引用は、長さと明瞭さを考慮して一部編集しています。
人類に恩恵をもたらすというAIの約束は実現するのでしょうか。その実現を妨げるものは何でしょうか。
歴史学者・経済学者のカール=ベネディクト・フレイがフォーラムの取材に応じ、変化のペース、AIの「スケーリングの時代」の終わり、そしてこの時代について未来の歴史家が何を語るかを論じました。
フォーラムのラジオ・ダボスのポッドキャストでは、世界が直面する大きな課題のいくつかと、その解決策を探ります。
AIは新たな進歩の時代を切り開くと期待されています。しかし、それはどのように、そしていつ実現するのでしょうか。
オックスフォード大学でAIと仕事を専門とするディーター・シュワルツ准教授を務める歴史学者・経済学者、カール=ベネディクト・フレイによれば、その答えはテクノロジーそのものの先にあります。AIが持つ可能性を実現するには、イノベーションと制度が欠かせません。
フォーラムの取材に応じたフレイは、変化のペース、「スケーリングの時代」が終わりに近づいている理由、そして私たちが生きるこの時代を未来の歴史家がどう振り返るかについて語りました。
回答は明瞭さを考慮して編集しています。
テクノロジーの変化が制度の適応を上回ると、何が起きるのでしょうか。AIをめぐって、その兆候がすでに見え始めているのでしょうか。
重要なのはテクノロジーだけではありません。制度やインセンティブも重要です。たとえば学界では、「出版するか、さもなくば立ち去るか」というインセンティブがあります。そのため、研究者は一度に複数のプロジェクトに取り組む傾向があります。強力な新しい生産性ツールを手にしたとき、できることを増やすか、そのツールを使って一つのテーマをより深く掘り下げるかを選べます。証拠が示すのは、私たちが前者を選んできたということです。その結果、より多くのプロジェクトに注意が分散し、個々の分野で限界を押し広げ、突破口を開く可能性が下がります。AIの生産性向上の可能性を実現するには、制度上の課題を解決する必要があります。
未来の歴史家が現在の時代を振り返るとき、何を語るでしょうか。
過去10年間のAIで見られたのは、データと計算能力を増やして既存の手法を拡大する、スケーリングの時代です。そのパラダイムは徐々に終わりを迎えつつあり、AIを前進させる新しいアイデアが必要です。たとえば、ボードゲームの囲碁を考えてみましょう。[Google DeepMindのAIプログラムである]アルファ碁が2016年に世界チャンピオンを破ったことは、多くの人が知っています。しかし、あまり知られていないのは、その後、人間のアマチュアが一般的なコンピューターを使い、最強の囲碁プログラムを打ち負かしたことです。学習時には経験していなかった局面をAIに提示することで、それを実現しました。ここから分かるのは、機械が人間を超える性能を達成しても、状況が変わったときにアルゴリズムがどれほどうまく機能するかは確実には分からないということです。そして世界は常に変化しています。これから必要なのは、新しい状況や未知の場面によりうまく一般化できる、より頑健なAIです。そのためには、さらなるイノベーションと研究が必要です。
つまり、スケーリングの時代から、創意工夫の時代へ移る必要があるのでしょうか。
新しいアイデアが必要ですから、研究の新しいパラダイムが必要です。AIの未来が大規模言語モデルにあるとは、到底言い切れません。小規模言語モデルかもしれませんし、記号AIかもしれません。大規模言語モデルと記号AIの融合かもしれませんし、まったく別のものかもしれません。そうした進路を探るには、研究の新しいパラダイムと、さらなる分散化が必要です。
これは、世界のさまざまな国や地域にどのような意味を持つでしょうか。
世界はますます分断されています。これは大きな変化です。戦後にさかのぼると、世界の成長はアメリカのテクノロジーに大きく依存していました。アメリカは基本的に、大量生産の仕組みを世界に広めました。その多くは、たとえばヨーロッパを支援するためのマーシャル・プランを通じて行われました。現在は状況が大きく異なります。アメリカは、テクノロジーの自由な流通への関心を大幅に失っています。ヨーロッパがアメリカをパートナーとして頼れないのであれば、自ら技術を開発する必要があります。かつては他所で生まれた技術を導入し、後発国として成長していた世界各地でも、同じことが起きるでしょう。今後は、イノベーション主導型のモデルへ移行しなければなりません。
フォーラムは、リーダーがAIを理解し、責任あるイノベーションに協力できるよう支援します
AIエクセレンス・センターは、さまざまな分野のリーダーをつなぎ、人工知能の急速な進化と、それが経済や社会にもたらす影響への理解を促します。また、AI導入に伴う機会、リスク、トレードオフについて、十分な情報に基づく対話を支援します。
信頼できる対話の場や協働イニシアチブを通じて、センターはパートナー間の共通理解を深め、AIのイノベーションと活用に責任ある形で取り組めるよう支援します。
新しいテクノロジーの進む方向が明らかになった後、社会が軌道修正するにはどれくらいの時間が必要でしょうか。
第一次産業革命にさかのぼると、工場制度の恩恵が広く人々に行き渡るまでには数十年かかりました。当時のイギリスは、どのような意味でも民主主義国家ではありませんでした。今日、民主的な制度を備えた社会には、自ら軌道修正するための仕組みがより多くあります。アメリカの金ぴか時代[1870年代後半~1900年代初頭]には、台頭するテクノロジー独占企業に対して人々が立ち上がり、政治腐敗が制度に深く根付いていることが明らかになりました。その結果、ペンドルトン法が成立し、能力主義に基づく公務員制度が整備されました。その公務員制度はその後、たとえばシャーマン反トラスト法を通じて、アメリカの独占企業を規制しました。この変化には数十年かかりました。軌道修正には、そのくらいの時間を要することがよくあります。AIの場合は、もっと早く実現することを願うばかりです。
テクノロジー導入で追いつこうと競争している新興経済国についてはどうでしょうか。どのような戦略が適切でしょうか。
実は、開発途上国や新興経済国については、より楽観的に見ています。現在の形のAIは、知識労働への参入障壁を下げると思うからです。タクシーサービスにGPS技術が導入されたときに似ています。ニューヨークや北京のすべての通りの名前を知っていることは、以前ほど価値のある技能ではなくなりました。デジタルプラットフォームで需要と供給を結びつける新しい企業が参入できるようになりました。また、AIによって言語の壁も大きな問題ではなくなりつつあります。これまで貿易やサービスの大半は、歴史的に英語圏の国々に限られていました。しかし機械翻訳により、より多くの国がサービス貿易に参加できます。新興経済国には、サービス主導型の成長を目指す現実的な機会があると思います。だからといって自動的に追いつけるわけではありませんが、低所得国にとって新たな追い上げの機会になると考えています。
それには、どのような制度の柔軟性が必要でしょうか。モデルの分散化でしょうか。
これを実現するのに、必ずしも技術の最先端にいる必要はありません。製造業で見られたことと似ています。自動車産業はデトロイトで生まれ、アメリカ西部の各地に広がり、やがて中国のような労働コストの低い地域へ移りました。この移転によって8億人が貧困から抜け出しました。今度はAIがサービス部門で同様の変化を引き起こすかもしれません。
最後に、AIのエネルギー消費についてどう考えますか。
第一次産業革命と蒸気機関の開発にさかのぼると、ジェームズ・ワットの名が蒸気機関と結びついているのは、彼が初めてそのエネルギー効率を高めたからです。AIには、まだその転機が訪れていません。AIインフラへの資本流入が非常に大きかったため、スケーリングを進めることができました。将来のモデルは人間に近づき、エネルギーとデータをより効率的に使い、わずかな例から学べるようになる必要があります。AI分野への資本流入が鈍化すれば、企業はデータ効率、計算効率、省エネルギー型AIにより注力することになるでしょう。最終的には、今日のスケーリング主導型パラダイムのもとでより深刻な制約となっているエネルギーの問題も、緩和されるはずです。



