組織の4分の3(75%)は、自社の業界内外で起きている変化のペースに対応できる準備ができていません。
分野を問わず、将来に生き残り、繁栄するためには、私たち全員が業務の進め方を見直す必要があります。
フォーサイトは、個人や組織が将来への備えを強化し、イノベーションと俊敏性を高めるのに役立ちます。
クリスタリナ・ゲオルギエバ氏は先ごろ、次のように述べました。「相対的に予測可能な世界から……脆弱性が高まり、不確実性が増し、経済の変動が大きくなり、地政学的な対立が深まり、より頻繁で甚大な自然災害が起きる世界へと移行しています。どの国も、これまで以上に容易に、そして頻繁に進路を外れる可能性がある世界です」
こうした混乱や危機には即時の対応と行動が必要ですが、危機管理の視点だけで対処することはできません。より深い変化や変革の兆候である可能性が高いからです。
産業界では、CEOのほぼ40%が、現在の道筋を進み変革を行わなければ、10年後に自社が経済的に存続可能だとは考えていません。調査によると、組織の75%は自社の業界内外で起きている変化のペースに対応できる準備ができていません。
これは警鐘となるはずです。生き残り繁栄するだけでなく、今後数十年の変革課題に取り組むためにも、業務の進め方を深く見直し、価値の創出、分配、獲得の方法を再構想する必要があります。
これは未来だけの話ではありません。今ここで、私たちにできること、すべきことを実現するためのものでもあります。この文脈で、私たち全員が大きく向上させるべき難題が3つあります。未来思考、システム思考、指数関数的思考です。

主要な戦略的能力としてのフォーサイト
フォーサイトとは、開かれた姿勢を保ちながら体系的に未来を探り、想像し、予測するための一連のアプローチです。未来を形づくる複数のシグナルや変化の推進要因から生じる課題と機会を特定し、検討するのに役立ちます。また、不確実性に満ちた状況で意思決定に情報をもたらし、戦略的選択肢の策定を促すうえでも欠かせません。
組織にフォーサイトを取り入れることを検討すべきでしょうか。もちろんです。この分野ですでに取り組んできた組織は、未来リテラシーとフォーサイト能力をさらに強化すべきでしょうか。間違いありません。これは、個人や組織、さらには社会全体の将来への備えを築くための、具体的で強力な方法です。そして今、その必要性はかつてないほど高まっています。
「危機ではなくフォーサイトによって内部の変化を管理するには、環境の変化を適時に捉えることが欠かせない」
アリー・デ・フース
フォーサイトは幅広く豊かで、絶えず進化する分野であり、短い記事で十分に論じることはできません。ここでは、その中核となる原則やアプローチ、活用例をいくつか紹介して具体的に伝え、関心を持つきっかけとなることを願っています。
フォーサイトの基本には、未来は予測できない可能性の領域であると認識し、受け入れることがあります。また、長期的な視点に立ち、周辺やシステム全体を見渡して、視野を広げる必要があります。さらに、個人や集団に潜む偏りを乗り越えるため、多様な視点を取り入れることも重要です。
フォーサイトで用いられる、特によく知られた有力な手法を2つ紹介します。
ホライズン・スキャニング
特定のテーマや課題の未来を探る際に、変化を推し進める多様な要因や知見、関連するシグナルを収集、特定、分類し、その意味を把握するのに役立ちます。
ホライズン・スキャニングで特定できる要素には、メガトレンド、トレンド、弱いシグナル、ワイルドカード、不確実性などがあります。

保険会社のエイジアス・グループは先ごろ、「Think2030 Horizon Scan」プロジェクトを立ち上げました。これは、幅広い領域で目の当たりにしている大きな変化への対応です。
このプロジェクトは、こうした変化が業界や事業、各事業体にどのような意味を持つのか、同社が考察するのに役立てることを目的としています。Think2030は、さまざまな職能、事業、市場に携わる従業員の社内知識と人工知能を組み合わせて活用します。同社がトレンドを以下のように特定、分類することを可能にします。
● 即対応項目:短期的に大きな影響を及ぼすトレンドで、現在の事業計画に組み込むべきもの。
● 加速項目:想定以上の速さで進展しており、即時の行動が必要となる可能性があるトレンド。
● 警戒項目:緊急にさらなる調査が必要となる可能性があるトレンド。
● 観測項目:大きな影響が見込まれるものの、顕在化するのは中長期となるトレンド。
● 保留項目: 保険業界への影響が非常に小さいトレンド。
これらの情報は、エイジアスの戦略的な議論や選択に役立てられ、精度の向上にもつながっています。また、従業員の未来リテラシーを高め、組織全体にこの思考法を浸透させることにも貢献しています。
世界経済フォーラムのストラテジック・インテリジェンスプラットフォームも、ホライズン・スキャニングの可能性と、このアプローチの別の活用例を示しています。フォーラムの企業・政府パートナーに加え、より広く一般の人々が、世界、地域、業界のトレンドやシグナルを探り、理解し、把握できるよう支援することを目的としています。
このプラットフォームは、第一線の専門家、大学、国際機関のネットワークから知見を集め、信頼できる出版社、シンクタンク、研究機関が発信する1日1,000本を超える記事の機械分析で補完しています。
動的なビジュアル・フレームワークは、多様なテーマ間の相互関係を示して説明することで、点と点を結び付けます。これにより、フォーラムのパートナーや、幅広い課題に取り組むフォーラム自身が、より豊かな文脈理解を得られます。
シナリオ・プランニング
シナリオは起こり得る未来のシミュレーションであり、予測ではありません。トレンド、メガトレンド、弱いシグナル、ワイルドカード、不確実性を未来の物語として描くことが多く、予測困難な将来環境に自らを投影する助けとなります。未来を照らす灯台の役割を果たし、起こり得る変化とその影響について関係者の理解を促します。
多国籍の石油・ガス企業であるシェルは、企業におけるフォーサイトの先駆者です。50年以上にわたりシナリオを策定し、世代を超えた幹部が起こり得る未来を探るのを支援してきました。
シェルはシナリオの策定にあたり、「もしこうなったら?」と問いかけ、可能性が低い展開も検討材料として思考を深めます。同社は従来のエネルギー見通しを大きく超え、経済、政治、社会全般のトレンドに目を向けるなど、より幅広い推進要因を盛り込む傾向があります。
公共部門では、シンガポール政府がシナリオ・プランニングを早期に導入した政府の一つであり、これを戦略計画や予算編成のサイクルに欠かせない要素としています。国土が小さく外的事象の影響を受けやすいシンガポールにとって、戦略的フォーサイトへの取り組みは比較優位の重要な源泉となってきました。
「先行きが見通せないなかで、良いガバナンスを維持することが私たちの最大の課題です」と語るのは、ピーター・ホー氏です。シンガポールの戦略的未来センターの創設者です。その後シンガポールは、シナリオ・プランニングをホライズン・スキャニングなど他の手法やツールで補完してきました。
「計画を立てないことで、失敗への準備をしている」
ベンジャミン・フランクリン
組織では、どのように実践できるでしょうか。
組織にフォーサイトを取り入れる試行錯誤が数十年にわたって行われた結果、この能力をうまく構築するには2つの重要な要素があることが明らかになりました。第一に、経営トップや意思決定者が主導する必要があります。
そのためには、この能力を構築するための時間とリソースを確保し、何よりも、意思決定者がフォーサイトの取り組みから得られる成果や知見に基づいて批判を受け入れ、戦略的選択を見直す可能性にも前向きであることが必要です。
第二に、フォーサイトを最も効果的に活用している組織には、従業員全体にフォーサイトを広げようとする姿勢が共通しています。フォーサイトを中央部門だけで実践するのではなく、組織全体に行き渡るスキルや能力、さらには文化として捉えています。
以下の図に示すように、フォーサイトは、探索、方向付け、イノベーション、ビジョン策定、戦略、イノベーションを通じて、組織が将来への備えを築くのを支援できます。

未来リテラシーが世界の識字率に並んだら?
1820年、世界人口のうち読み書きができたのはわずか12%でした。現在、この割合は87%に達し、先進国の大半では99%に上ります。未来リテラシーとフォーサイトが、世界の識字率と同じ発展の道をたどったらどうなるでしょうか。
乱獲や森林破壊などの環境悪化は、今も目にするでしょうか。投機バブルや無謀な融資、景気後退は、今も起きるでしょうか。現在の水準の不平等は、今も見られるでしょうか。上場企業の四半期報告は、今も当たり前でしょうか。公務員は、選挙サイクルに伴う短期的な政治圧力や短期的なニーズに、今もさらされるでしょうか。
世界経済フォーラムは、仕事の未来に向けて何をしているのでしょうか。
未来リテラシーも識字率と同じ道をたどることを願っています。また、組織や分野を問わずフォーサイトの戦略的重要性を高めることが、その実現に役立つと考えています。フォーサイトは、初等教育、大学、ビジネススクールの中核的なカリキュラムに組み込まれ、個人と組織の能力の中核にもなるべきです。
そうなれば、従業員のエンゲージメントを高めながら、組織の将来への備え、イノベーション、俊敏性を強化できるだけではありません。生き残り繁栄するため、そして今後数十年の変革課題に取り組むために、私たちはこれを必要としています。
これは未来だけの話ではありません。今ここで、私たちにできること、すべきことを実現するためのものでもあります。


