企業がこの技術を活用して、知的で直感的かつ欠陥のないソリューションの試験導入を進めるなか、AIはビジネスと金融市場のあらゆる側面を根本から変えていきます。
AIによる変革は時間をかけて進みますが、その導入は常に慎重かつ責任あるものでなければなりません。
各国のリーダーが集うのは、世界経済フォーラム年次総会2026です。AIやその他の新興技術を倫理的に活用することで、現実世界の課題に対する解決策をどのように生み出せるかを探ります。
テクノロジーと世界市場は、常に相互に支え合う関係にあります。金融サービス業界は、投資活動や仲介業務の改善と効率化に向け、イノベーションを積極的に受け入れ、導入し続けています。
業界が将来を見据えるなか、企業が組織全体でテクノロジーの統合をさらに深めるにつれて、イノベーションは今後も大きな差別化要因となり、事業を加速させるでしょう。企業が戦略目標を達成するために導入できる、最も強力で変革をもたらすテクノロジーの一つがAIです。
AIは、10年以上続くと見込まれる長期的な大変革のなかで進展するメガトレンドです。AIによる変革は時間をかけて、さまざまな速度で進みますが、この画期的な技術の導入は常に慎重かつ責任あるものでなければなりません。 企業がAIの試験導入を本番環境へ展開し、知的で直感的かつ欠陥のないソリューションの開発に活用することで、AIはビジネスと経済活動のあらゆる側面を根本から変えるきっかけとなるでしょう。
AIは金融市場をどのように変革するのか
世界の証券取引や市場インフラの分野では、企業が高頻度取引でアルゴリズムへの依存を強めるなか、AIが重要な役割を果たすでしょう。リアルタイム取引に必要な多様なデータセットを追跡し、即座に処理するシステムは、トレーダーが市場動向を予測し、より正確に取引を判断する助けとなります。
AIの予測モデルや分析機能は、異常や不正の可能性を検知できるため、市場監視やコンプライアンスのモニタリングも強化します。決済や規制当局への報告など、取引執行業務の自動化は、手作業によるミスや運用コストの削減につながります。総じてAIは、取引後のライフサイクルに伴うリスクをさらに低減し、私が所属するDepository Trust & Clearing Corporation(DTCC)と業界が、事後対応型から予測型の対応へと移行し続けることを可能にします。それにより、レジリエンスも向上するでしょう。
DTCCが描く未来像は、AIを活用して資本市場における最も複雑な課題のいくつかを解決することです。業界の多くの企業と同様に、当社のAI活用はまだ初期段階ですが、実験を経て本番環境への導入に進むなかで、すでに成果が表れています。例えば、顧客体験を高める効果や知見の提供を目的として、AIツールを導入しました。DTCC初の顧客向け生成AIツールであるRisk Calculator AI Assistantは、導入後、約97%の精度を達成し、 ハルシネーションはゼロ を実現しました。これにより、Risk Calculatorの利用に関する、従来は多くの手作業を要していた文書確認にかかる顧客の時間を大幅に節約しています。
さらに、顧客対応チーム向けに、分断されたデータを一つの対話型インターフェースに集約する新機能も開発しました。この生成AI搭載アシスタントにより、チームは文脈に即した知見をすぐに引き出し、より迅速で的確、かつ個々の顧客に合わせた対応を大規模に提供できます。また、顧客との会議の準備期間を1週間から1日に短縮し、データ収集から知見の創出へと重点を移すことで、導入後の生産性を最大4倍に高めています。
データがAIにとって最も重要な資産である理由とは
AIに関わるあらゆる取り組みをつなぐ共通項はデータです。DTCCでは、世界の取引活動の中心に位置するという独自の立場を基盤に、強固なデータ基盤を構築しています。目標は、企業が現在直面する主要な運用上の課題に対応する、影響力のある新たなソリューションを開発することです。AIの取り組みを成功させるには、容易に利用・発見でき、整理され、明確にラベル付けされたデータが不可欠です。分析に最適な状態にするため、メタデータも豊富でなければなりません。データセキュリティは最優先事項であり、適切な権限を付与された場合にのみ安全にアクセスできるようにする必要があります。
AIの力を十分に引き出すには、企業はデータ機能に投資し、堅牢なデータガバナンス基盤とデータ品質を確保する効果的なツールを備えた最新の技術スタックを整える必要があります。こうした取り組みは、拡張性、柔軟性、コスト削減、データ保護の強化、プライバシー、コンプライアンスなど、変革をもたらす効果を生むと期待できます。
AIを活用して知識を生かすには
人的資本の観点から見ると、AIは従業員がより戦略的で付加価値の高い業務に集中できるようにする、最大10倍の力をもたらすものと期待されています。イノベーションの時代において、AIは人間の代わりではありません。従業員は今後も学び続け、最新のAI動向を把握して、これからの職場でスキルや知識を通用させていく必要があります。
AIツールについて従業員を教育し、活用できるようにすることで、新たな能力が身につき、全従業員がAIを理解し、あらゆる職務でAIを活用できる企業文化が築かれます。DTCCでは、AIスキル向上のための幅広いプログラムやソリューションを提供しており、AIエージェント構築用の専門ツールも含まれています。従業員のAI導入率が高く、AI学習プログラムにも積極的に参加していることをうれしく思います。AIは間違いなく、資本投入を抑えながら大きな価値を生み出す手段です。人間が最も得意とする創造し、つながりを築き、リードする仕事に専念できるようにします。
この1年だけでも、より多くの企業がエージェント型AIを使って独自のデジタルエージェントやワークフローを作り、働き方のあらゆる側面を変革し始めたことで、AIの勢いは増しています。AIをビジネスモデルやエンドツーエンドのプロセスに統合すれば、顧客サービス、データ、分析、全体的な生産性を高め、企業がバリューチェーンを上昇する助けになると期待されます。
最終的に、あらゆる業界の企業は、AIの恩恵によって金融市場、投資家、消費者が新たな、あるいはより大きなリスク、脅威、脆弱性にさらされないよう、強固なAIガバナンスとコンプライアンスの枠組みを維持する必要があります。それでもAIの将来像は明確です。AIは大きな技術的推進力となり、企業と従業員が組織全体の成果を最大化する助けとなるでしょう。

