AIはがんの複雑さを解き明かせる――まずデータ基盤を整備すれば

Cancer researchers in a lab, as AI is helping to make breakthroughs.
Today, most cancer research still happens lab by lab, dataset by dataset.Image: Unsplash/National Cancer Institute
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  • 膨大な共有データセットによって、現代のAIはコーディングや人間の推論のような複雑なタスクを習得できました。

  • しかし現在、データがサイロ化・分断されているため、機械学習はがん免疫療法における命を救うブレークスルーを実現できずにいます。

  • 標準化された基盤と世界規模の連携によって、AIに対応した研究ネットワークを構築すれば、創薬を加速できる可能性があります。

大規模言語モデルが文章を書き、コードを作成し、推論する能力を身につけたのは、シェークスピアからソフトウェアのリポジトリまで、膨大な共有データセットで訓練されたからです。規模、標準化、オープンアクセスが、現代のAIを可能にしました。

がん研究にも、同じ取り組みが必要です。

AIモデルはすでに、数十億の変数にまたがるパターンを検出できます。医療に応用すれば、どの患者が治療に反応するかを予測し、治療法が効かない理由を明らかにし、臨床試験に進む前に薬剤の組み合わせをシミュレーションできる可能性があります。免疫細胞と腫瘍の間で何百万もの動的な相互作用が治療結果を左右する免疫療法では、こうしたパターン認識が変革をもたらすかもしれません。

機械学習システムの性能は、訓練に使うデータの質に左右されます。

科学の準備は整っています。残念ながら、データ基盤は整っていません。現在も、がん研究の大半は研究室ごと、データセットごとに進められています。貴重な情報はサイロの中にあり、機関のファイアウォールに阻まれたり、補足ファイルに散在したり、互換性のない形式で保存されたりしています。研究成果が発表されても、元となるデータは不完全(肯定的な結果だけに偏っている)であったり、再現が不可能であったりすることが少なくありません。

機械学習システムの性能は、訓練に使うデータの質に左右されます。データセットが分断され、一貫性を欠けば、そこから得られる知見も分断され、一貫性を欠きます。共通の基準と集約されたデータがなければ、アルゴリズムがどれほど強力になっても、AIはがん治療の複雑さを解き明かす助けにはなりません。

AIで治療法の発見を加速させるには、まず訓練に使える適切なデータ基盤を築かなければなりません。

データの共有が重要な理由

今は、かつてないほど重要な局面です。一方では、生物学が新たな時代に入りました。シングルセル技術や空間解析技術によって、免疫系をかつてない解像度で観察できるようになりました。どの細胞が存在するかだけでなく、空間のどこにあるのか、どのように相互作用し、時間とともにどう変化するのかまで分かります。がんとその治療を、生きた動的なシステムとして測定できるのです。他方では、AIのアーキテクチャが進歩し、ゲノム、空間、経時的なデータなど、まさにこうしたマルチモーダルデータを、人間には処理できない規模で取り込めるようになりました。

測定ツールと計算ツールが初めて足並みをそろえました。しかし、連携の取れた基盤がなければ、計り知れない機会を逃すおそれがあります。

その影響は仮定の話ではありません。再現できない研究は、推定280億ドルの損失をもたらします。米国だけで年間この額に上り、問題はアクセスから始まります。Center for Open Scienceが、最も影響力のあるがん研究から193件の実験を検証しようとした際、その大半について試みることさえできるだけの情報を入手できませんでした。8年かけて完了できた50件の実験のうち、同じ結果が得られたのは半数未満でした。データは有料の壁の向こうにあったり、ファイル保管庫に埋もれていたり、あるいは一度も共有されていなかったりしました。また、『BMC Medicine』掲載の研究によると、一般公開されている腫瘍学データはわずか16%で、他の研究者が実際に利用できる基準に照らすと、1%を下回ります。

命がスピードに左右される分野で、この非効率は容認できません。AIが発見を加速する可能性を秘める今、それは最大の障害となっています。

基盤の構築:CRI Discovery Engine

Cancer Research Instituteでは最近、この隔たりを埋めるため、CRI Discovery Engineを立ち上げました。独自のデータベースではなく、この分野全体で共有する基盤としてです。

スタンフォード大学医学部、ペンシルベニア大学ペレルマン医学部、メモリアル・スローン・ケタリングがんセンターの研究者、そして技術パートナーの10x Genomicsとともに、免疫療法データの生成、構造化、共有の方法を標準化しています。目標は明快です。資格を持つ研究者なら誰でも利用できる、大規模で統合されたAI対応データセットを作ることです。参加する科学者たちは、初期の知見をデータベースに提供し、学術研究のサイロを解消することを約束しています。初期段階の後には、世界中の外部研究者もデータを追加でき、価値が継続的に高まる生きたリソースとなります。がん免疫療法研究に共通言語をもたらし、結果の再現性と比較可能性を高め、AIから利用できるようにすることを目指しています。

重要なのは、こうした取り組みが関係者のインセンティブを一致させて初めて機能することです。企業が知的財産を守るのは当然です。個々の研究室は評価や研究資金をめぐって競い合います。しかし、がんのような病気は組織の境界にとらわれません。治療法では競争しながら、データ基盤は共有する「競争前の連携」が欠かせません。

ここで非営利団体や官民パートナーシップが重要な役割を果たせます。関係者を集め、基準を定め、単独の組織では構築を正当化できない資産を築くのです。

今後に向けて

がん研究の次のブレークスルーは、一つの研究室や一つのアルゴリズムから生まれるのではありません。同じ基盤に立つ科学者、臨床医、技術者、政策立案者のネットワークから生まれます。

何千ものがんと治療法の組み合わせから得られた統合データで訓練されたAIモデルを想像してみてください。研究者は、仮説をシミュレーション実験で検証し、 実際の実験に移る前に結果を確かめられます。臨床医は治療開始前に、効果が見込める患者を特定できます。ある機関で得られた発見が、別の機関の進展をすぐに加速させることもできます。

これは壮大な夢物語ではありません。基盤整備です。道路、送電網、インターネットといった他のインフラ事業と同じく、調整、基準、共同投資が必要です。

AIは、がんの複雑さを解き明かす助けとなるでしょう。しかし、アルゴリズムだけで命を救うことはできません。真に必要なのは、人間と人工の知性がともに学べる共有基盤を築くことです。それを実現できれば、何十年もの発見を数年に縮められます。

患者にとって、その時間は些細な指標ではありません。生存に関わる時間です。

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