人工知能(AI)の機会を捉えることは、政府や企業にとって、技術的な課題であると同時に社会的な課題でもある。
人々への影響をどう管理するかによって、AIが経済のレジリエンスと技術への信頼を強めるのか、損なうのかが決まる。
あらゆるレベルの意思決定者が、より適切な判断を下せるよう、AIの機会とリスクについて、より明確で詳細な情報を必要としている。
人工知能(AI)はすでに世界経済に広範な影響を及ぼし、企業の運営方法や仕事のあり方を形作っている。企業と投資家の双方にとって、その機会は大きい。生産性の向上、イノベーションの加速、新たな成長源に加え、労働者の能力を拡張し、起業を可能にする技術によって、すべての人に恩恵をもたらす経済全体の規模拡大が期待できる。
しかし、その機会を捉えることは、技術的な課題にとどまらない。政府や企業が、労働者、消費者、地域社会に対するAIの影響をどれだけ適切に管理できるかにかかる社会的な課題でもある。
世界の雇用の約40%がAI関連の自動化の影響を受ける可能性があり、業務や求められるスキルの変化も進むなか、適切に対応できるかどうかで、AIが経済のレジリエンスと技術への信頼を強めるのか、それとも損なうのかが決まる。
AIが格差に及ぼし得る影響が重要な理由
したがって投資家は、AIへの投資判断にあたり、目先の効率向上にとどまらず、移行が所得、雇用の安定、機会へのアクセスにおける格差を拡大させるのか、緩和するのかを検討する必要がある。
世界では10億人を超える働く人々が――労働人口の約3分の1にあたる――人間らしい生活を送るのに十分な収入を得ていない。そのため、こうした格差は経済・金融面でますます重要な考慮事項となっている。
世界経済フォーラムの『グローバルリスク報告書2026』は、経済、政治、環境の各システムを不安定化させる可能性を踏まえ、格差を今後10年間で最も相互に関連する世界的リスクと位置づけている。これは2年連続となる。
AIが労働力に及ぼす影響は、気候変動、低炭素経済への移行、人口動態の変化、地経学的な分断といった大きな変化と並行して進む。それぞれが、社会的包摂、人権、社会・政治の安定に影響をもたらす。適切に管理されなければ、こうした圧力が重なり、投資家が単純な分散投資では回避できないシステムレベルのリスクにつながり得る。
それにもかかわらず、市場はこうした圧力をいまだ適切に価格に織り込んでいない。金融パフォーマンスの測定や従来型リスクの管理は高度化してきたが、人々や社会の状況が事業の成果、市場の安定、長期的な価値創出に及ぼす影響を考慮する能力は、依然として大きく不足している。
気候や自然関連のリスクと比べると、社会や格差に関する問題は、企業や投資の主流の意思決定において見えにくく、比較しにくいうえ、ガバナンス、戦略、リスク管理への組み込みも一貫性に欠けている。その結果、意思決定者は、将来のパフォーマンスを左右する最重要要因の一つを明確に把握できないまま、重大な構造変化に向き合うことが多い。
AIのリスクを把握するための市場で活用可能な枠組み
格差・社会関連財務情報開示タスクフォース(TISFD)は、この隔たりに対処するために設立された。TISFDは、企業や金融機関が人々に関わる影響、依存関係、リスク、機会を理解し、より適切な意思決定を行えるよう、市場で活用可能な枠組みを策定している。
現在は草案段階にあり、2027年末の最終化を予定している。その目的は、説明責任の強化を支えながら、こうした問題をより明確で一貫性のある、意思決定に役立つものにすることだ。
AIと気候変動への移行は、企業が人々に及ぼす影響や人々への依存が、投資家にとってリスクと機会の双方を生み出し得ることを示す、差し迫った事例である。対処しなければ、こうしたリスクはポートフォリオの長期的なパフォーマンスを損ない得る。
多くの企業が、かつてないほど多くの人々に関するデータを収集している。しかし、その情報は複数の基準や開示資料に分散したまま、組織内でサイロ化したり、意思決定ではなくコンプライアンスに重点を置いたりしていることがあまりに多い。
こうしたデータだけでは、取締役会、経営幹部、投資家が、人々に関する問題がパフォーマンス、レジリエンス、長期的な価値にどう影響するかを十分明確に把握できていない。その結果、環境・社会・ガバナンス(ESG)報告の疲弊と過負荷も招いている。TISFDは世界で2,000件を超える開示要件と、300を超える独自指標を特定しており、調和と収れんを進める余地が大きいことを示している。
TISFDは、重複を減らし、報告基準の比較可能性を高める、世界的に一貫性のある開示枠組みを構築することで、この課題に取り組んでいる。TISFD枠組みは既存の基準を土台とするよう設計されており、これには次の組織が策定した基準が含まれる。国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)、グローバル・レポーティング・イニシアティブ(GRI)、欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)。目的は、比較可能性を高め、企業に求められる報告の分断と重複を減らすことだ。
TISFDの枠組みは、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)および自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)が確立したアプローチとも緊密に整合している。人々、気候、自然は深く相互に結びついており、これらを一体として考慮する必要性が高まっていることを踏まえたものだ。
人々に関わるリスクの理解が、繁栄を共有する鍵
情報の改善だけで格差の拡大を解消することはできず、AIをはじめとする移行の進み方を決定することもできない。しかし市場は、明確に把握できない機会やリスクを効果的に管理できない。
大きな経済移行はどれも、市場と社会を形作り直す。AIも例外ではない。AIが、より大きく幅広く共有される繁栄を促すのか、それとも格差を深めるのかは、政府、企業、投資家が今日下す決定にかかっている。
人々に関わるリスクと機会をより明確に把握することが、適切な対応の土台となる。繁栄する企業、成長する市場、成功する移行は、その基盤である人々や社会のレジリエンスとウェルビーイングに依存するからだ。
ピーター・バッカーとガブリエラ・ラモスは、格差・社会関連財務情報開示タスクフォースの共同議長を務める。


