企業はAIコストを予算内に抑えるのに苦労し、最先端システムはテスト環境から逸脱し、モデルへのアクセスが一夜にして失われることもある。こうした状況は、AIを掌握することが重要な課題になりつつあることを示している。
CEOにとって決定的な問いは、もはやAIをどれだけ早く導入できるかではなく、主導権を保ちながら導入できるかどうかだ。
世界経済フォーラムの「コミュニケーション&テクノロジーCEOコミュニティ」のメンバーは、この問いの最前線で取り組んでいる。
AIの規模拡大や導入、投資収益率の実現をめぐる課題と機会については、これまで多く論じられてきた。しかし今、これほど注目されてこなかった新たな問いが浮上している。CEOは、自社が依存するテクノロジー、インテリジェンス、経済性を掌握しながら、AIを拡大できるだろうか。
AIがますます利用しやすく、広く活用される一方で、制御は難しくなっている。企業はAIコストを予算内に抑えるのに苦労し、最先端のAIシステムは隔離されたテスト環境から逸脱して外部プラットフォームをハッキングする。また、政府の介入により、最先端モデルへのアクセスが一夜にして失われることもある。
制御の課題はテクノロジーそのものにとどまらない。リーダーたちは競争上の堀を手放すことを懸念し、構造的な主権を強化する方策を検討している。そして最終的に、AIをめぐる不確実性は、各業界の企業に対する投資家の評価にも影響している。売上高と利益率が伸び続けているにもかかわらず、株価が急落するCEOもいるほどだ。
世界経済フォーラムの「コミュニケーション&テクノロジーCEOコミュニティ」のメンバーは、この状況の理解に努めており、二つの役割を担っている。AI経済を支えるインフラ、コネクティビティ、プラットフォーム、サービスを構築すると同時に、自社の製品、業務、ビジネスモデルも変革している。
Capgemini、Automation Anywhere、Equinix、Nokia、Snowflake、TelenorのCEOを含む運営委員会の指針のもと、同コミュニティは来年の活動の中心課題に、制御の問題を据えた。
特に、課題が最も大きい分野として、次の三つを挙げる。
1. テクノロジーの制御
AIが登場して以来、ガバナンスは議論の中心にあった。今、エージェント型AIの進展が、この課題を根本から変えつつある。その結果、リーダーたちは自問している。セキュリティは進化に追いつけるか。AIエージェントが下した判断を説明できるか。サードパーティーのテクノロジーに依存してよい領域はどこで、独自のソリューションが必要なのはどこか。
複数のエージェントを導入する際には、ベンダーロックインを防ぎつつ、エージェント同士が安全に連携できるようにするため、相互運用性が重要となる。万能の方法はない。デジタル・エコシステムが複雑化するにつれ、企業には固有のニーズに応じた柔軟性と、テクノロジーや要件の変化に対応できる選択肢が必要になる。
こうした変化する課題への対応に向け、企業はエージェント型AIの制御プレーンを検討すべきだ。これは、拡大するAIエージェントのデジタル労働力を統治、オーケストレーション、保護、監視、管理するための基盤となる機能である。実際には、エージェントの行動を可視化し、自動化された判断の明確な監査証跡を整え、エージェント単位でコストを把握するための投資を意味する。デジタル労働力の拡大に合わせて、説明責任も拡大できるようにするためだ。この制御レイヤーはAIを安全に拡大するうえで不可欠であり、企業が個別の試験導入から脱し、企業全体で信頼性、コンプライアンス、測定可能な成果を実現する助けとなる。
2. インテリジェンスの制御
現在の議論であるデジタル主権は、企業のインテリジェンスがどこに存在するかという問いと密接に結び付いている。企業、さらには経済全体の成否がテクノロジーの統合に大きく左右されるなら、デジタル主権はもはや政策立案者だけの問題ではない。戦略上不可欠な経営課題である。
事業継続にも影響する。地政学的緊張によって、海外でホストされている基幹システムが停止する可能性がある。その場合、安全なフェイルオーバー戦略とはどのようなものか。また、企業はプロバイダーを簡単に切り替え、データを別の場所に移せるだろうか。
リーダーの目標は、テックスタック全体を制御することではなく、最重要資産を支えるために主権を確保できるテクノロジーへどこに投資するかを慎重に見極め、価値を生み出す場合にはより広範なエコシステムを活用できる柔軟性を保つことだ。企業がクラウド導入からAI推論、モデル適応、エージェント型実行へと移行するにつれ、主権をめぐる議論はデータを越え、インテリジェンスそのものに及ぶ。CEOは、どの能力を自社の管理下に置き続けるべきか、また、コンプライアンス、セキュリティ、戦略的自立性を損なうことなくAIを拡大するため、どのエコシステムを信頼するかを決める必要がある。
3. 事業価値の制御
ここ数カ月で、AIを多く使えば必ず事業価値も高まるという幻想は打ち砕かれた。むしろ、AIの効率性と価値の測定方法が重要になっている。自動化したプロセス当たりのコスト、成果達成までの時間、従業員一人当たりの売上高、AI投資と生産性向上の関係、さらにAI投資が株主価値に与える影響が、経営幹部や投資家が求める指標になりつつある。規律ある取り組みと明確な測定の枠組みがなければ、AIは価値の源泉ではなく、大きなコスト要因になりかねない。
CEOにとっての問いは、どこに投資し、どこで線を引くのかということだ。誰もが同じ最先端モデルを使えるなら、実際に企業価値を生み出すものは何か。AIへの支出に対して高い価値をもたらす機能はどれか。
AIが実験段階を超え、企業の運営方法に組み込まれたとき、事業価値が生まれる。そのためには、テクノロジー基盤を近代化し、拡大に必要なエージェント型の能力を構築し、製品やサービスを再創造し、信頼できる人間とAIの連携を軸に基幹プロセスを再設計する必要がある。こうしてAIは期待から測定可能な効果へと移り、成長を支え、収益性を高め、競争力を強化すると同時に、従業員の力を引き出す。
AIの制御について率直に話し合う時
CEOにとって決定的な問いは、もはやAIをどれだけ早く導入できるかではない。企業運営をますます担うシステムを掌握しながら、測定可能な事業価値を生み出す形で導入できるかどうかだ。
成功するのは、AI投資から健全なリターンを得るとともに、AIをどこに導入するか、どこでコストを削減できるか、どの能力を独自のものとして維持すべきか、そしてパートナーシップによって競争優位が損なわれるのではなく強化される領域はどこかを、慎重に選択する企業だ。最終的には、自社のテクノロジー、インテリジェンス、事業価値を掌握する企業が成功を手にする。
テクノロジー・エコシステム全体のCEOに、次の方法を通じてこれらのテーマに取り組むよう呼びかける。
業界を越えた同業者との率直な対話、共通の枠組みや共通基準に関する協働、そして対話を行動に移す具体的な成果の創出。



