• 知的障害のある多くの人々が訴えてきた孤独感は、隔離によってさらに強まっている。
• ロックダウンにより、専門的なサービスや就労機会が突然失われている。
• ケアの配分をめぐる問題が、現在の不安や恐怖をさらに高めている。
私の弟は、3月半ばに初めて「自立した」住まいへ移る予定だった。20代後半で、知的障害のある弟は、ついに勇気と決意を固め、家族と暮らす家を出てグループホームで生活しようとしていた。新型コロナウイルスのパンデミックのため、弟の転居は無期限に延期され、弟の世界はほとんど自分の寝室だけになっている。パートタイムの仕事にも、図書館にも、教会にも行けない。
弟をはじめ、多くの知的障害のある人々は、新型コロナウイルス感染症の流行下で、孤独感の増大というさらなる負担に直面している。この困難な時期に、多くの人が孤立、不安、孤独を経験しているが、流行前から、知的障害のある人々の45%が孤独を感じていると報告していた(一般人口ではわずか10.5%)。隔離生活による負担の増大は、メンタルヘルスの問題、睡眠障害、気分の変動につながる可能性がある。
私たちは、孤独感が、心臓病、免疫機能の低下、脳卒中などの深刻な健康リスクと関連していることを知っている。すでに長く孤独や社会的排斥を経験してきた知的障害のある人々にとって、これは心身の健康にどのような重大な影響をもたらすのだろうか。新型コロナウイルス感染症の患者の多くは、ひとりで亡くなる。すでに深刻な孤独を感じている知的障害のある人々にとって、この事実はとりわけ残酷に思える。
知的障害のある人々はしばしば、訪問介護員などの支援を利用しているほか、日中活動プログラム、立ち寄り型の支援センター、家族の休息支援サービス、グループホームも利用している。健康と安全上の理由から、こうしたサービスの多くが現在利用できなくなったり閉鎖されたりしており、家族の責任が増すとともに、知的障害のある人々の日常生活に影響が及び、自立が大きく損なわれている。弟は州の資金援助を受けたパートタイムの仕事に行けず、身近な家族以外の人々と交流する機会や、働くことで感じていた生きがいを失っている。
新型コロナウイルス感染症に関連するこうしたサービスの変更からは、知的障害のある人々の多くが日々の生活で頼っている家族、介護者、職員との複雑な相互依存関係も浮き彫りになる。中国では、脳性まひのある10代の若者が亡くなり、ある家族が注目を集めた。武漢で、コロナウイルス感染症と診断された父親と兄が治療施設で隔離され、世話ができなくなった後のことだった。
医療上または行動上の支援ニーズが高いため、ひとりで隔離生活を送ったり、家族と一緒に過ごしたりできない知的障害のある人々もいる。グループホームや同様の長期ケア施設で暮らせば、知的障害のある人々は必要なケアを受けられる一方、感染リスクは大幅に高まる可能性がある。自立または半自立して暮らしながら訪問介護員に頼っている知的障害のある人々とその家族は、感染にさらされるリスクと、必要な日常生活の支援を受けられないリスクを比較検討している。
私たち全員が理解して従わなければならない健康・安全に関する指針に加え、知的障害のある人々は、新型コロナウイルス感染症の流行下で安全を保つうえで、より大きな困難に直面している。弟をはじめ、多くの人々にとって、日常の習慣がすっかり崩れてしまった。これは多くの知的障害のある人々にとって大きな課題だ。急速に変化する新型コロナウイルス感染症に関する情報や公衆衛生上の指針の更新内容を理解するのは難しいことがあり、知的障害のある人々は、非言語的な手がかりがなければ意思疎通に苦労する場合もある。
カナダのサスカトゥーンでは、公衆衛生当局のソーシャルディスタンスに関する指針に戸惑った知的障害のある人々の中には、食料品やその他の必需品を買わずに過ごした人もいた。弟は、手洗いの重要性を本当に理解しているとは考えにくく、動画を見たり詳しいパンフレットを読んだりしても、正しい手洗いの方法を覚えているかどうか分からない。
世界経済フォーラムは、障害者の包摂における格差を解消するために何をしているのか。
知的障害のある人々を支援し、その権利を擁護する団体は、収入の減少や物流面の課題に直面しながらも、サービスや支援を提供し続けるために懸命に取り組んでいる。インクルージョン・ヨーロッパは、コロナウイルスについて分かりやすく読める解説ガイドを作成した。このガイドは知的障害のある人々向けに作られ、複数の言語で利用できる。国連は、社会から取り残された人々や脆弱な立場にある人々を包摂する方法に関する資料を作成した。これには、知的障害のある人々をリスクコミュニケーションや地域社会との連携に包摂する方法も含まれる。国際障害同盟は、障害者を包摂した新型コロナウイルス感染症対策に関する具体的な提言を発表した。
知的障害のある人々は、ケアを配分制限する医療制度の中で対応を迫られる可能性がある。多くの国々が新型コロナウイルス感染症の流行中に直面しているような資源不足の時期には、必要とするすべての患者に行き渡るだけの資源がない。そうなった場合、医療従事者は、どの患者に資源を提供するかを決める必要があり、利用可能なケアを配分することになる。
イタリアでは、患者が多すぎて病院が対応しきれず、人工呼吸器を必要とするすべての人に使用できないという話が数多く伝えられている。医療従事者は、誰にケアを提供するかという胸の痛む選択を迫られている。
米国では、障害者コミュニティが、米国障害者協会などを通じて、州が発表した災害対策計画などに盛り込まれた指針に強く反対してきた。ワシントン州、カンザス州、テネシー州、アラバマ州などの指針は、障害のある人々を不利な立場に置きかねない終末期の判断を推奨している。中には「重度の知的障害」のある人々に人工呼吸器を提供しないよう勧めるものもある。障害者の権利擁護者は、こうした方針が市民権に直接影響すると主張している。これを受け、連邦保健省の公民権局長は調査を開始し、ワシントン州やカンザス州を含む一部の州は、差別を暗黙にも明示的にも容認しないよう指針の改定を進めている。
それでも、ケアの配分制限に伴う恐怖や不確実性は、知的障害のある人々に深刻な不安をもたらしている。医療従事者が迅速な判断を迫られ、その人の能力や病歴を十分に理解していないために、医療資源を受ける機会を奪われるのではないかと懸念しているのだ。
障害のある人々やその権利擁護者は、当然ながら、医師が障害のある人々について、偏見に基づく思い込みをする可能性があると指摘している。こうした懸念は、医療分野に障害者差別が存在することを示す研究によって裏付けられている。知的障害のある人々とその家族は、科学の名の下に行われた非倫理的な医学研究を覚えている。例えば、同意しない参加者を対象にニューヨーク州のウィローブルック州立学校で行われた実験などだ。知的障害のある人々は今も世界各地で強制不妊手術の対象とされている。
世界経済フォーラムは、コロナウイルスの流行に対して何をしているのか。
今のところ、弟は新型コロナウイルス感染症をめぐる大騒ぎをあまり理解していないようで、家にいてくれることにほっとしている。あまり寂しい思いをしていないといいのだが。地域社会に戻ることが許される日がいずれ来ると考えると、弟が衛生指針に従えるだろうかと思う。せきをしている人から離れていられるだろうか。熱があると私たちに伝えてくれるだろうか。今は、弟が病院に行くことになったとき、障害のない人と同じように、その命が大切に扱われることを願うしかない。

