気候変動が続くなか、企業が温室効果ガス排出量のネットゼロを達成し、その進捗を投資家に報告するよう求める圧力が高まっている。
米証券取引委員会(SEC)は、上場企業に排出量とネットゼロ計画の詳細な開示を義務づける新規則を提案している。
義務的な情報開示によって投資家や従業員がこの問題をより深刻に受け止めるようになる可能性がある一方、規則の内容は十分ではないと感じる人もいる。
気候変動の危険が増すなか、企業が温室効果ガス排出量のネットゼロを達成し、その進捗を投資家に報告するよう求める圧力が高まっている。
米証券取引委員会(SEC)は規則を提案している。この規則により、上場企業は次のことを求められる。
サステナビリティ目標と、その達成状況を開示する。
気候変動が事業にどのような影響を及ぼしているかを説明する。
直接・間接の温室効果ガス排出量を記録する。
この規則に反対する人々は、こうした要件はSECの管轄に属すべきではないと主張する。一方、賛成する人々は、投資家により高い透明性をもたらし、企業に公約への責任を負わせるものだと述べている。
「義務的な情報開示によって、投資家や従業員、企業が事業を展開する地域社会の人々、さらには経営者までもが、これをより深刻に受け止め、資本を活用する方法を見つけるよう促されるかもしれません」と、MITスローン経営大学院のジョン・スターマン教授は述べた。
スターマン氏は、同規則は「膨大なグリーンウォッシング」の抑制にもつながるほか、人手不足や新型コロナウイルス感染症のパンデミックといった、より差し迫った課題に注力する企業に気候問題を意識させる効果もあると付け加えた。同氏は、MITスローン・サステナビリティ・イニシアチブの共同学術ディレクターを務める。
スターマン氏は、「気候情報開示の義務化」と題したシンポジウムで発言した複数のパネリストの一人だった。このシンポジウムは、MITゴルブ金融・政策センターの主催で開催された。
パネル討論から得られた主なポイントを3つ紹介する。
1. 義務的な情報開示が効果を発揮するには、企業の排出量をすべて対象にする必要がある。
企業が排出量の記録を準備する際、自社の直接の管理下にない事業活動について、サステナビリティや排出量のデータにアクセスできないことが、しばしば障壁となる。スコープ3排出量として知られるサプライヤーやエンドユーザーから得られるこうした外部データの多くは、企業が入手できないことが多い。
「私たち全員が向き合わなければならない問いは、スコープ3に取り組むうえで、実用的かつ実行可能な方法は何かということです」と、技術革新、起業家精神、戦略的経営を専門とするシニア講師のロバート・ポーゼン氏は述べた。「多くの企業は、顧客の行動をあまり管理できません。情報を入手する手段さえない企業もあるかもしれませんが、いずれは得られるようになるでしょう。」
SECの規則では、企業はスコープ3排出量を報告することが求められる。ただし、それが「重要」とみなされる場合、つまり企業の業績や存続可能性に影響を及ぼす場合に限られる。
容易ではないという点では大方の見方が一致しているが、この情報は投資家にとって価値がある。
「情報を求める投資家から今日寄せられている情報提供の要請の波は、何年も積み重なってきたもので、すさまじい規模です」と述べたのは、キャロル・ジェレミア氏。MFSインベストメント・マネジメントの社長兼グローバル・ディストリビューション責任者を務める。「皆が話しているように、明確で一貫した情報が得られる可能性があるというのは、非常に歓迎すべきことです。現状では、想像しうるあらゆるレベルで情報の波が押し寄せています。」
2. 上場企業には排出量データの報告が求められる。では、民間企業はどうなるのか?
上場企業に報告を義務づけるのは良い第一歩だが、民間企業がSEC規則の対象外なら、それだけでは不十分だ。
「民間企業は対象になっていません」と述べたのは、ロバート・エクルズ氏。KKRのサステナビリティ専門家諮問委員会の委員長であり、オックスフォード大学サイード・ビジネス・スクールの教授でもある。「民間企業は数多くあり、そのなかには非常に大規模な企業もあります。」
ただし、上場企業が民間企業から製品やサービスを購入する場合、その排出量は上場企業が報告しなければならない。
サステナビリティ・イニシアチブのディレクター、ジェイソン・ジェイ氏は、排出量報告の複雑さが増すのを避けるために上場を見送ったり、事業をよりクリーンに見せるために汚染度の高い資産を売却したりする企業が出る可能性があると述べた。
「企業は、こう考えて上場を選ばないかもしれません。『報告があまりにも複雑になる。ならば民間市場にとどまり、この種の透明性については世間に情報を明かさずにいよう』と」と同氏は述べた。
「もう一つの問題は、排出量を開示しなければならないなら、最も排出量の多い事業部門を民間企業に売却するという手もあることです。そうすれば、すべての排出量を民間市場に隠し、公の目に触れないようにできます。」
3. データは重要だが、それがすべてではない。
投資家の視点から企業の気候リスクを評価する能力は、「データの改善に伴い、かなり向上しています」と語ったのは、MITスローン経営大学院の会計学教授、ミシェル・ハンロン氏。
しかし、多くの企業が炭素排出量を追跡し、そのデータを行動に生かしている一方で、ほかにも多くの要因が関係している。
「すべてがデータにかかっているわけではありません」とハンロン氏は述べた。「判断力に加え、企業がどれほど変わる見込みがあるかについて、定性的な評価や分析を多く行い、それを自分の分析に織り込む必要があります。」
SEC規則の一環として、企業は気候リスクが短期から長期にわたり、自社の戦略、見通し、財務諸表、事業にどう影響するかを開示しなければならない。「企業に求められる開示や推計の量は天文学的です」と同氏は述べた。
「これは画期的な動きです。民間部門に存在する排出量に光を当てる可能性があるからです。」
ジェイソン・ジェイ ― MITスローン・サステナビリティ・イニシアチブ、ディレクター
この規則は、切望されている明確さをもたらす可能性がある。
多くの企業が正しい行動を取ろうとしている一方、グリーンウォッシングはいまも問題として残っている。最近、ニュー・クライメート・インスティテュートの報告書は、排出削減に関して25社の多国籍企業を低く評価し、疑わしい主張を見極めることの難しさを指摘した。
ジェイ氏は、新たなSEC規則は正しい方向への大きな一歩となり、待ち望まれていた透明性をもたらすと述べた。
「気候変動について深く考える私たちにとって、これは画期的な動きです。民間部門に存在する排出量に光を当てる可能性があり、その光はスコープ3のような仕組みを通じて、民間市場の隅々や影の部分にまで届くかもしれません」とジェイ氏は述べた。
「費用対効果の検討や実施上の課題は非常に大きく、これがSECの管轄範囲にどう位置づけられるかという法的な課題も同様に重大です。」
この記事は、当初MITスローンに掲載された。




