くありますが、ここでは当社が特定した3つを紹介します。
1. バリューチェーン全体での排出削減
多くの企業にとって、排出の大部分と気候変動対策の可能性は、「スコープ3資産」にあります。これらは報告組織が所有または管理しているものではありませんが、間接的に企業のバリューチェーンに貢献しています。排出を真に効果的に削減するには、企業はこれらのスコープ3排出に対して行動を起こす必要があります。例えば、当社がインタビューした食品・飲料加工会社の1社は、数千のネットゼロ酪農場に投資しています。鉱山会社は、製鉄会社に対して、高炉でのエネルギー消費が少ない鉱石ブレンドを供給しています。また、ある光ファイバーケーブルメーカーは、ケーブル製造から電化のバリューチェーン全体へと事業範囲を拡大する投資を実際に行っています。
2. 根本原因への取り組み
大規模な排出が発生している場所が、必ずしも対策として最も効果的な場所であるとは限りません。当社は、企業が排出を追跡することで、自社事業内またはバリューチェーンに沿った根本原因を突き止めていることを確認しました。例えば、ある宅配会社は、車両の電動化と配送ルートの最適化によって荷物配送時の排出を削減しています。さらに、受け取り側の人々により良い情報と管理手段を提供し、配送の予測や変更を可能にすることで、再配達の回数を減らしています。大手テクノロジー企業は、AIやクラウドの導入において コードレベルまで電力効率を測定し、チップメーカーと協力して製品使用時のエネルギー消費を最小限に抑えています。
3. 高炭素事業を自動的に縮小しない
投資家は、単に資本配分を見直すことによって低炭素事業のポートフォリオを拡大したくなりがちです。しかし、実際に削減を促すうえでより効果的なアプローチは、現在高い炭素排出を伴う事業に投資しつつ、変革に向けた明確かつ緊急の道筋を示すことです。当社の調査によると、移行に必要とされる1兆ドル超の投資のうち、70~80%は最も削減が困難な分野のいくつかに振り向けられる必要があります。一部の活動家も今やこの論理を認識しており、高炭素事業からの投資撤退を求める姿勢から、計画的な移行を求める姿勢へと転換しつつあります。
当社は、住宅ローンの分野でこの例を見出しました。すでにエネルギー効率の高い住宅への住宅ローンの提供は、銀行の住宅ローン融資ポートフォリオの炭素指標を改善しますが、「グリーン住宅ローン」そのものは排出を削減するものではありません。それらは、消費者の関心をエネルギー効率へ向ける第一歩になるかもしれません。次の段階は住宅の改修への融資であり、これははるかに大きな脱炭素効果をもたらします。
同様に、融資は効果的な移行計画の資金調達にも活用できます。一部の銀行は、顧客とともに移行していくという考えのもと、化石燃料企業への融資を継続しています。その移行には資本が必要となります。もちろん、これらの取り組みの信頼性にとって、変革の進捗が科学的に求められるペースと規模を実現することが不可欠です。
教訓は、企業の炭素排出量を削減する最も容易で明白な方法では、ネットゼロ達成には至らないということです。こうした取り組みやすい方策に過度に注力すると、より根本的な対策から目を逸らしてしまう恐れがあります。ネットゼロの世界を実現するためには、企業はサプライチェーンや顧客による製品使用を含め、事業システム全体から排出を取り除く必要があります。





