AIが市民に成果をもたらすには、なぜデジタル公共インフラが必要なのか

Digital public infrastructure is shared digital building blocks that enable public and private providers to deliver services securely at population scale.
The convergence of digital public infrastructure and AI marks a fundamental shift in how states can deliver services and create public value.Image: fanjianhua/Freepik
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  • デジタル公共インフラ(DPI)はすでに数十か国でサービスを支えており、AIによってそれらのサービスを大幅に利用しやすくし、対応力を高めることができる。

  • 逆方向の関係も重要だ。相互運用性や信頼といったDPIの原則は、AIが大規模かつ安全で包摂的に機能するための基盤となる。

  • しかし、DPIとAIの融合は自動的に実現するものではない。政府はこれを国家の中核的な能力強化の課題として扱う必要がある。

ある母親が、高熱と発疹のある子どもを連れて地方の保健センターにやって来る。看護師は子どもの病歴を確認し、政府のキャッシュレス制度の対象となるかを確かめ、速やかに治療方針を決めなければならない。だが、今も長い列や紙のカルテがつきものであり、さらに悪いことに、不適切な対応を受けることも少なくない。

適切なデジタル基盤があれば、状況は変わり得る。本人確認は数秒で済み、同意を得て記録を取得でき、支払いは即時に行える。そして、シンプルな多言語対応のAI「エージェント」が、看護師に重要な手順を案内できる。

これが、デジタル公共インフラ(DPI)と人工知能(AI)が交わるところにある、実践的な可能性だ。

デジタル公共インフラが大規模なサービス提供を可能にする仕組み

過去10年間、多くの国がDPIに投資してきた。DPIとは、公共・民間のサービス提供者が、国民規模で安全にサービスを提供できるようにする、共有型のデジタル基盤である。

実際には、DPIにはデジタルID、即時決済、信頼できる登録簿、同意に基づくデータ交換の仕組みなどが含まれることが多い。これらにより、機関やサービス提供者の間で情報を安全にやり取りできる。例として、インドのアダール、統合決済インターフェース(UPI)、デジロッカーから、エストニアのX-Road、ブラジルのPixまでが挙げられる。各国の事情に応じて設計は異なるが、相互運用性、信頼、包摂という点で共通している。

いま、第二の変化が進みつつある。AIは実験段階から日常的な利用へと移行し、情報の迅速な検索、事例の要約、パターンの検出、意思決定の支援に役立っている。政府は、保健、教育、スキル開発をはじめとする幅広い市民中心のサービスで、AIを活用して提供体制を改善する方法を模索している。

世界DPIサミットは2025年11月にケープタウンで開催され、最近閉幕したAIインパクトサミットは2026年2月にニューデリーで開催された。これらの会合を通じて、二つの技術パラダイムが持つ可能性と将来性に改めて注目が集まった。

しかし、最も大きな機会は、デジタル公共インフラやAIを単独で導入することにはない。両者を融合させることにある。

一方には「DPIのためのAI」がある。AIを活用して、DPIを基盤とするサービスをより利用しやすく、より応答性の高い、運用しやすいものにすることだ。もう一方には「AIのためのDPI」がある。DPIの原則を用いて、AIをより安全で地域の実情に即した、包摂的なものにする基盤を築くことだ。両者は互いを強化する。

それでも、AI×DPIは大規模な展開に至っていない。融合が機能するには、AIが信頼できる基盤を通じて稼働できなければならないからだ。多くの国では、機関間のデータや業務プロセスが分断されたままで、連携の基盤が弱く、AIがそれらを確実に活用できない。また、AIが共有インフラとしてではなく、実証事業として資金を得ることもあまりに多い。再利用可能な構成要素、共通の運用モデル、リスクと成果に対する明確な責任体制がなければ、有望なデモも規模を拡大できない。

DPIのためのAI:デジタル基盤を市民中心のサービスにつなげる

現在、AIの能力は急速に高まっているが、その効果が広がる速度ははるかに遅い。ほぼ毎月、より高性能なモデルの発表に沸いているが、それは、助言を求める農家や病気の子ども、地方の学生にどのように役立つのだろうか。

DPIのためのAIとは、既存の基盤の上で成果と利用体験を向上させ、AIを国民規模で展開することだ。実践面では二つの形がある。

第一に、DPIに依拠する公共サービス、つまりID、決済、データ交換を基盤とするサービスを改善できる、分野横断的なAI機能がある。

たとえば、インドのバシニ・イニシアチブは、AIを活用した多言語対応と音声支援を提供し、主要な国家基盤(アダール、UPI、デジロッカー)と連携している。言語AIが中核的なDPIの利用範囲と使いやすさを広げられることを示す例だ。

同様に、アフリカン・ネクスト・ボイスプロジェクトは、ナイジェリア、ケニア、南アフリカで18言語にわたる9,000時間分の音声を収録し、AI対応データセットを作成した。共通規格、相互運用可能な形式、明確なメタデータ、適切な管理の下での共有といったDPIの原則を言語データに適用すれば、機関や国をまたいで分散する音声データセットをまとめ、再利用可能な「交換対応」データ資産にできる。

AIが教師に取って代わるのではなく、その力を高めることを示す証拠も出てきている。ブラジルで、即時のフィードバックを目的に開発されたAI搭載の作文採点ツールを無作為化評価したところ、個別に合わせたフィードバックによって生徒の成績が向上し、教師は1対1の指導により多くの時間を割けることが示された。相互運用可能な学習者記録と共通の学習基準、同意に基づくデータ交換、信頼できる登録簿への進捗記録を可能にするDPIは、支援の対象を絞り、その実施状況を追跡できるようにし、公共システムでの展開を支える。

AIのためのDPI:主権あるAIの基盤を築く

AIのためのDPIは難しく、目立ちにくいが、同じように重要だ。公共分野でAIを活用するために必要な基盤を提供するもので、特に重要な基盤は三つある。

1. 信頼できるデータ基盤

たとえばオープンAPIに基づくデータ交換など、DPIのアプローチを採用すれば、公共目的で地域の実情に即したデータセットを入手する際の障壁を減らせる。地域の言語、文化、人口構成を反映した高品質の「AI対応」データを作成できる。地域データが限られている低・中所得国の多くで、これは重要な意味を持つ。

さらに、ハーバード大学の研究によると、広く使われているAIモデルの多くには文化的な偏りがあり、世界人口の限られた一部の価値観を反映している。65か国の調査データと照合すると、主要なAIモデルの価値観や推論パターンは西側民主主義諸国のものに集中している。これは、多様な人々にサービスを提供するよう設計されたDPIシステムには適合しにくい。

強固な地域データ基盤がなければ、こうしたモデルの導入によって、公共サービス、教育、ガバナンスに不適合な前提が持ち込まれ、給付、信用供与、ケアに関する判断に偏りが生じるおそれがある。インドのAIコシュなどの取り組みでは、地域のユースケースを支援するAIモデルの訓練に向け、DPIのアプローチを用いて地域の文脈に即したデータセットを収集している。

2. 計算資源を共有する道筋

DPIのアプローチの中核には、連携、相互運用性、共有可能性がある。同じ考え方はAIの計算資源にも当てはまる。共有型の計算基盤、サンドボックス、モデルリポジトリがあれば、管理を一元化することなく、イノベーターや公共機関が手頃な価格で拡張性のある計算資源を利用できる。インドのオープン・クラウド・コンピュート(OCC)や、IndiaAIミッションの下でスタートアップや研究機関にGPUを提供する取り組みは、DPIの考え方に沿った計算基盤の例である。

3. AIサービスの運用に組み込まれたガバナンス

DPIへの信頼は、プライバシーとセキュリティを設計段階から確保すること、相互運用性、明確な説明責任といった原則がシステムに組み込まれていることから生まれる。同じ原則はAIの利用にも重要だ。データへのアクセス方法やモデルの訓練・展開の方法に、同意、透明性、監査可能性、説明責任を組み込む必要がある。これにより、国規模で安全かつ包摂的で信頼できるAIシステムを実現するとともに、政府がAI開発を導き、監督するための手段を得られる。

この三つの基盤が一体となることで、DPIは公共の利益を重視するAIの背骨となり、社会を代表し、強靱で、公共の価値観に沿ったAIシステムを可能にする。

政府のリーダーに向けた現実的な行動課題

公共部門のリーダーにとって、DPIとAIの融合は転換点となる。国家がサービスを提供し、公共価値を創出する方法を根本から変えるものだ。公共部門のリーダーは、次の点に注力すべきである。

今回、変えるべきなのは、取り組み全体の統括方法だ。これまでの波では、縦割りのアプリや単発のAI実証事業が生まれたものの、規模拡大に苦労してきた。DPI×AIの成果を上げるには、優先する成果、運用とリスクに対する責任、サービス間で再利用できる共通の基盤を明確にした上で、複数省庁が連携する国家能力強化の一体的な課題として扱う必要がある。

DPIがすでに信頼を生み出している領域から始め、AIで日常の煩雑さを取り除く。ID、決済、信頼できる書類、登録簿、許可に基づくデータ共有など、DPIの基盤をすでに活用している利用頻度の高い手続きから、いくつかを選ぶ。市民や現場職員がそうした基盤をより使いやすくなるよう、実践的な形でAIを適用する。

たとえばプライマリ・ヘルスケアでは、本人確認と同意に基づく医療記録へのアクセスにより、同じ質問を繰り返す必要を減らせる。AIはこれらのDPIを活用して必要な情報をすばやく見つけ、手続きをより迅速かつ正確に完了できる。

DPIの上に少数の共有型AI機能を構築し、複数のサービスで再利用する。多くのDPI対応サービスを一度に強化する機能に投資する。たとえば、多言語・音声インターフェース、不備のある申請を減らす書類・フォーム作成支援、決済や給付を守る異常検知などがある。

主権あるAIの基盤を築く。共有型で拡張性のある公共AI基盤に投資し、共有データ交換と連携型の計算資源を通じて、輸入モデルへの依存を減らし、地域のスタートアップ、研究者、中小企業のイノベーションへの障壁を下げる。

政府にとっての機会は明らかだ。DPI×AIを国家の中核的な能力強化の課題として扱うことである。断固として行動する政府は、自国の事情に即したインテリジェント・システムを形づくるだけでなく、より良い市民中心のサービスも提供できる。

最終的に、あの母親が再び診療所を訪れたとき、看護師は技術システムの操作に費やす時間を減らし、ケアの提供により多くの時間を割けるはずだ。本人の同意の下でIDと記録を確認でき、支援を迅速に提供でき、明確で説明責任のある形でAI支援がサービスに組み込まれているからだ。

著者らは、BCGのプロジェクトリーダーであるアディティヤ・シャルマ氏に、本稿への多大な貢献について謝意を表する。

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