従業員はボーナスや賃上げといった金銭的なインセンティブに反応するものだと考えられています。しかし、経営者は従業員の懐に訴えるだけでなく、利他心に働きかけることで、その成果を高められるのかもしれません。
金融危機から経済が回復するなか、企業は財布のひもを締めたままですが、 新たな証拠 が示すように、従業員を企業の慈善活動に参加させれば、お金でしか得られないと思われていた種類の動機づけが可能になります。
米国の有力企業261社を対象とした 調査 のデータによると、フォーチュン500社の上位100社のうち62社を含むこれらの企業は、2013年に合計250億ドルを超える寄付を行いました。これは税引き前利益の約1%、従業員1人当たり600ドル超に相当します。これほどの取り組みをするからには、従業員への効果を期待したいところです。
一風変わった仕事
企業の慈善活動が生産性にどう影響するかを調べるため、大学生300人以上を募り、書誌情報を入力してもらいました。この仕事は、自宅で自分のペースで、直接監督を受けずにパソコンを使って作業できるように設定されていました。
報酬については、固定給に加えて、成果物の量に応じたボーナスを参加者に提示しました。入力1件当たりの報酬額を変え、生産性にどのような反応が表れるかを観察しました。
一部のケースでは企業の慈善活動の要素を導入し、従業員に代わって本人が選んだ慈善団体に寄付することを提案しました。
この寄付は、従業員が受け取る個人報酬とは別に支払われました。寄付額が一定のケースもあれば、従業員の成果に連動するケースもあり、仕事量が多いほど寄付額も増える仕組みでした。最後に、成果に応じたボーナスを自分と慈善団体に分けて配分する選択肢も提示しました。
予想どおり、ボーナスを増やすと生産性が上がりましたが、寄付を導入した場合も同様でした。特に、慈善寄付があると、生産性は平均13%上昇しました。寄付が生産性に連動しているかどうかは関係ありません。この上昇率は、当初の生産性が最も低かった従業員では30%に達します。こうした従業員の場合、慈善寄付による生産性の上昇は、同額の費用がかかるボーナス増額の効果と実際に区別できません。
また、寄付が任意の場合、参加者の半数以上が自分の報酬の一部を慈善団体に寄付することを選び、男性より女性のほうが寄付を選ぶ傾向が高いことも分かりました。報酬パッケージに慈善寄付を含めるかどうかを従業員自身が選べるようにすることが、ボーナスを単に増やすよりも、業績向上に最も効果的でした。
善行は報われる
これらの知見は、従業員や求職者への調査に基づく他の研究結果とも一致します。 製造業 の生産従事者から 金融部門のサービス従事者まで、対象とする集団はさまざまですが、こうした調査研究で一般的に導かれる結論は、 企業の社会的責任 は従業員の企業へのコミットメントと正の相関があるということです。さらに、社会的責任に取り組む企業は、 求職者にとってより魅力的であり、特に、より高い資格を持つ人々を引きつけます。
従業員にとどまらず、他の研究では、顧客が 製品の倫理的特性にどう反応するか(例えば、売上の一部が慈善団体に寄付される商品に高い金額を支払うこと)も明らかにされています。また、倫理的基準が 投資家の判断 に影響することを示す証拠もあります(アルコールやたばこの製造、またはギャンブルに関わる企業への投資に影響します)。
これらすべてから、企業にとって「善いことをする」のは、収益面でも成果を上げるための現実的な方法になり得ることがうかがえます。エコノミスト・インテリジェンス・ユニットは数年前、企業幹部を対象に 調査を実施し ました。回答者の34%は、3年前の時点で社会的責任が自社にとって「優先度が高い」または「非常に高い」と答えました。これに対し、現在についてそう答えた人は56%、さらに3年後には優先度がどれほど高くなると予想するかについては、約69%がそう答えました。
エコノミスト誌が述べたように、慈善方針のない大企業は「ほとんど考えられない」存在です。結局のところ、世界で最も成功した企業の一つであるグーグルの非公式なモットーは「邪悪になるな」であり、創業者たちは2004年の新規株式公開に際しての書簡で、次のように述べています。
長期的には、たとえ短期的な利益の一部をあきらめることになっても、世界のためになることを行う企業のほうが、株主として、またあらゆる面において、より大きな恩恵をもたらすと私たちは強く信じています。
公共政策と資金調達の観点から見ると、従業員がボーナスの一部を慈善団体に寄付する意思があるという証拠は、慈善寄付を増やすと同時に生産性を高める機会があることを意味します。例えば、職場で給与天引きによる寄付制度を導入するよう雇用主に促すことが考えられます。
また、従業員は自分の勤め先を誇りに思いたいと考えていることも示されています。職場のパーティーで無料の飲み物が振る舞われることより、少しでも高尚な何かを共有したいのです。
本 記事はThe Conversationとの協力により公開されています。掲載されたことは、世界経済フォーラムが見解を支持していることを意味しません。
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著者:ミルコ・トニンはサウサンプトン大学の経済学准教授です。マイケル・ヴラソプロスはサウサンプトン大学の経済学准教授です。
画像:太陽光パネルの展示の隣に立つ女性のシルエット。REUTERS/Yuriko Nakao



