新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、世界的な住宅不足が加速しました。
住宅の供給と手頃な価格での購入・賃借を早急に拡大する必要があります。そうしなければ、何も対策を講じないことによる代償として、深刻な社会危機や市民の暴動が生じかねません。
問題の解決に役立つ5つの政策を紹介します。用途地域の規制緩和、金融面での優遇措置、移民政策の見直し、より有利な住宅ローン条件、税収の増加です。
パンデミック以前から、世界は賃貸市場と売買市場の双方で深刻な住宅不足に直面していました。新型コロナウイルス感染症によって、供給網の課題と、歴史的な低金利を背景により広い住居を求める購入希望者の急増が重なり、入手可能な住宅の不足が加速しました。
ウクライナでの最近の情勢により、大規模な難民危機が生じており、500万人を超える人々が避難を余儀なくされる可能性があります。これにより、欧州全体で問題がさらに深刻化するでしょう。
世界的な住宅不足の影響
住宅を手頃な価格で利用できるかどうかがGDPに及ぼす影響は、研究で明らかにされています。例えば、住宅が手頃でないことにより、都市圏のロンドンのGDPは16億ドル減少したと推計されています。一方で、多くの世帯は、純資産が不動産に大きく集中しているため、住宅価格の安定に依存するようになっています。中国では、報告によると世帯資産の70%がこの形で保有されています。
米国の世帯の半数以上は、25万ドルの住宅を購入できません。一方、全国の住宅価格の中央値は40万8,100ドルです。およそ1,100万人の米国人が、収入の50%を超える額を家賃に充てています。香港では、賃借人は住宅費に収入の50.3%を費やしており、世界最高水準です。
供給面では、世界各地でロックダウンや建設禁止措置により開発業者に大幅な遅れが生じ、地価が急騰しました。その後の供給網の問題に加え、資材や労働力の不足によって、新たな住宅供給はさらに制約されました。広範なインフレにより、当初の計画を上回る販売価格や賃料でなければ、プロジェクトの採算が取れなくなっています。
昨年、アリゾナ州フェニックスの賃料は30%上昇しました。米国では、一戸建て住宅の賃料が過去最高の7.8%上昇しました。販売用住宅の価格は16.9%上昇し、所得の伸びを上回るペースでした。販売中の住宅在庫は、48.7%減少し、2019年1月から2021年12月にかけて、人口3億3,300万人の国でわずか753,102戸という過去最低水準に落ち込みました。
新型コロナウイルス感染症と人道危機による需要の増加
パンデミック以前から、潜在的な需要はすでに積み上がっていました。米国の持ち家率は、2019年第4四半期に過去最低の65.1%となっていました。また、ミレニアル世代は住宅を所有するより賃貸を好むという広く流布した見方は誤りでした。ミレニアル世代には、単に不動産を購入する手段がなかったのです。
彼らには前の世代のような貯蓄がありませんでした。大不況の影響で、キャリアの出発点が厳しいものになった人もいました。その結果、銀行への規制が強化され、頭金を最低20%求めるなど条件が厳しくなったため、住宅ローンを利用しにくくなりました。
ロックダウンで人々の貯蓄が増え、政府の景気刺激策によって購買力が高まり、資産価値が急上昇したことで、ミレニアル世代はついに住宅を購入する力を得て、すでに逼迫していた市場の需要を押し上げました。新型コロナウイルス感染症への規制の違いや、リモートワークの拡大見込みを一因とする大規模な人口移動も、購入熱をさらにあおりました。
今こそ、何十年も続いてきた住宅政策や都市計画政策を見直し、需要と供給のバランスを取り戻す重要な局面です。何も対策を講じなければ、複数世代にわたる多くの人々が生活環境に不満を抱き、深刻な社会危機が生じかねません。特に若い世代への影響が大きくなります。
世界的な住宅不足への対策となる5つの政策を紹介します。
1. 用途地域の規制緩和
地方自治体は、一戸建て住宅地区の用途地域規制を緩和することで対応を始めています。ドイツのベルリンなどでは、1区画に複数戸を建設できるようにしています。こうした政策は、社会的包摂の促進にもつながります。
こうした取り組みの弱点は、規模を拡大しにくいことです。小規模な区画の高密度化には時間がかかり、効果も限られます。用途地域の規制緩和に関するより効果的な政策として、ブルックリンのウィリアムズバーグ地区のように、地区全体を整備して大規模な建設を促す方法があります。ここでは、所得層が混在する高層のウォーターフロントタワーが建設されました。
ただし、用途地域の規制緩和は、望ましい効果が得られる程度に慎重に行う必要があります。例えば、現在のマンハッタンのゾーニング規制は、新しい建物の高さよりも建物の幅を大幅に制限するため、極端に高く細いタワーが生まれています。しかし、そのような設計の建設費は非常に高く、超高級コンドミニアムだけが経済的に成り立つ用途となっています。その結果、57丁目に「ビリオネアズ・ロウ」が生まれました。
2. 移民政策の規制緩和
建設業界は移民労働者に大きく依存しているため、移民政策は住宅供給に影響を及ぼします。そのため、移民政策を緩和すれば、開発コストを下げ、労働力不足を和らげることで、住宅費を削減できます。
3. 需要側と供給側の双方への金融支援
需要側と供給側の両方を刺激するには、金融面での優遇措置が必要です。低金利融資や減税措置は有効な手段です。新築住宅プロジェクトや改修の総資本コストを抑えられるだけでなく、老朽化したオフィスやホテルを住宅に転用する際にも役立ちます。ニューヨーク州知事のキャシー・ホークル氏が最近発表した措置は、正しい方向への一歩です。
4. 税収を生み出す商業小売スペース
世界各地の都市では、主要な通りを歩行者専用にする動きが続いています。パリのシャンゼリゼ通りに関する計画により、主要な都市の動脈となる通りの歩行者が増えるでしょう。これにより、価値の高い商業スペースの可能性が広がります。自治体は商業施設の増設を目指すべきです。小売物件の価値が上昇すれば、固定資産税収入も増えます。この追加収入を手頃な価格の住宅の整備に活用できます。
よく語られてきたのが、パリの「15分都市」や、メルボルンの「20分近隣地区」です。都市中心部の高密度化が進み、ロックダウン中に住民が身近な地域の魅力を再発見するなか、自治体は引き続き「分散化」を進めなければなりません。都市の中核部の外には、開発可能な土地が多く未活用のまま残されています。
5. 住宅購入者向け住宅ローンの拡充
住宅購入希望者向けの頭金支援制度はありますが、利用は難しく、物件の入札時に不利になることもあります。銀行規制を緩和して頭金を少なくできるようにすれば、購入者の負担を軽減し、中間層がより住宅を所有しやすくなります。頭金0~10%のローンが米国より欧州で利用しやすい理由はありません。現在の低金利環境で、金利が固定され、当初優遇金利もないのであれば、頭金の少ないローンが新たなサブプライム危機を引き起こすことはありません。
NIMBY(「自分の裏庭には来ないで」)や反ビジネス的な措置が問題を悪化させてきましたが、折しもパンデミックによって、仕切り直しに最適な環境が生まれました。近年の政治的な対立を経て、今こそ公職者は、より大きな社会的利益のために民間部門と緊密に協力しなければなりません。そのためには、時間が勝負です。

