社会的孤立が世界的に深刻化するなか、サウジアラビアは都市計画に人々のつながりを取り入れています。
統合型コミュニティモデルでは、誰もが利用しやすい公共空間、徒歩で移動しやすい近隣地域、コミュニティの拠点を重視しています。
ビジョン2030の方針に基づき、国の政策は、サウジアラビアの都市を暮らしやすく魅力的な人間中心のエコシステムにするという目標を支えています。
ほぼあらゆる指標で、サウジアラビアの生活の質は向上しています。住宅へのアクセスは広がり、インフラは拡充され、接続性の向上によって都市の機能効率も高まりました。持ち家率は66.24%に達し、平均寿命は79.7歳まで延びました。また、子どもも大人も、日々の身体活動を行う割合が現在の目標を大きく上回っています。
これは、かつては全国的な願望にすぎなかった目標が現実になりつつあることを明確に示しています。その原動力となっているのは、王国のビジョン2030の方針です。サウジアラビアの人間中心の統合的なアプローチは、生活の質が物的所有だけで決まるものではないと認識しています。
しかし、この願いと並行して、世界では好ましくない傾向も見られます。OECDの調査によると、人々が友人や家族と対面で会う時間は減っており、若い世代では、社会的なつながりが特に大きく減少していることが分かっています。一方、 世界保健機関は、世界の6人に1人が孤独の影響を受けていると推計しています。
これらを総合すると、より構造的な問題が浮かび上がります。世界各地の社会では、現在の生活の質の定義に照らして、人々の暮らしを向上させてきたかもしれません。しかし、建築環境が人々の生活の実感に及ぼす影響を、知らず知らずのうちに見落としてきたのではないでしょうか。
人間中心のマスタープランニング
長い間、生活の質は、個人がどれだけ蓄積し、物質的に拡大できるかと密接に結び付けられてきました。建築環境にも、その考え方が反映されてきました。開発モデルでは規模と効率が優先され、多くの場合、プライベート空間や排他性を通じて表される消費者の願望も重視されてきました。
こうしたアプローチは確かな恩恵をもたらした一方で、帰属意識を支える日常的な交流の密度を低下させることも少なくありませんでした。人々のつながりを形づくり、ひいては住む場所への思いを左右する、共有された暮らしの営みや空間、経験の重要性を見落としていた可能性があります。
人々と場所をより包括的につなぐ、人間中心のマスタープランニングには大きな価値があります。近隣地域の社会的なつながりが住民に直接影響を与えることを示す研究が増えています。ある6年間の縦断研究では、地域の施設を利用でき、結束力のある近隣地域に暮らす人々は、社会的支援をより多く得られ、時間の経過とともにウェルビーイングも向上することが分かりました。
リヤドのSEDRAコミュニティでは、住民が自宅を離れて過ごす時間の75%超を、ライフスタイル関連や小売の活動に費やしていることが調査で明らかになっています。こうした活動の場が自宅の近くにあれば、交通量の削減、つながりの形成、生活の質の向上に大きな効果があります。
ほかの研究も、帰属意識そのものの重要性を裏付けています。これは複雑な概念です。5,500人を超える成人を対象にした調査では、コミュニティの一員だと感じることは、企画された集団活動に実際に参加することよりも、生活満足度を強く予測する要因でした。しかし、だからといって、建築環境の将来を計画する際に、つながりを生む機会が重要でないというわけではありません。生活の質は、個々人の置かれた状況と同じくらい、人間関係やつながり、共有された経験のあり方によって形づくられます。
これには重要な意味があります。都市は長い間、交通網、公共設備、住宅供給といった物理的インフラを中心に設計され、あるいは発展してきました。これらは今も不可欠です。しかし、人々のつながりを可能にする社会的インフラは、最近まで一貫して重視されてきませんでした。そこには、誰もが利用しやすい公共空間、徒歩で移動しやすい近隣地域、コミュニティの拠点、そして人々が日々の暮らしのなかで互いに接する機会を生み出す環境が含まれます。ROSHN Groupの統合型コミュニティモデルは、すべてのマスタープランでこうした社会的インフラを重視し、住宅を孤立した住まいではなく、活気とつながりのある人間中心のエコシステムの拠点として位置付けています。
こうした要素があれば、その恩恵は時間とともに積み重なります。欠けていれば、便利で、客観的に見て設計が優れ、美観にも配慮された環境でさえ、つながりのない場所に感じられることがあります。
帰属意識を育む設計は、施設を追加すればよいという話ではありません。場所を最初からどのように構成するかが重要です。近さも大切ですが、共有空間の質、移動のしやすさ、日々の行動がどの程度自然に交わるかも同じように重要です。通りや公園、学校の周辺、地域の商業施設で小さな交流を重ねることで、親しみと信頼が育まれます。こうした交流はやがて、感情面で、あるいは厳密に目に見える実利の面でなくとも、私たちが頼りにするコミュニティと社会的支援の基盤となります。
公共空間に関する政策
建築環境が明らかに役割を担うなか、都市政策もそれに合わせて進化しています。国連人間居住計画(UN-Habitat)は、引き続き公共空間が包摂、健康、レジリエンスを支える不可欠なインフラであることを強調しています。また、多くの都市では、人々が共に過ごす公共生活に十分な空間を割り当てられていないと指摘しています。
サウジアラビアでも、議論は同様の方向に進んでいます。高まる需要に応える住宅供給が大きく進展する一方、都市開発に関する国の戦略的優先事項は、暮らしやすさの目標や生活の質全般と明確に結び付いています。王国の目標は、都市部の成長を加速させることだけではなく、自国の都市を、訪問者や投資家にとって世界で最も暮らしやすく魅力的な都市の一つにすること
です。この転換は、大規模住宅開発の構想にも影響を及ぼし始めています。住宅は、学校、小売店、モスク、緑地、医療施設、レクリエーション施設と緻密に計画され、相互に結び付けられています。こうして統合型コミュニティが形成され、社会的なつながりが深まり、車への依存を抑えながら、より健康的で活動的な暮らしが促されます。生活のさまざまな側面やニーズの間にある不便を減らし、つながりを高めることで、有意義な交流や共有体験の機会を増やすことができます。
サウジアラビアのSEDRAコミュニティなどのプロジェクトには、このアプローチが表れています。質の高い住宅地を公共空間、各種施設、管理されたコミュニティインフラと組み合わせ、時間とともにつながりが育まれるようにしています。数千世帯がSEDRAに入居するなか、マスタープランは住民の利用状況に応じて進化してきました。これにより、今後の開発段階では、つながりと持続可能性をさらに高めるニーズに応えられるようにしています。
世界経済フォーラムは、持続可能な都市開発を促進するために何をしていますか?
都市は世界の温室効果ガス排出量の75%を占め、世界人口の半数以上が暮らしています。この割合は2050年までに3分の2に達する見込みです。よりクリーンなエネルギーを優先すれば、都市は、パリ協定に沿って地球温暖化を2°C未満に抑えるために必要な排出削減量の半分以上に貢献できる可能性があります。
2050年までにネットゼロで自然にプラスの影響をもたらす都市とコミュニティを実現するため、世界経済フォーラムは官民の関係者と連携し、地域の行動を通じて世界的な目標の実現を後押しする取り組みを進めています。ここでは、その一部を紹介します。
ダボス・バウクルトゥール・アライアンス:建築環境における気候レジリエンス、持続可能性、循環型経済の原則に基づき、建物、インフラ、公共空間の質の高い計画、建設、管理を推進します。詳しくはこちら。
グローバル・ニュー・モビリティ連合:渋滞と排出量を減らし、電気自動車(EV)インフラを強化し、都市の移動と配送を変革する新たな解決策を探ります。詳しくはこちら。
都市イノベーション連合:イノベーターや起業家を新たな市場や機会につなぎ、生活の質と地域経済を再構想し、変革します。詳しくはこちら。
G20グローバル・スマートシティ・アライアンス:気候レジリエンスを高め、人々のウェルビーイングを向上させ、都市や地域コミュニティが直面する喫緊の課題に取り組む、賢明で実践的な解決策を加速させます。詳しくはこちら。
旅行・観光の未来:文化遺産を保護し、自然の生態系を守りながら、包摂的で持続可能な経済成長を推進します。詳しくはこちら。。
より持続可能で暮らしやすい都市やコミュニティをつくる取り組みに、ぜひご参加ください。お問い合わせはこちら。
政策を導くのは、物事の捉え方です。生活の質を主に個別の資産によって定義するなら、私たちがつくる環境も引き続きその優先順位を反映するでしょう。一方、つながり、参加、帰属意識、そして長期的な健康と環境の持続可能性にもたらす恩恵を考慮すれば、開発には生活の質へのより深い取り組みが反映されるでしょう。それには、快適さや利便性、個人としての達成感だけでなく、人間関係を築き、コミュニティの暮らしに参加し、私たちが家と呼ぶ建物の境界や構造を超えた大きな何かの一員だと感じられることも含まれます。
結局のところ、生活の質を形づくるものを見極めるには、次の問いを考えなければなりません。その場所は、生き生きとした気持ちや帰属意識をもたらすでしょうか。それとも、玄関の内側で完結する何かへのアクセスを提供するだけでしょうか。

